ホンダのBセグメントハッチバック『フィットRS』を500kmあまりドライブさせる機会があったので、レビューをお届けする。
現行の第4世代フィットが発売されたのは6年あまり前の2020年2月。エッジを目いっぱい利かせた旧型の第3世代フィットがモデルライフ途中で失速したことから、2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV」を投入しつつ第2世代の柔和系へと回帰を図った力作だったが、販売を回復させることができず、登場からここまで苦戦続き。第5世代へのバトンタッチがいつ行われるかは定かでないが、モデル末期であることには違いない。
「RS」は2022年10月の大規模改良時に追加された。改良でパワーアップが図られたハイブリッドシステムに専用チューンのシャシーを組み合わせ、ツーリングへの適合性を高めたグレードである。改変メニューはショックアブソーバー、バネ、スタビライザー&ブッシュ、専用タイヤ&ホイールなどわりと広範。フロントマスクにメッシュグリルが採用されているため、RSバッジを見ずともひと目で識別できる。
ドライブルートは埼玉・和光市を出発後、東京東部で燃料を満タンにしてから関越自動車道、国道254号線などを経由して長野中部に広がる標高1800mの高原、霧ヶ峰へ、帰路は高速を使わず一般道の国道20号甲州街道を経由して埼玉に帰着するという1泊2日ルートで、総走行距離は559.9km。季節は温暖期、全行程晴天、1名乗車、エアコン常時AUTO。
レビューの前にフィットRSの長所と短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 高負荷運転が多かったにも関わらず秀逸至極な燃費。
2. 前期型に比べて明確に向上した動力性能。
3. ノーマルに比べて軽快な走り。
4. 広々とした車内と荷室。
5. 大衆車としては十分に高い静粛性。
■短所
1. 日産『ノートオーラNISMO』のようなスポーツ性はない。
2. 車内の色使いが少々陰気。
3. 後席ドアのアームレストの位置が前方に寄りすぎで若干窮屈。
4. 後席を倒した時に床面が完全フラットにならない。
5. ヘッドランプが若干暗め。
◆総論

ではレビューに入っていこう。フィットRSはノーマルに比べて軽快な操縦性と高いフラット感を持つ、ちょっとしたロングツーリングにおあつらえ向きのクルマだった。ノーマルとの差はそれほど大きいわけではないが、ステアリングを切ったときの反応の良さ、路面がうねっているような箇所での揺れの収まりの素早さなど、気持ち良さに焦点を当てたチューニングはなかなかのものだった。
元々フィットは車内の広さ、シートアレンジメント、収納の豊富さなどの実用面では国産Bセグメントハッチバックの中でダントツ。その美点はRSもしっかりと受け継いでおり、後席のドアアームレストが前過ぎて肘まわりがタイトに感じられること、後席を倒したときの荷室の床が完全フラットにならないなどのネガティブファクターもあるものの、実用面については多くのユーザーを満足させることウケアイという感じであった。ビッグマイナーチェンジで改良されたハイブリッドシステムのパワー感、実走燃費は大変良好で、実用性に華を添えた。
そんなフィットRSだが、ちょっとした走りの良さを持つベーシックカーという玄人好みのキャラクターはそのまま弱点にもなる。大衆車は基本的に味で勝負するのが難しい。ノーマルとの微妙な味の違いを感じ取り、それを自分にとってのメリットと受け取れるユーザーは少数派で、理解されにくいからだ。たとえば競合モデルの日産自動車『ノートオーラNISMO』は走り出した瞬間から前輪の路面への貼り付きっぷりが伝わってくるし、山岳路などでのパフォーマンスやフィールもノーマルとは全然違う。それに比べるとフィットRSは“キャラ立ち”が弱いのが何とも惜しい。平均的なユーザーでもすぐに理解できるスポーティな演出がもうひと味加わると、存在感が俄然違ってくると思うのだが。
◆走行性能、快適性

