HKSのこだわりが詰まったコンプリートエンジン、そこに至る歴史から “調律”というチューニングを紐解く | Push on! Mycar-life

HKSのこだわりが詰まったコンプリートエンジン、そこに至る歴史から “調律”というチューニングを紐解く

HKSという名前から多くの人が想像するのは超メジャーブランドのチューニングパーツメーカーであり、同社飛躍の中心となったターボチャージャーをはじめ、マフラー、サスペンション関連パーツなどの開発、製造、販売だろう。

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HKSのこだわりが詰まったコンプリートエンジン、そこに至る歴史から “調律”というチューニングを紐解く
  • HKSのこだわりが詰まったコンプリートエンジン、そこに至る歴史から “調律”というチューニングを紐解く
  • トヨタ 86とスバル BRZに搭載される、FA20 2.2LのHKS製コンプリートエンジン。STEP1/STEP2/STEP3で構成され、STEP3ではHKS謹製のタイムアタックマシン『TRB-03』のノウハウが注ぎ込まれた最強スペックとなる
  • 左からHKS製/純正のピストン。HKS製のピストンはオーバーサイズ形状とすることで、ピストンの精度向上に貢献する
  • 左から、STEP3/STEP1/ノーマルのコンロッド。STEP3では高出力化に対応するため、ロッド部が太く・短くなっている。より高回転に対応するべくショートストローク化されているのだ
  • 日産GT-R(R35)に搭載される、VR38DETTのHKS製コンプリートエンジン。ロングストローク化によって4255ccの排気量となり、高開度カムシャフトで高回転域の伸びも確保されている
  • 各燃焼室は磨きあげられており、手仕上げで鏡面加工された燃焼室と吸排気ポートは美しい仕上がり
  • HKSのレーシングメカニックによって細部まで完璧に仕上げられている。まさに職人技だ
  • 高温強度の高いA2618材を使用した削り出しピストン

HKSという名前から多くの人が想像するのは超メジャーブランドのチューニングパーツメーカーであり、同社飛躍の中心となったターボチャージャーをはじめ、マフラー、サスペンション関連パーツなどの開発、製造、販売だろう。

もちろんこの分野では世界のリーディングカンパニーなのだが、その根底にあるものはHKSの創業者である故・長谷川浩之氏が抱いた「自分の手で日本一、いや世界一のオリジナルなレーシングエンジンを作る」ことにある。

オートレース界で一世を風靡したHKSオリジナルエンジン『フジ号』

1973年に創業した同社は1年後の1974年には2リットルのレーシングエンジン「HKS-74E」という名のオリジナルエンジンを開発する。74Eは実用化こそされなかったものの、長谷川氏の心意気は常にオリジナルエンジンの開発であった。その後、HKSはオートレース用のエンジン製作に乗り出す。1981年に発売された「フジ号」と名付けられた600ccの単気筒エンジンは、それまでSOHCであったオートレース界にDOHC4バルブという手法を用いてアプローチ、業界に衝撃を与えた。その後フジ号は2気筒化され業界を席巻するに至る。

HKSのエンジン製作、エンジンチューンはオートレース用だけでなく、数多くのモータースポーツに進出。ドラッグレース用、富士グランドチャンピオン(GC)レース用、F3用、そして実用化こそされなかったがF1レース用の12気筒エンジンまで開発するという偉業を成し遂げる。モータースポーツの場を通して得られたHKSのエンジン開発のノウハウとテクノロジーは、市販車搭載エンジンのチューニングパーツ開発にも大いなる影響とスキルを与えることになる。エンジンパーツはじつに数多くのパーツから作られているが、その1つ1つを吟味したパーツ開発が行われている。

エンジンのチューニングはひとつのパーツで完了することはまずない。もしそうしたことがあるとすれば、致命的欠陥を持つ部位があり、その対策品を装着するというぐらいのことだ。これもある種のチューニングだが、それはほんの入り口に過ぎない。現在HKSでは、ブロックまわりの補強を含めたさまざまなアプローチでのチューニングを行っている。チューニングとはまさに調律であって、すべてのパーツがバランスよく働いてこそ、目標とする数値を引き出せる。それはHKSが用意している各種のパーツをただ組み上げればいいのではなく、さまざまな部分でノウハウを生かして組み上げることで、求める最高の性能を引き出せるのだ。

エンジンの調律師が組み上げるコンプリートエンジンの実力は?

