日本一の“プロショップ”に訊く。システム構築のコンセプト、音作りの方法論… | Push on! Mycar-life

日本一の“プロショップ”に訊く。システム構築のコンセプト、音作りの方法論…

去る7月13日と14日の2日間にわたり、静岡県の「ツインメッセ静岡」にて開催された『第5回ハイエンドカーオーディオコンテスト』。同大会は紛れもなく、国内屈指のハイレベルなサウンドコンペの1つだ。その中に、プロショップ同士が覇を競い合うクラスがある。

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アンティフォン・デモカー ポルシェ・マカン。
  • アンティフォン・デモカー ポルシェ・マカン。
  • アンティフォン、松居代表。
  • アンティフォン・デモカー ポルシェ・マカン。
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  • アンティフォン・デモカー ポルシェ・マカン。
  • アンティフォン・デモカー ポルシェ・マカン。
  • アンティフォン(石川県)。

去る7月13日と14日の2日間にわたり、静岡県の「ツインメッセ静岡」にて開催された『第5回ハイエンドカーオーディオコンテスト』。同大会は紛れもなく、国内屈指のハイレベルなサウンドコンペの1つだ。その中に、プロショップ同士が覇を競い合うクラスがある。

その名は『ディーラーデモカー部門 ディーラーデモカークラス』。当クラスでは毎回、他部門以上の白熱した闘いが繰り広げられる。

当サイトでは、そんな激戦のクラスを制した勝者に敬意を表し、優勝ショップの代表者インタビューを毎年掲載してきた。その恒例記事を今年もお届けする。

第5回大会の覇者は、石川県の実力ショップ“アンティフォン”だ。奇しくも、優勝者への副賞としてチケットが贈呈された“hisaka”さん(コンテストの課題曲の1つ『Valerie』を歌う女性アーティスト)のコンサートを鑑賞するために上京した同店代表の松居さんに時間をいただき、今回の優勝車のサウンドコンセプトや音作りの方法論等々を、じっくりと訊いてきた。

「ただ目の前に録音されたとおりのホログラフィックイメージが浮かび上がる…。それだけを目指しました」

最初に、優勝車両、ポルシェ・マカンのサウンドコンセプトから教えてもらった。

「録音されたものと“うり二つ”の演奏を再現することだけを目指しています。オーディオ機器はむしろその存在感を消し去り、ただ目の前にホログラフィックイメージが浮かび上がる…。それがコンセプトです。

ところで、オーディオを趣味とする人たちの価値観は多様だけれど、楽しみ方は大きく2つのタイプに分けられると思っています。1つは、オーディオ機器それぞれが内包する“思想”を読み解こうとする楽しみ方。例えば自動車で言うと、フランスのクルマはどうだとかドイツのクルマはどうだとか、ドイツの中でも北と南では味わいがどう変わるとか、そういうことが語られクルマという文化が楽しまれたりします。オーディオでも同様に、この機器だからこそこういう音が出るというように、機器の個性(思想)が楽しまれたりもしています。

もう1つは、録音された演奏どおりのステレオイメージを浮かび上がらせようとする楽しみ方です。僕自身は実は、かつては前者のような楽しみ方をしていました。しかし今は後者のようなスタンスでオーディオと向き合っています。

ちなみに後者のような考え方は、1970年代の中頃に“マーク・レビンソン”から『LNP-2』というプリアンプが発売され、それによって初めて示唆されました。『LNP-2』では“無味無臭”に、ただ録音されたものがそのまま再現されたのです。そして以後この概念は、“ハイエンド・オーディオ”と呼ばれるようになりました。

僕がこの概念を実践するようになったのは、1980年代の終わり頃からです。その当時僕は家庭用オーディオ機器の輸入業務も行うオーディオショップで働いていて、アメリカで開催される“CES”(世界的な電気・電子機器の見本市)に視察に行き、そこでその概念を具現化したオーディオシステムに接しました。そしてその音に衝撃を受け、以降“ハイエンド・オーディオ”を追求するようになったんです。その気持ちは今でもキープされていて、ポルシェ・マカンでもそれが愚直に実行されているのです」

