ブレーキパッド選びは大は小を兼ねない。良かれと思って「どうせならちょっと高めのパッドにしよう」と高額なパッドを買うと、意外とスポーツ性能が高すぎて街乗りでは扱いづらいこともある。そんなブレーキパッド選びは色気を出すほど難しいというお話だ。
ブレーキパッドは比較的安価に購入できて装着もしやすいが、それでいてブレーキフィーリングの変化はとても大きいパーツである。特にサーキット走行やワインディングを走るなら、純正ブレーキパッドからスポーツパッドへの交換をおすすめしたい。そのときにどんなパッドを選ぶかが重要なポイントになる。
◆純正ブレーキパッドの特徴と街乗りでの強み
まず純正ブレーキパッドは樹脂や繊維などがメイン成分で、ノンアスベスト材やオーガニック材と呼ばれる素材でできている。これらの素材は扱いやすく、ブレーキは低温時から滑らかに効いてくれる。ブレーキダストも少ないのでホイールが汚れにくく、価格も非常にリーズナブルだ。
だがスポーツ走行をするとなると、話は変わってくる。樹脂と繊維がメインの成分であるノーマルパッドでサーキット走行を続けると、パッドの温度が上がり、樹脂が燃えてガスが発生する。このガスがパッドとローターの間に入り、パッドが一時的に浮いてしまってブレーキが全く効かなくなる現象をフェード現象と呼ぶ。フェード現象が起きると瞬時に制動力を失い、大きなクラッシュやアクシデントにつながることもある。
◆スポーツパッドと焼結パッドの耐熱性と注意点
そこで作られたのがスポーツパッドと呼ばれるものだ。樹脂や繊維も含まれているが、鉄を筆頭にさまざまな金属を加えることで耐熱性を高めている。樹脂が減り、金属成分が増えることで高温時にガスが発生しにくくなり、フェード現象が起きにくい。
究極は焼結パッドと呼ばれるもので、金属成分がほとんどを占め、それを焼き固めたブレーキパッドのことだ。このパッドは高温になっても金属主体なのでガスが発生しにくく、フェード現象は起きにくい。だがその代わり、ブレーキが冷えているときは摩擦材がうまく溶けて皮膜を形成できず、十分に機能しない場合がある。
皮膜がうまく形成できないと金属成分がローター表面をゴリゴリと削り、あっという間にパッドもローターも減ってしまう。これは極端な例だが、こうした傾向はスポーツパッドでも起こり得る。
スポーツパッドにはストリートメインからサーキットメインまで幅広い種類があり、サーキット向けになるほど金属成分が多く高温に強い。その一方で街乗りなど普段の温度域で使うと、パッドもローターも短期間で摩耗しやすい。そして、一般的にサーキット寄りのパッドほど価格は高くなる。
◆「高い=正解」じゃない、使い方で決めるブレーキパッド選び方
このような特性があるため、ブレーキパッドを変えようと思ったとき、「せっかくだから上のモデルを」とスポーツパッドを選ぶと、知らないうちにサーキット寄りのモデルを選んでしまい、普段乗りでパッドやローターを無駄に消耗させることがあるのだ。
高いモデルほど良いものと思ってつい手を伸ばしがちだが、ブレーキパッドにおいては高いモデルほどサーキット向けのスポーツ性能が高く、街乗りでは扱いにくいものも多い。さらに街乗りの温度域で使うと、異常に摩耗が進むケースもある。だからこそブレーキパッド選びは、「ちょっと良いものを」という発想よりも、自分の使い方や求めるブレーキフィーリングに合わせた選び方をするのがおすすめである。



