【シトロエン ベルランゴ 新型試乗】カングーではなくベルランゴを選んだ理由…中村孝仁 | Push on! Mycar-life

【シトロエン ベルランゴ 新型試乗】カングーではなくベルランゴを選んだ理由…中村孝仁

◆カングーにしなかった最大の理由
◆フィール、シャイン、デビューエディションの違い
◆豪華装備も実に小さな満足感であることに気付く

自動車 試乗記
シトロエン ベルランゴ。前がフィール、後ろが筆者のデビューエディション
  • シトロエン ベルランゴ。前がフィール、後ろが筆者のデビューエディション
  • シトロエン ベルランゴ フィール
  • シトロエン ベルランゴ フィール
  • シトロエン ベルランゴ フィール
  • ルーフスポイラーはデビューエディションにはない
  • フィールにはパノラミックルーフがない
  • ホイールは鋳鉄製だ
  • シトロエン ベルランゴ フィール

カングーにしなかった最大の理由

シトロエン『ベルランゴ』の販売は非常に好調だという。ただ面白いことは、ライバルであるルノー『カングー』からの乗り換えはほぼ皆無だということだ。

大袈裟な話ではなく、ルノー・ジャポンはカングー・ジャポンと改名しても良いほどカングーの販売比率が高い。それほどまでに愛される存在となったカングーには改めて敬意を表したいと思う。かくいう筆者もカングー購入直前まで行って踏みとどまった。理由はやはりPSA(グループPSAジャパン)広報氏からの一言「少し待たれた方が良いのでは?」であった。結果筆者は後発で登場したベルランゴを日常の足として今使っている。


カングーにしなかった最大の理由は、ADASの充実とディーゼルエンジンの存在だった。もちろん他にも8速ATの存在や、後席の3席独立形状、ガラスハッチの存在、そして何よりも開発時期が新しく、多くの点で使い勝手が向上していたからである。ところがこういう状況においてもなお、カングーをチョイスするユーザーが確実に存在するほど、カングーの人気は高い。恐らくそれはひとえに道具感の強さと独特な感性で作られたそのスタイリング、そして値段ではないかと思う。

筆者の購入したベルランゴは初期の「デビューエディション」と称するいわゆる限定販売されたもので、正規の日本仕様(カタログモデル)ではない。その後に正規の日本仕様が発売されて、新たに「フィール」と「シャイン」と名付けられた二つのグレード展開となった。今回試乗したのはそのうちベースグレードとなるフィールの方。筆者の持つデビューエディションはどちらかというと上級グレードのシャインに近いからまずはその説明からしようと思う。

因みに、正規の日本仕様はフィールが車両本体価格312万円、シャインの方は338万円(いずれも消費税込み)となり、デビューエディションはその中間的な325万円という価格となっていた。

フィール、シャイン、デビューエディションの違い


三者三様の違いがあるので、ひとまとめの違いの説明は長くなるから、ごく単純に大きな違いを披露すると、デビューエディションとシャインの大きな差は、シャインにセンターコンソールが装備されること。これによって後席へのエアコン吹き出し口が付いたことが最大の違い。他にも後席床下に床下収納が装備されることもある。その他は小さな違いだ。

一方でフィールとシャインの違いとなると、アルミホイール対テッチンホイール、フルオートエアコン対マニュアルエアコン、パノラミックルーフの有無。センターコンソールの有無と、以上のような主な違いがある。そうそうもう一つ大きな差がある。それはフィールの後席は6:4分割可倒式で、シャインのように3席分離独立式ではないことだ。

この種のシートの場合日本車だと後席中央にISOFIXの固定金具の付かないものが多かったのだが、シトロエンはちゃんとそれが用意されていたので、6:4分割可倒でも大きな問題はなかった。ただし利便性では圧倒的に3席分離独立式に分がある。


結局のところ、日本でルノー・カングーが愛されるのはその卓越した道具感とユーザー・エクスペリエンスの高さにあるような気がする。日本ではスライドドアと3列シートに代表されるミニバンの需要が非常に高い。子育てファミリーなどは広さと使い勝手、即ち道具感でミニバンを選ぶことが多いと思うのだが、そのスタイルを見るととても画一的で、遊び心が少ない。きっと機能を追求するあまりの結果だと思う。

それは不必要に高い車高だったり、リビングルーム的な豪華な仕様だったり、さらには特定の領域に特化した使い勝手だったり等々。そこへ行くとカングーにしてもベルランゴにしても全く豪華さなどは追求していない。そもそも作られた本国では商用車なのだから、その必要もない。従って内装の作りはかなりチープだ。チープといって単なる安物感を想像されては困るわけで、そうではなく作りはしっかりしていて豪華な素材を使っていないという意味である。

豪華装備も実に小さな満足感であることに気付く

フィールにはパノラミックルーフがない
新しいベースモデル、フィールを乗った後に我が家に生息するデビューエディションに乗ってみると、例えばパノラミックルールの解放感やフルオートエアコンの快適さは感じるものの、それは実に小さな満足感であることに気付く。

テッチンホイールになったからといって、タイヤサイズは同じ。恐らく若干バネ下重量が重くなっているかもしれないのだが、まあ走りに与えている影響はほぼ皆無である。それよりも2台並べてみて??となったのは、何故か地上高にだいぶ違いがあることだ。気になって測ってみたら、デビューエディションよりもフィールの方はほぼ2cm車高が高いことがわかった。一体その差が何であるかは現時点では不明である。

ただ、試乗しても乗り心地はどちらも快適至極であることに変わりはなく、個人的には突き詰めていけば、道具感という点ではシャインよりもフィールに軍配が上がるという結論を導き出した。ADAS系の装備も基本的にはシャインとフィールは同じ。フィールでもACCは装備されるから、それを設定して高速を走ると間違いなく長距離の疲労は軽減できる。

ホイールは鋳鉄製だ
26万円の価格差で、オプションを購入するのが得策な気がした。今回試乗車のフィールについていたのが、ナビゲーションやフロアマットなど必需品を除くと、BEWITHという日本メーカーの高級オーディオである。借り出す時に、是非音を聴いてくれと言われた。PSAでは同じフランス製のFocalを遡及してきた。今回BEWITHを聴かせていただいて、申し訳ないが個人的には断然Focalよりも上という印象を受けた。

そもそも、かなりベルランゴやプジョー『リフター』のボディ構造を研究したうえで作っているようで、その音の再現性は見事。これなら欲しいと思うオーディオに仕上がっている。道具感満載のクルマには正直言えば不相応だが、これは素直に良いと感じたものだった。

PSAは今年から社長も交代し、日本市場を知り尽くした元ボルボ・カー・ジャパン社長である木村隆之氏が就任した。ベルランゴのユーザーエクスペリエンスを高める施策を打って来れば、カングーの強敵になることは間違いない。

BEWITHのオーディオ

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

《中村 孝仁》

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