この記事で解決することは、AT車でもスポーツ走行を楽しめるのか、どんなチューニングが有効なのかを整理することだ。
◆AT車でもスポーツ走行は楽しめるのか
オートマ車で走りを楽しむことはできるのか。もともとはスポーツ走行には不向きで、普段乗りでもレスポンスの悪いシフトアップやシフトダウンによって、走りを楽しむことは難しいと言われていた。しかし近年のクルマはATの変速レスポンスや制御が大きく進化しており、それに付随するチューニングメニューも増えている。
かつてオートマといえばファミリーカー向けのものというイメージが強く、サーキットだけでなく山道でも走りを楽しむならマニュアルでなければならないと言われていた。しかし実はレースの世界では2ペダルドライブが主流になっている。
F1を筆頭にスーパーフォーミュラなどの各種フォーミュラカーは、スタート時にクラッチ操作をするだけで、走行中は2ペダルドライブが可能だ。SUPER GT車両も現在はクラッチペダルを使ったシフト操作を前提としない車両が中心になっている。つまりレースの世界では、2ペダルドライブはもはや特別なものではない。むしろ国内レースでマニュアルミッションを使って走るカテゴリーは、スーパー耐久シリーズやトヨタ『GR86』、『ヤリス』などのワンメイクレースが中心ということになる。
◆レースの世界で2ペダル化が進んだ理由
レースの世界で2ペダル化が進んだ理由は明確だ。ドライバーがクラッチ操作から解放されることで、ブレーキングやステアリング操作に集中しやすくなり、シフトミスのリスクも抑えられる。さらにパドルシフトによって変速時間を短縮できれば、ラップタイムにも有利に働く。つまり2ペダルは楽をするためだけの仕組みではなく、速く正確に走るための技術として使われているのだ。
一方で、街乗り用のAT車がそのままサーキット走行に向いているわけではない。ミッションの耐久性、油温管理、変速制御、LSDの有無など、走りを楽しむためには車種ごとの弱点を把握する必要がある。
◆AT車チューニングのメリットと注意点
チューニングカーの世界では、今もマニュアルミッションが主流だ。しかし日産R35『GT-R』はオートマしか存在しない。登場当初は、オートマで500ps近いパワーに耐えられるのかと話題になった。結果として、ある程度の対策チューニングは必要になるものの、1000psを超えるパワーでも走行できる実例が生まれている。
もちろん、あらゆるオートマがスポーツ走行に対応しているわけではない。街乗り重視のATで無理なサーキット走行を続ければ、油温上昇や変速ショック、クラッチやバルブボディへの負担が問題になる。その対策として有効なのがスポーツ走行に対応したATFへの交換だ。オイルメーカーからはスポーツ走行用ATFも発売されており、シフト操作のレスポンス向上や滑り感の低減が期待できる。
ただしATF交換にも注意点がある。車種や走行距離によっては、安易な交換でフィーリングが悪化することもあるため、AT車のチューニング経験があるショップで相談することが大切だ。サーキット走行を前提にするなら、ATFクーラーの追加や油温管理も検討したい。
◆シフトダウン予約機能でATスポーツ走行はさらに進化する
最近では86など一部車種に限られるが、シフトダウンの「予約」ができる装置も販売されている。この「予約」とは、AT車のスポーツカーに一部採用されている機能で、サーキット走行時に例えば6速からシフトダウンパドルを4回引くと、ブレーキを踏んで減速するに従って徐々に2速まで落ちる仕組みだ。
トヨタ『86』/スバル『BRZ』では、それぞれのギアで許容回転数になったタイミングでシフトダウンパドルを操作しないとギアが落ちていかない。つまりブレーキングからコーナリングへ移る最中に、シフトダウンパドルを連打しなければならない場面がある。そこで後付けでこの「予約」機能を追加できる装置が登場している。これにより、ドライバーはブレーキやライン取りに集中しやすくなり、AT車でもより自然なスポーツドライビングが楽しめるようになる。
◆86 BRZではATの方がパワーアップに向く場合もある
意外と見逃せないのが、MTよりATの方が許容パワーに余裕があるケースだ。86/BRZではマニュアルミッションが強度面で不安があるとされ、NAチューンでは大きな問題になりにくいものの、ターボ化などでパワーを上げると厳しくなることがある。300psに到達すると、かなり負担が大きいとされている。
一方で86/BRZのATはパワーアップを余裕を持って受け止められるケースが多い。400ps程度でも問題になりにくいとされるのは、ベースとされるATがIS Fなどに使われていたものと言われており、もともとの耐久性が高いからだ。そのため、パワーアップチューンを安心して楽しみたいユーザーにとっては、ATという選択がむしろ有利になる場合もある。
◆FF車のATスポーツ走行はLSDが鍵になる
FF車ではATだとLSDが組み込めず、サーキット走行ではトラクション不足が問題になっていた。しかし人気のスイフトスポーツ向けには待望の機械式LSDが登場した。これによってトラクション不足が解消され、2ペダルのスポーツドライビングがより現実的になっている。
もともとZC33Sでは6AT化され、変速レスポンスも良好だった。そこにLSDを組み合わせることで、FF車でも2ペダルスポーツ走行を本格的に楽しめる環境が整ってきた。ただしLSDを組むと、街乗りでの作動音やステアリングの重さ、タイヤへの負担が増えることもある。普段使いとのバランスを考えるなら、イニシャルトルクや効き方の設定をショップと相談することが重要だ。
◆AT車でスポーツ走行を楽しむための比較軸
AT車でスポーツ走行を楽しむなら、単に「ATかMTか」で考えるのではなく、次の比較軸で判断したい。
- 変速レスポンスが十分か
- ATFや油温管理に対策できるか
- LSDなど駆動系のチューニングが可能か
- パワーアップ時のミッション許容度は十分か
- 街乗りでの快適性をどこまで残すか
- サーキット走行と普段使いの比率はどれくらいか
MTは自分で操る楽しさに優れる。一方でATは操作の正確性や速さ、パワーアップ時の耐久性で有利になることもある。つまりスポーツ走行におけるAT車の魅力は、楽をすることではなく、よりスマートに走りを組み立てられる点にある。
◆AT車チューニングは急速に進化している
このようにAT車でのスポーツチューニングは急速に進んでいる。スポーツATF、シフトダウン予約機能、LSD、油温管理、ミッション対策などを組み合わせれば、AT車でもサーキットやワインディングを十分に楽しめる。もちろんデメリットもある。車種によっては対策パーツが少なく、ミッションへの負担や熱対策が課題になることもある。だからこそ、AT車で走りを楽しむなら車種ごとの特性を把握し、信頼できるショップで段階的にチューニングを進めることが大切だ。
ATはもはや「走りを諦める選択」ではない。2ペダルでスマートに、そして速く正確にスポーツドライビングを楽しむ時代が本格的に始まっている。



