【フェラーリ 488ピスタ 海外試乗】決して、レーシングカーライクなスーパーカーではない…西川淳 | Push on! Mycar-life

【フェラーリ 488ピスタ 海外試乗】決して、レーシングカーライクなスーパーカーではない…西川淳

ピスタ。イタリア語でサーキットの意だ。フェラーリがそんな名称を、たとえごく限られたカスタマー向けだったにせよ、外連味なくロードカーに付けたとしたならば、その意味するところは明らかだろう。乗る人すべてにサーキットでの一流パフォーマンスを。

自動車 試乗記
フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
  • 西川淳氏
  • フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
  • フェラーリ 488ピスタ
ピスタ。イタリア語でサーキットの意だ。フェラーリがそんな名称を、たとえごく限られたカスタマー向けだったにせよ、外連味なくロードカーに付けたとしたならば、その意味するところは明らかだろう。乗る人すべてにサーキットでの一流パフォーマンスを。それが開発のメインコンセプトに他ならない。

要するに、サーキットで誰もが存分に楽しめるマシンだということ。しかし、その一方で、これは『488シリーズ』の派生モデルでもある。つまり、488と名乗るからには、当たり前のことだけれど、488として十分に使えなければならない。ロードカーとしての適性をできるだけ損なわないように仕立てる。それもまた、もうひとつの課題であったらしい。

結論から言うと、マラネッロは、どこのブランドも不用意に口にしては中途ハンパに終わらせてしまうそんな相反する課題を、この『488ピスタ』で見事に実現してみせた。フェラーリの聖地ともいうべきテストコースの“フィオラノ”と、マラネッロ周辺のカントリーロードの両方で存分に試した結果、辿り着いた結論がそれだ。

488ピスタはマラネッロ史上、最高のシリーズ生産ミドシップロードカーだと言っていい。

◆ほとんど新型車と言いたくなるほど、違っている

488ピスタは、488シリーズの高性能版=スペシャルシリーズ、という位置づけで、決して限定モデルではない(おそらく、過去の例から言うと、そのスパイダー版は限定となる)。とはいえ同時に、現行型V8ミドシップシリーズの締めくくりという意味合いもあるから、残された生産期間はさほど長くないと言えそう。結果的に、限られたロイヤルカスタマーにしかタマが回って来ない、という仕組みになっている。

V8ミドのスペシャルシリーズ(セリエ・スペチアーレ)は、『360モデナ』時代における「チャレンジストラダーレ」が最初だった。以来、『F430スクーデリア』、『458スペチアーレ』、と、いずれも大ヒット。過去のいずれのスペシャルシリーズにも熱烈なファンが存在しており、中古車マーケットでの評価もそれぞれが非常に高い。

けれども最新の488ピスタほど、スタイルから性能まで、ベースの488GTBと大きく異なったスペシャルシリーズは、かつてなかったと思われる。ほとんど新型車と言いたくなるほど、違っているからだ。

サーキット走行に重きをおいて開発されたがゆえ、徹底的な軽量化と、488GTE(耐久シリーズ用)や同チャレンジはもちろん、F1マシンからもヒントを得た、エアロダイナミクスやシャシーダイナミクス、パワートレーン技術を採りいれた。盛り込まれたサーキット由来のテクノロジーは、質量ともに歴代スペシャルシリーズ最高、らしい。

なかでも注目すべきはエアロダイナミクスだ。否、空力にこだわったからこそ、ノーマルとはまるで違うアピアランスをみせていると言ったほうがいいのかもしれない。

フェラーリファンもそのことはよく知っていて、発表されたときから、488シリーズとはまるで違う顔つきが評判となっていた。488チャレンジからの空力的フィードバックを採りいれており、カーボン製のバンパースポイラーとボンネット上のSダクトが、全く新しい表情を与えている。いかにもダウンフォースの出そうなツラ構えで、いっきに表情がアグレッシブに。

後方からの眺めも、いっそう華々しい。大型の平板リアスポイラーが新たに備わり、リアバンパーもチャレンジと同じ仕様のカーボンファイバー製となって、ディフューザーのレイアウトには488GTEのアイデアが盛り込まれている。

エンジン冷却用空気の導線も、488GTBのそれとはまったく異なっている。大きくえぐれた特徴的なサイドインレットから、ではなく、リアウィング脇に新たに設けられたインレットからエアは効果的に取り込まれている。上昇気流を招くよう新たにデザインされたブロウンダクトと相まって、リアのダウンフォースはGTB比で+25%となるなど、空力パフォーマンスもさらに向上させた。リアホイールアーチ後半のデザインも、最新のレーシングカー的となり、エアアウトレットも付け加えられている。

そのほか、第6世代となったサイド・スリップコントロールを筆頭に、シャシー制御システムにも磨きが掛かったが、説明し始めるとキリがない。もうひとつだけ説明しておくべきは、やはりエンジンに関することだ。488GTBに比べて50psアップという、スペシャルシリーズ史上で最大の馬力アップ(ベース比)を記録した。ヘッドやコンロッド、クランクシャフト、フライホイール、エキマニまで、半数以上のパーツが新設計となっており、軽量化はもちろん、レスポンスの向上なども計られた。フェラーリサウンドもボリュウムアップ。高回転域においてより甲高い音を発するという。

◆ドライビングを楽しく教えてくれるマシン

グレードアップされた仕様の話は尽きない。そろそろ、肝心の乗り味について報告しておこう。まずは、サーキットだ。

なによりまずは、エンジン性能に感動した。5000回転以上での力強さが、ノーマルモデルとはっきり異なっている。右アシが押し戻されるほどの力があって、踏めば踏むほどにノリまくるサウンドの変化も気持ちいい。しかも、レスポンスはあくまで鋭く、アッという間にレブリミットへと達した。

車体は常に路面に張り付いている。かといって、レーシングカーのようにフラットに吸い付いて離れない=腕っ節の強さが必要、という印象ではない。わずかなロールを感知しては、さほど緊張せずに攻め込んでいける。乗り易いのだ。

鋭く自由自在にノーズが動く。けれども、決してドライバーを不安がらせない。違和感もない。当然、ペースはどんどん上がる。調子に乗り過ぎてリアがブレークしそうになるが、初期の反応がまた、“誰にでも分かる”ほど穏やかで、かつ滑らか。それゆえ、プロでなくても余裕をもって対処できる。危ない瞬間、スローモーションになる感覚、といえば少しは想像してもらえるだろうか。スピンモードに陥ってしまうかも、なんて危うく失敗しそうな状況さえ事前に優しく教えてくれるから、楽しみながら自らの限界領域を高めていくことができそうだ。そう、488ピスタはドライビングを楽しく教えてくれるマシンでもあった。

一般道に出てみて、さらに驚いた。拍子抜けするほど、穏やかに走ったからだ。試しに助手席にも座ったが、前後左右のゲインの強さこそノーマルとはまるで違うレベルであったものの、乗り心地そのものは決して悪くなかった。優しく丁寧なドライブを心がけたなら、隣に乗る女性も気持ちよく乗っていてくれることだろう。

488ピスタは決して、レーシングカーライクなスーパーカーではない。誰もがサーキットを存分に楽しめるロードカーに仕上がった。このクルマがあったなら、もう、サーキットの近くに住みたいなんて思わなくて済みそう。サーキットまでのドライブも楽しめるからだ。マラネッロから買ってもいいよ、と言われるほど、財力と信用があれば、の話、だけれども……。

西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
《西川淳》

特集

page top