エンジンを守るうえで欠かせないのが水温と油温の管理だ。ただし冷却チューニングは温度を下げれば良いわけではない。重要なのは走行条件に応じて適温を保つことである。
普段の街乗りで冷却系のトラブルが起きるケースは多くないものの、高回転と高負荷が続くサーキット走行ではオーバーヒートの危険性が一気に高まる。冷却が追いつかなければエンジン本体に重大なダメージを与えることもある。
一方で、世の中にある冷却パーツを闇雲に取り付ければ良いわけではない。冷却チューニングの本質は単純に温度を下げることではなく、エンジンが本来の性能を発揮できる温度域に保つことにある。
◆エンジン冷却は水温を下げすぎても逆効果
まず理解しておきたいのが、クルマによって適正な水温が異なることだ。ひと昔前の車両では80~90度前後を基準とする例が多かったが、近年の低燃費・高効率エンジンには90~100度前後の比較的高い温度域で安定するよう制御されたものもある。
ただし適正温度は車種やエンジンの設計によって異なる。年式だけで判断せず、メーカーが想定する制御温度や実際の走行データを確認することが重要だ。水温が高すぎればノッキングや出力低下、冷却水の沸騰といったトラブルにつながる。一方で低すぎる状態が続くと暖機が完了せず、燃費や燃焼状態に悪影響を与える可能性がある。冷却チューニングでは次の2点を切り分けて考えたい。
・ストリート走行で適正温度を安定して維持できているか
・サーキット走行などの高負荷時に温度が上昇し続けていないか
街乗りで問題が起きていないクルマに過剰な冷却対策を施すと、かえってエンジン本来の制御を崩すことがある。
◆ローテンプサーモスタットが必要になる条件
冷却パーツとして知られているのがローテンプサーモスタットだ。サーモスタットは冷却水の温度に応じて開閉し、エンジンとラジエーターの間を流れる冷却水の量を調整する。
例えば90度前後に設定されたサーモスタットは、その温度付近から徐々に開き始める。水温が低い間は主にエンジン内部で冷却水を循環させ、暖機を促進する仕組みだ。純正ラジエーターは通常の街乗りや高速道路走行を想定した容量を備えており、正常な状態であればサーモスタットの作動温度付近に水温が保たれる。
ここに作動温度の低いローテンプサーモスタットを取り付けると、純正よりも早い段階からラジエーターへ冷却水が流れる。その結果、使用条件によっては水温が本来の適正値まで上がりにくくなる。水温が低い状態ではECUが暖機中と判断し、燃料を通常より濃く噴射する場合がある。これにより次のようなデメリットが生じる可能性がある。
・燃費の悪化
・カーボンや燃焼生成物の増加
・エンジンレスポンスの悪化
・ヒーター性能の低下
・エンジンオイルに水分が残りやすくなる
ローテンプサーモスタットは本来、サーキット走行や競技走行などで大量の熱が発生する場面を想定したパーツだ。純正より早くラジエーターへの循環を始めることで、温度上昇に対する余裕を確保する。
ただしラジエーターや走行風の条件が変わらなければ、冷却能力そのものが大幅に高まるわけではない。オーバーヒートに至るまでの時間を延ばす効果は期待できても、根本的な冷却不足を解消できないケースもある。
街乗りが中心で水温に問題がないクルマでは、ローテンプサーモスタットを導入する必要性は低い。まずは現在の水温を測定し、本当に温度対策が必要なのかを確認するべきだ。
◆冷却パーツより先に追加メーターを取り付ける
冷却系に手を入れる前に行いたいのが、水温や油温を数値で把握できる追加メーターの装着だ。純正の水温計はドライバーを必要以上に不安にさせないよう、一定の温度範囲では針がほとんど動かないように設定されている車種が多い。
針が中央を指していても、実際の水温が85度程度から100度近くまで変動しているケースは珍しくない。反対に針が高温側へ動き始めた時点では、すでに冷却系が限界に近づいている可能性もある。
そのためサーキット走行やスポーツ走行を行うなら、1度単位で確認できるデジタルメーターが有効だ。OBD接続タイプは取り付けやすいが、車種によって表示速度や取得できる項目が異なる。より正確な計測を求める場合は専用センサーを使う方法もある。計測時は最高温度だけでなく、次の点も確認したい。
・走行開始から何分で温度が上がるか
・連続周回で温度が上昇し続けるか
・クーリング走行で温度が下がるか
・水温と油温がどの程度連動しているか
・外気温によってどれほど変化するか
