『Rexat』はかくして作られていた…。「オーディオテクニカフクイ」の開発・製造現場を詳細リポート! | Push on! Mycar-life

『Rexat』はかくして作られていた…。「オーディオテクニカフクイ」の開発・製造現場を詳細リポート!

『Rexat(レグザット)』シリーズのケーブル類をはじめ、車載用オーディオアクセサリーの銘品各種をリリースしている国産ブランド、「オーディオテクニカ」。その開発生産拠点が東京都町田市と福井県越前市にあることを、ご存知だろうか。

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株式会社オーディオテクニカフクイ
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  • 市橋さんによって、“4工程端面研磨”が行われている様子。
  • 市橋さんによって、“4工程端面研磨”が行われた完成品。

『Rexat(レグザット)』シリーズのケーブル類をはじめ、車載用オーディオアクセサリーの銘品各種をリリースしている国産ブランド、「オーディオテクニカ」。その開発生産拠点が東京都町田市と福井県越前市にあることを、ご存知だろうか。

当サイトでは日々、カーオーディオに関する情報をお伝えしているのだが、これまで“物作り”の現場の様子を紹介する機会が極めて少なかった。今回はいつもとは少々趣向を変えて、社会科見学的な特集を企画した。「オーディオテクニカ」のご協力の下、カーオーディオ製品の開発・製造場面のリポートをお届けする。「オーディオテクニカ」では、かくしてこだわりの製品が生み出されていた…。

■高精度で製品を造り上げるためのコンディションが整った立地。

今回取材させていただいたのは福井県にある工場。その正式名称は「株式会社オーディオテクニカフクイ」。同社は、「オーディオテクニカ」の100%出資の子会社である。1962年に設立された「株式会社オーディオテクニカ」の国内のアナログレコードカートリッジ生産工場として1970年に操業を開始し、1973年に同社から独立し、設立されている。

現在、同社で開発・生産が行われているのは、ヘッドホン、マイクロホン、オーディオアクセサリー、半導体レーザー関連製品、光学器機等。具体的には、カラオケ用のコードレス・ワイヤレスマイクロホンや音響機器、アナログレコードプレーヤー用のカートリッジ、会議用のマイクシステム、そして、『Rexat』シリーズのデジタルケーブル、『AquieT(アクワイエ)』の各製品等だ。

なお、今回同社社屋内を案内してくださった数々の『Rexat』製品に携わってきた市橋政信さんにお聞きしたところによると、同社工場内で作られている製品は、「多品種小ロット製品」、「高級製品」、「特殊製品」に絞られているとのことだ(それ以外の製品やパーツは、県内、国外の協力会社にて製造されている)。そしてなんと、それらはすべて“ハンドメイド”で組み上げられている。工場というと、生産ラインがあり、産業ロボットが活躍する風景を思い浮かべる人も多いだろうが、「オーディオテクニカフクイ」の製造現場では、ロボットの姿はない。

ちなみに、新社屋は2010年10月に竣工されたものなのだが、建っている場所は山のふもと。しかしながらこの立地にこそ優位性があるという。それは、振動や外来電波の影響が極めて少ない、という点。精度高く音響試験や電波試験を行うための(つまりは製品クオリティを高く保つための)コンディションが整っている、というわけなのだ。

■音響機器メーカーならではの設備、『無響室』と『電波暗室』。

では、社屋内の設備の中から特に興味深かった箇所を、重点的に紹介していこう。

まずは、『無響室』から。天井、壁、床のすべてが吸音装備で覆われた、文字どおり、一切音が響くことのない部屋である。人が歩く床は中空に浮いていて(網の上に機器が置かれ、人が歩けるようになっている)、床で音が反射することもない。

この部屋では、マイクの周波数特性や、音圧レベル、指向性特性、『AquieT』の振動減衰性能などが測定される。これらを測定するためには、反射音が発生することはNGなのだ。

音が反射しない空間では、人は平衡感覚が利きにくくなるとのことだが、確かになんとも不思議な居心地。工場見学に訪れる児童・生徒たちの中には、気分を悪くしてしまう子も少なからずいるという。

続いては、『電波暗室』を紹介したい。写真を見ていただきたいのだが、見た目的には『無響室』の大型タイプ、という趣きのこの部屋は、その名のとおり、電波を出す製品の特性を調べるための部屋である。『無響室』では、部屋の中で音が反射するのが抑え込まれていたのだが、『電波暗室』では、電波の反射を抑え込むのと同時に、壁全体に“フェライト”が仕込まれていて、外からの電波も遮断される。

なお、部屋の広さは国際規格に準じたものだ。「オーディオテクニカフクイ」の『電波暗室』は、サイズの大きな“10m法”に規定される設計で作られている。つまり、より本格的な仕様となっている、というわけだ。

