【マツダ CX-60】「まぎれもなくFR」を極端なまでに表現した…チーフデザイナー[インタビュー] | Push on! Mycar-life

【マツダ CX-60】「まぎれもなくFR」を極端なまでに表現した…チーフデザイナー[インタビュー]

マツダの新型SUV『CX-60』は、新開発のラージプラットフォーム、即ちFR(後輪駆動)をベースとして生まれた。FRを採用することでマツダSUVのデザインはどう変わるのか。CX-60のチーフデザイナー、玉谷聡さんは「骨格にきちんと特徴を持たせたかった」と語る。その真意とは。

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マツダ CX-60
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  • マツダ CX-60デザインスケッチ
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マツダの新型SUV『CX-60』は、新開発のラージプラットフォーム、即ちFR(後輪駆動)をベースとして生まれた。FRを採用することでマツダSUVのデザインはどう変わるのか。CX-60のチーフデザイナー、玉谷聡さんは「骨格にきちんと特徴を持たせたかった」と語る。その真意とは。

◆名実ともに「骨格の意味」をそのまま表現できた

CX-60はこれまで多くのメディアでも触れられてきたようにラージプラットフォームを採用する第1弾のSUVだ。これまでのFF(前輪駆動)ベースではなく、FRを想定したもので、デザインへの影響や手法も大きく変わる。それを踏まえてのこだわりをCX-60のチーフデザイナー玉谷聡さんは、「骨格にきちんと特徴を持たせたかったんです」と話し始める。

「あ、FRだねというレベルではなく、まぎれもなくFRだね!というぐらいのとこまで行きたくて。今回のパワートレインの形態は、6発(直列6気筒)エンジンがあって、トランスミッションがあって、トランスミッションと6発エンジンの間にモーターも入っています。つまり普通の6発エンジンよりもさらに長いわけですよ。それがフロントタイヤとリアタイヤの間のフロントミッドシップあたりに載っていますから、昔の直6よりも後ろに載っているんですよね。ですから余計フロントタイヤとAピラーの位置は物理的に離れていくので、そこはちょっと極端に表現したかったんです」

「極端に表現したかった」その理由とは。

「道行くクルマがざっと何百台も走っていく中で、お!いまの何?みたいな、チラ見でも分かる違いをしっかりと練り上げたいなと思ったんです。実はデザインしていたら隣から見ている人が、ちょっとAピラーを戻した方がいいんじゃないの、その方が美しくない?っていうんですね。単体としての美しさのバランス、心地いいバランスといった方がいいかもしれませんが、見て違和感のないバランスを探すとしたら、そうなるでしょう。しかし、僕が表現したいのはそうじゃないんです。ちょっと行き過ぎているような、少し違和感を覚えるぐらいのところまで(Aピラーを)引きたいと。その結果としてどんな角度から見ても、キャビンがちょっと引いている少し極端なデザインになりました。もちろん異常なところまではいっていないですよ。それを量産になっても消えないようにすることが、僕の目標だったんです」とデザイナーとしてのこだわりを見せる。

このプロポーションはFRだからこそ出来たもの。Aピラーの付け根から真っ直ぐに下におろしたラインとフロントホイールから後ろに向かって真っすぐに引いたラインが交わる距離が長いほどエレガントさを醸し出す法則にも当てはまる。従って、このプラットフォームを手に入れたからこそできたものでもあるのだ。

玉谷さんは、「これまでも後ろ足に軸を置いて、前に向かって蹴り出すプロポーションを作っていましたが、骨格はどちらかというと無理やりそれに合わせてやっていたんです。しかし今回は本当に名実ともに骨格の意味をそのまま表現できるわけですから、他部門に対して骨格をこうしてくれ、ああしてくれと1度もいわずに、ただそれを自分なりにもうちょっと(骨格の特徴を)強調して、さじ加減したというぐらいですね」とデザインの立場からはほとんど注文はなかったようだ。

「本当に、骨格に根本的な意味を込めています。極端にいえば“That's it”なのです。あとはデザイン要素をその動きに全て合わせていく。本当にシンプルなんですが、そのひとつの動きがしっかりと完結するように全ての要素を合わせ込んでいくことにはものすごく神経を使いました」

◆サイドの光の移ろいへのこだわり

玉谷さんはデザインのプレゼンテーションにおいて、「Cピラーから前に向かって力を掛けるようなデザインした」と説明をした。通常であればCピラーはリアタイヤに向けて力を掛けていくようなイメージになるのだが、「これは力の表現の抽象化です。後ろに“ピッ”と伸ばしていくのはCX-60の前後長と高さとのバランスの中では使えないなと思ったんです。もっとぎゅっと低くてクーペルックで、後ろに流しながらも力を表現できる。薄い中で凝縮した力があればできるんですね。チーターの走るイメージでは、伸び切ったところもあれば、きゅっと縮んで蹴る前といういうのもありますよね。ですから、CX-60の場合はそういう躍動感にむしろ(力の向かう方向に)使おうと思いました」。