エッチ・ケー・エス 第2開発部 PT商品開発課 課長 佐藤 文彦氏

そこでHKSが始めたのが「コンプリート」エンジンでの出荷だ。コンプリートエンジンとは、エンジン本体に必要なパーツを組み込んで、完成形とした製品のこと。このコンプリートエンジンは、ショップに向けて行っているビジネスで、パーツのように個人ユーザーがどこの店舗でも購入できるというものではない。HKSのコンプリートエンジンを搭載したい場合は、HKSがその技術を認めているショップであるHKSパフォーマンスディーラーに依頼する必要がある。

HKSのコンプリートエンジン出荷はじつはかなり前から行われていた。しかし、それは一般ユーザーが使うためのコンプリートエンジンではなく、レーシングチームへの提供であった。それを2017年の創立45周年記念事業の一環としてトヨタ86&スバルBRZ用のFA20型、日産GT-R用のVR38DETTからHKSパフォーマンスディーラー向けに出荷を始めたのだ。HKSとしてはエンジンチューンに必要なパーツをすべて購入+製作工賃料を支払ってもらえるため、売上のアップにもつながるほか、検証できていないようなパーツとの組み合わせによるトラブルも未然に防げる。つまり間違った考えで組み込まれてしまい、それが原因でトラブルが発生、HKS製品の悪評につながるという悪循環も防げるというわけだ。一方、ショップ側では信頼できる方法でセットアップされたエンジンが手に入るため、ショップ側で組み上げる必要がなくなるというメリットがある。

型式によって5パターンをラインナップ、求める性能を高品質で提供する

現在用意されているコンプリートエンジンはトヨタ86&スバルBRZ用FA20型、日産GT-R用VR38DETT用、日産スカラインGT-R用RB26DETT用の3種で、各エンジンにチューニングの度合いによっていくつかのバージョンが存在している。

FA20型はステップ1/ステップ2/ステップ3の3種のコンプリートエンジンを用意。いずれもボアを0.5mm、ストロークを4mm拡大し排気量を2116ccとしている。ステップ1はローコンプレッション過給器装着で対応最大トルク600Nm、ステップ2は同じく900Nm、ステップ3はHKSのタイムアタック専用マシン『TRB-03(Tsukuba Record Breaker)』のノウハウをすべてつぎ込んだ最強仕様となっている。

日産GT-RのVR38DETTは2種のコンプリートエンジンが設定される。いずれもボアはそのまま、ストロークを88.4mmから99.0mmと10.6mmも延長し3.8リットルだった排気量を4255ccにまで引き上げている。ステップ3と呼ばれるモデルがベーシック仕様で、メインスタッドボルト径のアップ、ブロック加工のネジサイズアップ、強化ガスケット、高開度カムなどをインストールしエンジンの寿命アップまでも行ったモデル。ステッププロはステップ3に加えてバルブシートにベリリウム、シートガイドにリン青銅を採用、燃焼室研磨仕上げ、#2&#3ベアリングキャップのクロモリ化、クランクシャフト&クランクプーリーのさらなる高品質化などが行われパフォーマンスアップが図られている。

スカイラインGT-R用RB26DETTは、従来から発売されているステップ2に加えて、2020年7月に最新モデルのハイレスポンスが加わる。いずれのモデルもクランクシャフトがフルカウンターに交換されストロークは77.7mm、ボアは87.0mmとなっており、排気量は2771ccとなる。最大出力の目安はステップ2が800馬力、またハイレスポンスは最大出力を700馬力程度に抑えながら、各部の軽量化と補機類の見直しによる徹底したレスポンス重視のチューニングとなっている。

2.8L STEP2 KIT、鍛造ピストン、鍛造削り出しH断面コンロッド、鍛造クランクシャフト

HKSはエンジンブロックこそ製造していないかもしれない。しかし、コンプリートエンジンの製造はまさにエンジンの製造そのものであり、故・長谷川浩之氏のスピリッツが今も息づいている事業である。ひとりの男が見た夢、その夢を共有しようとする人々のマインドの結晶が今、実を結んでいるのである。

HKSのノウハウが詰まったコンプリートエンジンの詳細はこちら

《諸星陽一》

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