同社では、電波を発する製品を多く製造している。海外用の製品も多く、国ごとで電波法が異なるために、それぞれの法律に合致しているかも検査する必要がある。さらには製品のソフトウエア制御機など微信号で動作する電子機器が多くなり、機器を制御する信号として走る高周波が、ノイズとして放射され、それが機能や音質に影響を及ぼすか否かも調べる必要がある。たとえばデジタルプロセッサーやデジタルプレーヤーなどからコアキシャルデジタルケーブルを介して発してしまう高調波ノイズなども含め高周波電波特性の計測の必要性に迫られる局面は多岐にわたっているのだ。

■蓄音機の歴史的名機の数々も保管、展示。しかもすべてが“完動品”。

続いては『音響ホール』を紹介しよう。この場所は、約80名を収容できる多目的ホールであり、ここでも製品評価(検査)が行われ、また同社の記念式典等の行事も行われるのだが、ここを紹介したい理由は他にある。この場所には、貴重な品々が保管されているからだ。貴重な品々とは、オーディオのルーツ“蓄音機”。創業者である松下秀雄氏によって集められた歴史的名機のコレクションが飾られているのである。氏のコレクション数は約250台にも上っていて、ここに並べられているものはそのうちの20台(福井県立こども歴史文化館にも約100台が寄贈されている)。

しかも、すべてが完動品。置かれている全機が、実際に音を鳴らせる状態にあるのだ。市橋さん曰く、「電子機器なら100年も経つと直せないかもしれませんが、機械は直せるんです」とのことだが、これらを直せるのも「オーディオテクニカ」だからこそだろう。

ここにはさらに、音に関するさまざまな実験装置も備えられていて、隣接する部屋では“ハイレゾ音源”も体験できる。音響の歴史や音の仕組みが幅広く体験可能となっているのだ。

そして、ハイライトは生産現場。先にも説明させていただいたとおり、ここではすべての製品が“ハンドメイド”で仕上げられていて、その作業風景が実に興味深かった。

ちなみに同社では、製品が“1人屋台生産方式”で作られている。この方式は“セル生産方式”とも呼ばれているもので、1人で製品組み立ての全工程を行う、という仕組みである。こうすることで製造途中の在庫を減らすことが可能となり、さらには「自分で作った」という意識を持ちやすい等々のメリットも生まれ、製品クオリティの向上も期待できるのだ。

「オーディオテクニカフクイ」では、かくもきめ細やかな“物作り”が成されていた。さまざまなニーズに応え得る多種多様な製品ラインナップを擁しているからこそ、このような生産体制が取られている、というわけなのだ。

■熟練の技で、オプティカルケーブルの研磨作業を実行…。

さらには、こんな現場も見ることができた。それは、『Rexat』のオプティカルデジタルケーブル『AT7791』の、最終仕上げ工程だ、その工程の名称は、“4工程端面研磨”。実は、これを担当しているのが、今回工場を案内してくださった市橋さんだ(当製品が収められている木箱の中に同梱されている越前和紙には、市橋さんの名前が製造者名として刻まれている)。

市橋さんは、同社内でほぼすべての部署を経験してきたベテランであり、2005年からは『Rexat』のデジタルケーブルの設計から製造までもを担当してきた。

なおこの“4工程端面研磨”とは、『AT7791』がハイクオリティたり得ているキーポイントの1つ。専用設計された信号を伝送する“高効率樹脂製コア材”の光ファイバー端面を手作業で磨き上げ、そうすることで端面部の透過率が上がり、更には光の乱反射も少なくなることで、ケーブルを通過する際に発生する“ジッター”が極限的なレベルにまで抑え込まれる。

市橋さんは、磨いているときの“音”で仕上がり具合を判断しながら、ペーパーを変えていき、最後には“1万番”という超細やかなペーパーで仕上げを行う。そして測定器にかけ、“ジッター”の減少を確認し、その後にコネクターを組み上げて『AT7791』を完成させるのだ(ちなみに『AT7791』については、特殊なガラス繊維に光ファイバーを通す作業までも、市橋さんによって行われている)。その仕事振りは紛れもなく“職人技”。丹念に、そして正確に、1つ1つの製品を完成させていた。

さて、今回のリポートは以上で終了だ。カーオーディオを愛好する方々にとっては特に、興味深い内容であったと思うのだが、いかがだっただろうか。

「オーディオテクニカ」は、1996年のアトランタオリンピック以降、全競技会場で同社のマイクロホンとヘッドホンが採用されるなど、世界に名を馳せる一大実力音響ブランドであるのだが、製品の開発・製造現場では、小回りを利かせながらのきめ細やかな“物作り”が実践されていた。その様子を目の当たりにして、同社製品のクオリティが高い理由が腑に落ちた。「オーディオテクニカ」が世に送り出す製品の性能の確かさを、疑う余地はなさそうだ。

《太田祥三》

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