サウンドステーション アンティフォン 松居 邦彦の『カーオーディオ そこんとこ、実際ど~なのよ?』 #36: 第3章 僕のオーディオは、日本語を発したことがない…(後編) | Push on! Mycar-life

サウンドステーション アンティフォン 松居 邦彦の『カーオーディオ そこんとこ、実際ど~なのよ?』 #36: 第3章 僕のオーディオは、日本語を発したことがない…(後編)

#36:
第3章 僕のオーディオは、日本語を発したことがない…(後編)

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サウンドステーション アンティフォン 松居 邦彦の『カーオーディオ そこんとこ、実際ど〜なのよ?』


#36:
第3章 僕のオーディオは、日本語を発したことがない…(後編)


前回の話に引き続き、松居さんにとっての新たな発見について綴っていただく。オーディオの奥深さも見えてくるはず。じっくりとお読みいただきたい。


前回、パイオニア・カーサウンドコンテストの課題曲が日本語の楽曲になったことをきっかけに、言語とオーディオの関係について考えてみた。今回はそのことに関係しながら、もう一歩踏み込んだ話をしてみたい。

日本語のCDを注力して聴くようになって気づいたことについて話してみたいと思う。それは、言葉の浸透力。「伝わる力」とでも言おうか。音楽を音として聴いていた僕は、言葉の訴求力について考えてこなかった。しかし、言葉には特別な力があった。今まで気にしていなかった大切なものが見えてきたように感じている。

ところで、僕のオーディオに日本語を染みこませようと思ってチョイスしたディスクは、昨年11月にリリースされた松任谷由実のベストアルバム『日本の恋とユーミンと。』。いざ聴いてみると、少し(実はかなり)引き込まれた。

ユーミンの存在は当然知っている。高校生の時先輩から進められてレコードを借りたことはあった。あの頃は別な音楽に夢中でそんなに惹かれなかったが、今は夜の帰り道で聴くと胸がキュンとなる。

字幕(目)から入ってくる言葉と、音(声)として入ってくる言葉とでは伝わり方が違うことを、改めて気づかされたのだ。

そんなことを感じながら改めて音楽を聴いていたら、調整についても新しい発見があった。

僕は2台のクルマにオーディオを組んでいる。AUDI(ダイアトーンのSA-1+カロツッエリアXのシステム)と、アルファロメオ(カロッツェリア・1000RSの3way+同・DEH-P01のシステム)の2台だ。2台とも同じ方法(方向性)で調整しているので、音楽的な方向性も一致している。解像度やS/N、「音色」などに多少の違いがあるが、それをそれぞれのシステムが持つ個性ととらえていた。

今までの僕は、声もインストルメンツと同じように音ととらえ調整していたのだが、歌声から伝わる言葉のイメージという今までと違った目線で両車の音を聴き比べてみたら、今までとは違った見え方がしてきたのだ。2台の音の違いをシステムの個性と思っていたのだが、それはすなわち音楽性の表現の差だったことに気がついた。

それぞれをこの目線で改めて微調整すると、ホリー・コールの声までも違って聴こえてきた。音楽性の表現を向上させることができたような気がする。

ところで、『日本の恋とユーミンと。』は、ユーミンのデビュー40周年を記念して発売されたベストアルバムで、荒井由実時代の楽曲も入っている。その頃の楽曲は、約40年前の録音なのだが、2000年代の作品より新しい感じさえする。すこし重い文学的な歌詞と、ノンビブラートな声が絶妙で、繰り返し聴いても飽きない。

インストルメンツも上質で、伴奏というより平行な感じで、色彩感にあふれている。楽器が沢山入ってくると、相対的に声の面積が小さくなるが、ストレートな声は常に中心に存在している。

一般的な録音は声のレベルを保ち、バックのレベルは出しゃばらないレベルに保つのが普通であるが、ユーミンの音楽では平等で、音楽的な役割も分担している。もしこれまでユーミンの音楽をあまり聴いてこなかった方がいらっしゃったら、このアルバムを聴いてみてはいかがだろうか。

さて、今回のパイコンの課題曲をきっかけにして、言葉と音、それぞれを楽しむのもオーディオの楽しみの1つあることに気がつくことができた。改めてユーミンの音楽の魅力に触れることもできた。そして、オーディオのHi-Fi化はアーティスト(作品)との対話を濃密にする、ということも改めて思い知ることができた気がする。自分にとっての新しい発見があるとわくわくする。だからオーディオは面白いのだ。

(※ところで前回、「パイオニア・カーサウンドコンテストの課題曲に初めて日本語歌詞の曲が選定された」と書いたが、これは誤りだった。以前にも、ル・クプルのボーカリストの曲が選定されたことがあったことを失念していた。あの頃は課題曲を使用せず調整をしていたので、記憶から消えていたのだ…。訂正させていただきたい)

《松居邦彦》

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