カーオーディオ『用語解説・2021』 Section 1・スピーカー編 第5回「パッシブクロスオーバーネットワーク」とは? | Push on! Mycar-life

カーオーディオ『用語解説・2021』 Section 1・スピーカー編 第5回「パッシブクロスオーバーネットワーク」とは?

カーオーディオでは専門用語が多々登場する。結果、ビギナーを困惑させることとなる。当特集はその解消を目指し、用語解説を展開している。今回は、スピーカーに付属されているパーツである「パッシブクロスオーバーネットワーク」について説明していく。

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「パッシブクロスオーバーネットワーク」の一例(シンフォニ/クワトロリゴ・エロイコシリーズ)。
  • 「パッシブクロスオーバーネットワーク」の一例(シンフォニ/クワトロリゴ・エロイコシリーズ)。
  • 「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(フォーカル・ES 165 K)。
  • 「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(モレル・イレイトチタニウム602)。

カーオーディオでは専門用語が多々登場する。結果、ビギナーを困惑させることとなる。当特集はその解消を目指し、用語解説を展開している。今回は、スピーカーに付属されているパーツである「パッシブクロスオーバーネットワーク」について説明していく。

「パッシブクロスオーバーネットワーク」とは、音楽信号の帯域分割を行う装置!

ところで以前の記事で、市販スピーカーには「コアキシャルタイプ」と「セパレートタイプ」とがあると説明したが、「セパレートタイプ」のスピーカーには多くの場合、「パッシブクロスオーバーネットワーク」なるパーツが付属されている。さて、これは何なのかと言うと…。

結論から入ろう。「パッシブクロスオーバーネットワーク」とは、「音楽信号の帯域分割を行う装置」だ。これが必要となる理由は以下のとおりだ。例えば「セパレート2ウェイスピーカー」は、高音再生の専用スピーカーである「ツイーター」と中低音の再生を担当する「ミッドウーファー」とに役割分担させて音楽を再生する。スピーカーは振動板の口径が小さくなるほど高音再生が得意となり、口径が大きくなるほど低音再生が得意となる。なので口径の異なるスピーカーユニットを用意してそれぞれに得意な仕事に専念させれば、よりスムーズに音楽を再生できる。

そしてそのような再生方式が実行される際には、なんらか音楽信号の帯域分割を行う装置が必要となる。ゆえに市販の「セパレートスピーカー」の多くは、「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属しているというわけだ。

ところで“パッシブ”という単語には、「受動的な」とか「消極的」という意味がある。そしてこれの対義語は“アクティブ”で、こちらには「能動的な」とか「積極的」という意味がある。

で、カーオーディオ機器の中には「アクティブクロスオーバー」と呼ばれるものも存在している。これと「パッシブ~」とは「システム中にて組み込まれる場所」が異なっている。「パッシブ~」はパワーアンプの後段に組み込まれるが、「アクティブ~」はパワーアンプの前段に組み込まれる。“前”か“後ろ”かの違いが、“アクティブ”と“パッシブ”という言葉で区別されているのだ。

「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(フォーカル・ES 165 K)。「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(フォーカル・ES 165 K)。

リーズナブルなスピーカーでは、「パッシブクロスオーバーネットワーク」が省かれることもある!?

そして「パッシブクロスオーバーネットワーク」の“クロスオーバー”という語句が、「帯域分割」という意味を持ち、“ネットワーク”はこの場合「装置」という意味を持つ。というわけで「パッシブクロスオーバーネットワーク」という言葉を丁寧に和訳すると、「パワーアンプの後段で音楽信号の帯域分割を行う装置」ということになる。

ところで、「セパレートスピーカー」であっても「パッシブクロスオーバーネットワーク」が付属されていない場合もある。特にリーズナブルな製品においては、コストを抑えかつ取り付け性を上げるためにこれが省かれることもある。

でも、ツイーターに対しては何らかの「パッシブクロスオーバーネットワーク」的なものは絶対的に必要だ。なぜなら、ツイーターに中低音の信号を入力すると、簡単に破損してしまうからだ。なので「ツイーター」に対しては、中低音の信号をカットするための「フィルター」が必ず備えられることとなる。

対して、中低音を再生するスピーカーである「ミッドウーファー」は、高音の信号が入力されても通常の使用状況であれば壊れることはない。なので、コストを抑えようとするスピーカーにおいては、「ミッドウーファー」用の「パッシブクロスオーバーネットワーク」は省かれることとなる。

また、ハイエンドスピーカーにおいても「パッシブクロスオーバーネットワーク」が省かれることがある。なぜならば、ハイエンドシステムにおいては「アクティブクロスオーバー」が使われることが多いからだ。または、「パッシブ~」を付属するモデルと付属しないモデルの両方が用意されることもある。そうすることで、「アクティブクロスオーバー」を使うつもりのユーザーに対してより低価格でスピーカーを提供できるようになるからだ。

「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(モレル・イレイトチタニウム602)。「パッシブクロスオーバーネットワーク」を付属する市販スピーカーの一例(モレル・イレイトチタニウム602)。

「パッシブクロスオーバーネットワーク」は“アナログ機器”?

ところで、「パッシブクロスオーバーネットワーク」は“アナログ機器”だ。当装置の中には「コンデンサー」と「コイル」と呼ばれる素子が組み込まれていて、これらによって物理的に音楽信号の分割が実行される。「コンデンサー」には低音を通しにくいという性質があり「コイル」には「高音を通しにくい」という性質がある。これらの性質が利用され、音楽信号の帯域分割が行われる。

ちなみに「アクティブクロスオーバー」の多くは、帯域分割をデジタル処理にて実行する。一部、アナログ方式で帯域分割を行う「アクティブクロスオーバー」もあるが、現代カーオーディオにおいてはデジタル方式のものの方が使われる頻度が圧倒的に高い。ちなみに、デジタル方式の「アクティブクロスオーバー」とは、すなわち「デジタル・シグナル・プロセッサー(DSP)」である場合がほとんどだ。総合的に信号の制御を行う機器である「DSP」の中に「クロスオーバー」機能も組み込まれている。「クロスオーバー」機能だけで成り立っているデジタル機器はほぼない。

なお、マニアの中には「パッシブクロスオーバーネットワーク」を自作する強者もいる。自作することで、物理的なチューニングを行い音色をコントロールしようと試みられる。理想的な設定値で低音をカットできる「コンデンサー」を用意し、「コイル」に関してはそれ自体が自作される。設計および製作は簡単ではないが、興味があれば調べてみよう。

今回は以上だ。次回も、スピーカーに関連した用語の解説を継続する。乞うご期待。

太田祥三|ライター
大学卒業後、出版社に勤務し雑誌編集者としてキャリアを積む。カー雑誌、インテリア雑誌、そしてカーオーディオ専門誌の編集長を歴任した後、約20年間務めた会社を退職しフリーに。カーオーディオ、カーナビ、その他カーエレクトロニクス関連を中心に幅広く執筆活動を展開中。ライフワークとして音楽活動にも取り組んでいる。

《太田祥三》

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