第4世代フィットの走行フィールは元々悪いものではなく、市街地、高速、山岳路とシーンを選ばず軽快で快適。フィットRSはその足を少し引き締めたようなセッティングだが、足を固めたことによる乗り心地悪化、ロードノイズ増大等の弊害はほとんど感じられず、路面がうねっているときのバウンシングの減少、コーナリングからの脱出における揺り戻しの少なさ等のプラス効果が一方的に目立つという印象だった。
RSの足が光ったのは夜中に皆既月食を見るため、長野の立科町から霧ヶ峰に駆け上がったときで、タイトコーナーが連続する区間でも前述の落ち着いた動きにより、無用な緊張を強いられることなく安心して走ることができた。最近の中信エリアは鹿の数が激増し、白樺湖を過ぎて森林限界の上に出ても鹿が飛び出してきたりする。このドライブ時も一度、直前に鹿が子連れでガードレールを飛び越えてきたのをダブルレーンチェンジで避けるというシーンがあった。ステアリング入力への応答性が高いクルマでよかったと思った次第だった。

タイヤはヨコハマ「ブルーアースGT AE51」で、サイズは185/55R16と、フィットシリーズで唯一のロープロファイル。このタイヤは乗り心地、ロードノイズは現代のタイヤの中で月並みだが、ロードホールディングのしっとり感は結構高く、そのタイヤセレクトもちょっぴりスポーティというフィットRSの性格にマッチしているように感じられた。
このように高感度の高いシャシーチューンではあったが、ボディにまで手を入れたノートオーラNISMOのような、巌の如き鉄壁のグリップ感が得られるわけではない。フィットもこれを標準とし、RSはもう少しスポーティな仕立てにという感じでもいいのではないかと思ったりもした。
フィットの持ち前である快適性については、前述のようにRSチューニングによってほとんど損なわれていない。舗装面の劣化部分やワダチ、うねりへの追従性が向上し、フラット感が高まったという点はノーマル系と比べてもかえって良かったのではないかと思うくらいだった。ロードノイズや外部騒音の遮断も大衆車クラスでは優れているほうで、1000kmドライブなどでも疲労は小さくてすむことだろう。
◆動力性能、燃費

フィットシリーズは2022年の改良時に純ガソリン版はエンジンが1.3リットルから1.5リットルに換装、e:HEVは電気モーターの出力アップと、パフォーマンスの改善が図られた。今回はe:HEVだったが、加速感の軽やかさは出力向上がモロに効いて格段に向上したという印象。夜間の高速道路の合流で本線車道がかなりの速度で流れていた時でも、目標速度に素早く到達させることができた。こういう余裕はドライブの緊張感を和らげるため、多くのユーザーがメリットを感じられることだろう。
標高1800mの霧ヶ峰の駆け上がりでは、バッテリー電力を早々に使い果たした後はエンジンの発電する電力に依存するため、平地でのようなパフォーマンスは期待できない。これはホンダに限らずストロングハイブリッドに共通する弱点だ。が、ここでもエンジンパワーが引き上げられた効果か、前期型より力強い登坂を見せた。
フィットのe:HEVには疑似的に有段変速機のようにエンジン回転数が上下する演出が盛り込まれているが、新世代の「シビックe:HEV」のようなエッジの効いた制御ではなく、純エンジン+CVTのステップ変速制御のようなナマクラなもので、胸のすくようなフィールではなかった。