それに加えてもうひとつ理由があった。

「ボディサイドの光によって、力の動きを表すように作っていこうとした時に、我々は、ボディサイドの光の移ろいを表現しています。ただこれはもちろんクルマによって全部違うんですね。ふわっと下ろしたり、前からすとんと下ろしたり。今回は前から後ろに向かって上げてきて、(前に)戻すようにしたんです。そういう動きも含めて、力を溜めたものをバーンって解放する。それはリアタイヤの付近であれば前向きだろうが、後ろ向きだろうがいいと思うんです。なぜなら前に向かう跳躍のイメージはショルダーで表現できるからなんですね。リアコンビからフロントコンビに向かって前に抜けるところはマツダのお家芸ですけど、リアをぎゅっと絞って、前に向かってバーンと解放していく。これで加速感を表現するんです。水平方向にしつつも、この光をわっと前に広げていくことで、若干クラウチングしたニュアンスが出てくる。それも含めてこのスピード感だけは大事にしています」

つまり、前に向けてのスピード感と、リアをとにかくアクスルに向かってエネルギーを集中して、そこから前に向かって力を発散させていく。「かなり抽象的な力の表現ですけれど、実はそれしか表現してないんです」と、クルマ全体から見て取れる力の動きや光の移ろい、それに伴う立体の構成までのこだわりを語る。

さらに、こういった表現の場合、キャラクターラインを入れることでわかりやすくなるが、CX-60の場合は面での表現にこだわった。そこで壁となったのが「全幅」だったという。

「これは勇気がいりますよ。しかも今回高さがありますし、全幅がCX-5より増えています(1845mmから1890mm)。ただこれはエクステリアには1mmも使っていないんです。全部インテリア。トランスミッションが大きくなりましたし、人間中心のペダル配置もきっちりやっています。空間もきちっと取っていくと、人の乗る位置が左右で50mm離れて、そのぶんサイドウインドウが人から50mm離れて、結果として全幅が50mm広がって。しかしエクステリアエリアは何も変わらないままで、結果として造形しろが少なくなる。そのうえ高さがありますから、もうこれは難しいことずくめなんですよ。その中で光を大きく動かそうとしましたから、そこは本当にエクステリアで1番苦しんだところです。CX-5と同じ造形しろのまま、全幅が増えて行っているんですから」

「前から後ろに光が移ろうテーマがあって、まずはこういう光が欲しいんだとモデラーに話をして作ってもらいました。ただこれを表現するには幅があと30mmずつ要りますといわれたんです。でもそれがないんだよと。それでもこの大きな動きだけは絶対実現しなきゃいけない。なぜ幅が取れないかというと、1890mmからそれ以上広げていくと、商品性が劣っていきますよね。そこでまずはこの大きな動きを1890mm全部使ってやりました。その結果、全幅はリアフェンダーのアーチ部分が最も出ているところになったんです。そうするとそこの下はフラットになってしまうので、一旦ぐっとえぐり込んで、もう一度光が集まるようにしています」

◆「Cピラーではダメ」フロントフェンダーのバッジのねらい

CX-60では、実はマツダとしては珍しくフロントフェンダーにアクセントが入った。玉谷さんは、「実は“なし”の方がイケてます(笑)」と話す。

「光の変化でいくと、ここは一等地なんです。そこを潰すっていうことがどうかなと思ったんです。ただ、色々なエンジンラインアップがあって、その中でPHEVのハイパフォーマンスを持っているんだと誇れるのがこのバッジしかないんですよね。そう考えると、お客さんにもこのクルマはスペシャルなんだと感じてもらいたかったし、ちょうどこの位置に誇れるエンジンがあるということを我々も誇りたい。それでここに入れましょうということになりました」

フロント部分の長さがあるからできたことでもあるのだが、Cピラーではダメだったのか。そこにはやはり玉谷さんが語る「光の動き」があった。「フロントフェンダーは後ろから前に行くムーブメントなので邪魔にはならない。しかし、Cピラーは上部に力を貯めて、そこから下に向けて力を払い落としてくるときに(このエンブレムがあると)止まってしまうので、それはだめなんです」と明確な答えがあった。

大きな面を動かしながらそこに意味を持たせることは、非常に抽象的になり受け取り方もまちまちになる。その上で玉谷さんは真摯にひとつひとつ説明する。それは、このデザインに対して絶対的な自信があるからだ。可能であれば走り去る姿だけでなく、太陽のもとで、夜の水銀灯に下でじっくりと眺めてみたい。そうすることで、光の移り変わりが十分に堪能できるだろう。

《内田俊一》

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