温度が上がったとしてもクーリング走行ですぐに下がるなら、冷却系には一定の余裕がある。反対にペースを落としても温度が下がらない場合は、ラジエーター容量や走行風の不足を疑う必要がある。
◆大容量ラジエーターは厚ければ良いとは限らない
追加メーターで確認した結果、サーキット走行中に水温が上昇し続けるなら、大容量ラジエーターへの交換が候補に挙がる。純正の薄いコアから2層や3層のアルミ製ラジエーターへ変更すれば、冷却水の容量や熱交換面積を増やせる。高負荷走行時の温度上昇を抑えるうえでは有効な方法だ。
しかし、ラジエーターは厚くすれば必ず冷えるわけではない。コアが厚くなるほど通風抵抗が増え、走行風が後方へ抜けにくくなる場合がある。エアコンコンデンサーやインタークーラーが前方に配置されている車両では、さらに風が届きにくくなることもある。大容量ラジエーターを生かすには、次のような対策が重要になる。
・グリルから入った風をコア全面へ導く
・ラジエーター周辺の隙間を導風板で塞ぐ
・コアを通過した熱気をエンジンルーム外へ排出する
・電動ファンとシュラウドの能力を確認する
・バンパー開口部やナンバープレートの位置を見直す
グリルから入った走行風がラジエーターの脇へ逃げてしまえば、コアを厚くしても十分な効果は得られない。導風板で空気をコアへ集中させ、ボンネットやフェンダーのダクトから熱気を排出するなど、入口と出口の両方を整える必要がある。
大容量化には重量増や冷却水量の増加、暖機時間が長くなる可能性といったデメリットもある。車両の用途や走行時間を考え、必要な容量を見極めたい。
◆油温管理はエンジンオイルの性能を守るために重要
水温と同時に注意したいのがエンジンオイルの温度だ。エンジンオイルは摩擦を減らす潤滑だけでなく、ピストンや軸受け周辺から熱を運び出す冷却の役割も担っている。油温が高くなりすぎると粘度が低下し、油膜を維持しにくくなる。一般的には120度を超える状態が長く続くとオイルの劣化が進みやすくなるが、許容温度はオイルの粘度や種類、エンジン設計によって異なる。
一時的に温度が上がることよりも、高温状態がどの程度続くかが重要だ。走行後も油温が下がらない場合や、周回を重ねるたびに上昇する場合はオイルクーラーの装着を検討したい。
◆オイルクーラーにも冷やしすぎのリスクがある
オイルクーラーは高温になったエンジンオイルを冷却し、油温を安定させるためのパーツだ。サーキット走行では有効だが、こちらも温度を下げすぎないことが重要になる。古いクルマでは80~90度前後、近年の車両では90~110度前後を通常の油温域とする例がある。ただし適正値は車種やエンジン、使用するオイルによって異なるため、メーカーの基準や実測値を確認したい。
オイルクーラーの容量が大きすぎると、街乗りや冬場に油温が十分に上がらなくなることがある。低温状態や短距離走行が続くと、クランクケース内に発生した水分が蒸発しにくくなり、オイルと混ざって白く乳化する場合がある。この状態を放置すれば潤滑性能に悪影響を与えるため、原因を確認したうえでオイル交換が必要になる。
ストリート走行とサーキット走行を両立させるなら、サーモスタットを内蔵したサンドイッチブロックを選びたい。油温が低い間はオイルクーラーへの流量を抑え、一定温度を超えるとクーラーへ循環させることで冷やしすぎを防げる。
ただしサーモスタット付きでも、コアの大きさや設置場所が適切でなければ十分な効果は得られない。走行風が当たる位置に設置するとともに、ホースの取り回しや排気系からの熱害にも注意が必要だ。
◆冷却チューニングは計測してから必要な対策を選ぶ
エンジンを守るための冷却チューニングは、パーツ交換から始めるものではない。まず追加メーターで水温と油温を計測し、どのような条件で温度が上がるのかを把握することが重要だ。
街乗りで適温を維持できているなら、ローテンプサーモスタットや大容量ラジエーターは必要ない場合が多い。サーキット走行で温度が上昇する場合も、いきなり大型パーツへ交換するのではなく、導風や排熱、冷却水やオイルの状態から確認したい。冷却系を見直す際の基本的な順序は次の通りだ。
水温と油温を追加メーターで計測する
冷却水やエンジンオイルの状態を確認する
ラジエーターやコンデンサーの汚れを点検する
電動ファンやサーモスタットの作動を確認する
導風と排熱を改善する
必要に応じてラジエーターやオイルクーラーを追加する
冷却チューニングで目指すべきなのは最低温度ではなく、安定した適正温度だ。クルマの使い方と実際の数値を基準に、必要な対策だけを選ぶことがエンジンを長く守ることにつながる。