一方、実測燃費は好成績を残した。東京東部ですり切り満タンにした後、関越自動車道、国道254号から霧ヶ峰まで駆け上がり、そこから標高約300mの山梨の竜王まで下ったところまでの299.1km区間が26.2km/リットル(燃費計値26.5km/リットル)、そこから甲府盆地一円を周遊した後に一般道のみで東京東部に達し、和光市に戻る途中までの180.0km区間が32.1km/リットル(燃費計値33.0km/リットル)。参考までに、満タン法計測を行っていない渋滞含みの都市走行オンリーでの平均燃費計値は25km/リットル台だった。
この数値はWLTC走行モード時の国交省審査値を大幅に上回るもので、改良前モデルのロードテストと比較しても格段に上。とくに第1区間は高速走行、大きな標高差の駆け上がりなど高負荷運転のシーンが多く、とくにストロングハイブリッドにとって苦手な急勾配の連続登坂ではエンジンが豪快にぶん回っていた。それで実測26.2km/リットルは望外の好パフォーマンスだった。今回はテスト距離が短かったので一体何が好作用したのか判然としなかったが、1kmあたりの燃料コストがリッター200円でも8円を切るというのはユーザーにとっては有り難い話である。
◆居住性、ユーティリティ、機能

第4世代フィットは元々ユーティリティについてはBセグメントハッチバックのトップランナー。前席は圧迫感が小さく、収納スペースが充実しており居住感、使い勝手とも良好。後席は広く、座面が前席に対して十分に高く取られ、開放感が高い。荷室はe:HEVの場合、床下にハイブリッドシステムを詰め込んだため超広大な純ガソリン版に比べると狭いが、それでも絶対的にはクラストップレベルだ。
RSはスポーツシート装備などの大がかりな変更がなく、違いはステアリングが3本スポークになったことくらいだったため、それらの美点が丸ごと継承されていた。今回は最初から最後まで単独ドライブだったが、一人で走るのがもったいなく感じられるくらいのスペースユーティリティである。車内の弱点として明瞭なのは、総論でも触れたように後席のヒップポイントがドアの開口部後端よりかなり後ろにあるため、ドアの肘かけの位置が前すぎて肘まわりが窮屈に感じられることくらいだ。
ADAS(先進運転支援システム)「ホンダセンシング」は他のグレードと機能、性能とも同じ。ホンダは両隣の車線はじめ周囲の情報を幅広く取得するハイスペックなシステムも持っているが、フィットに装備されているのはあくまでベーシックなものだ。目立って優れている部分はないものの作動の安定性は高く、ステアリング修正時の違和感も小さかった。

◆まとめ
ノーマルフィットの足まわりに少しばかりコストを割いて手を加え、スポーティなフィールをアフォーダブルな価格で提供するというキャラクターのフィットRS。実際に乗ってみた印象としては、その狙いはしっかり達成されているという感があり、ちょっとしたロングドライブをより安心で爽快なものにするクルマに仕上がっていた。たまの休みにクルマで遠出をしてみたいという冒険心のあるユーザーにはなかなかいい選択肢であろう。
ただ、ノーマル系とのフィールの違いをもう少し出してもよかったのにとも思う。ホンダは現在の三部敏宏社長体制になってから、ホンダアクセスによるファクトリーチューンブランド「モデューロX」を廃止してしまった。モデューロXはブランドマネジメントのまずさから日産のNISMO、オーテック、トヨタのGRのような認知度を得られずマイノリティに甘んじていたが、中身は侮れない素晴らしさ。サスセッティングの変更や車体補強により、ノーマルより格段に自然なフィール、格段に俊敏な動き、そしてむしろ滑らかさが増した乗り心地などを実現させていた。もちろんRSよりハイレベルである。
そのモデューロXをフェードアウトさせるのであれば、RSにそのくらいの仕上げを与えてもよかったかもしれない。そうすれば味にうるさいユーザーをもっと吸引できたであろうし、やりようによってはホンダのストリート系チューンはすごいという評判を獲得することもできただろう。
いろいろ惜しいところもあるものの、現状でもドライブがより楽しくなるテイストを持っていることに違いはない。クルマの価格が暴騰している今日この頃、ハイブリッドのスペシャルシャシー版がカーナビ、ETC、ドラレコを付けても車両価格300万円に何とか抑えられるというだけでも価値がありそうに思えた。