理想的な2ウェイスピーカーである『ダイヤトーン・DS-SA1000』をチョイス。

続いては、ポルシェ・マカンで使われている機材について教えてもらった。

「“アンティフォン”では2台のデモカーを用意していて、それぞれで“ハイエンド・オーディオ”を追求するアプローチを変えています。ちなみにもう1台では、モレルのスピーカーで3ウェイを組み、ソースユニットにはウォークマンの上級機を使い、プロセッサーには“ブラックス”のハイエンドDSPを使用しています。

かたやポルシェ・マカンでは、フロントスピーカーには“ダイヤトーン”の『DS-SA1000』(2ウェイ)を使い、ソースユニット兼プロセッサーには“カロッツェリア”の『サイバーナビXシリーズ』を用いています。

ところで僕はこの『DS-SA1000』のことを、とても優れたスピーカーだと思っています。振動版の硬度がミッドウーファーとトゥイーターとでほぼ同じで、さらにワイドレンジで、2ウェイでオーディオバンドをカバーできるからです。

これは相当に画期的なことです。通常の2ウェイのミッドウーファーではそれが叶いませんので、振動板を正確にピストンモーション領域で低音から高音まで再生させたいと思うと、フロントスピーカーは3ウェイ化させるしか手がありませんでした。しかし、3ウェイにするとクロスオーバーさせる箇所が1箇所増えます。そしてクロスオーバーさせると、そこが音を濁すポイントになり得てしまいます。

しかし『DS-SA1000』なら2ウェイでフロントスピーカーシステムを完結できます。結果、音が濁る原因を1つ減らせます。また、マテリアルの硬度もほぼ統一されていて、これらは大きなアドバンテージになり得ます。

ちなみに言うと、理想はフルレンジスピーカーです。録音するマイクロフォンはフルレンジですから、再生するスピーカーもフルレンジであった方が利に叶っています。録音機器と再生機器とをイコールコンディションにできますから。しかし実際は、正確に鳴らせるフルレンジスピーカーはありません。結果、マルチウェイにするしかなく、クロスオーバーによって位相が回転して矛盾が生じる…。しかし『DS-SA1000』なら2ウェイでいけますから、矛盾の発生箇所を減らせます。理想に一歩近づけた、というわけなんです。

そしてサブウーファーに同じく“ダイヤトーン”の『SW-G50』を使用することで、さらに条件を整えられます。一層、理想に近づけられるのです」

サウンドチューニングにおいては、位相特性を整えることにひたすら注力。

続いては、ソースユニット兼プロセッサーについて教えてもらった。

「ソースユニット兼プロセッサーに『サイバーナビXシリーズ』を選んだのは、ハイレゾ音源の再生からサウンドコントロールまでをオールインワンで行えるからです。DAP+ハイエンドDSPというシステムでは、機器間で信号を伝送させる必要があり、場合によってはその途中にデジタル・フォーマット・コンバーターを挟む必要性も生じます。もろもろがシンプルではないんです。しかしワンボディの中でダイレクトに情報をやりとりできれば効率的です。

もちろん、高性能なDAPとハイエンドDSPを使うのも有力な選択肢です。これらにはこれらならではのメリットが備わっていますから。実際、もう1台のデモカーではそれを核にシステムメイクしていますし。しかしその一方で、ワンボディで完結させるのも1つのチャレンジだと考えたというわけです」

さて、サウンドチューニングの面ではどのようなアプローチが成されているのだろうか。

「位相特性を揃えることにとことんこだわりました。まずは、スピーカーが正確にピストンモーションを行える領域を見極めることから始め、その範囲内でスピーカーを動かせるようにクロスオーバーを設定し、“ステレオイメージをどこまで広く確保できるか”にチャレンジしました。

その上でタイムアライメントとクロスオーバーを煮詰めて、位相特性の整合性を高めていくことを目指しました」

最後に、松居さんにとってのオーディオ機器とはどのような存在なのかを訊いてみた。

「僕が望むのは、録音したままの音楽をそのまま再現する装置です。僕が接したいのは、リアルと錯覚するほどの臨場感です。

もしそれができたなら、亡くなってしまったアーティストを蘇らせることにもなります。こんなに素晴らしいことが他にあるでしょうか。

装置の存在は消え、ただ演奏そのものが目の前に広がる。そんな再生を、これからも目指し続けたいですね」

興味深い話をたくさん聞けた。もしも“アンティフォン”を訪問することが可能な地域にお住まいならば、2台のデモカーの音を聴き行ってみてはいかがだろうか。新たな発見に出会えることは、間違いない。

《太田祥三》

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