【VW ID.4 4000km試乗】華に欠けるが「穴場的モデル」、価格性能比ではライバル優勢か[後編] | Push on! Mycar-life

【VW ID.4 4000km試乗】華に欠けるが「穴場的モデル」、価格性能比ではライバル優勢か[後編]

フォルクスワーゲン(VW)の全長4.6m級ミッドサイズクロスオーバーBEV(バッテリー式電気自動車)『ID.4』の4000kmロードテスト。前編『「VWらしさ爆裂」さすがの長距離性能、BEVとしての魅力は』ではシャシーと先進装備について触れた。

自動車 試乗記
VW ID.4。山岳路では後輪駆動のメリットでステアフィールの良さを実感できる。
  • VW ID.4。山岳路では後輪駆動のメリットでステアフィールの良さを実感できる。
  • VW ID.4のフロントビュー。岡山・邑久にある画家・竹久夢二の生家近くにて。
  • ID.4のリアビュー。赤色は高輝度のマイカ塗装で、海とのコントラストが映えた。
  • ID.4のサイドビュー。鹿児島北部の長島にある長崎鼻灯台にて。
  • ポルシェディーラーの150kW高速充電器で充電中。
  • ポルシェディーラーの急速充電器は液冷ケーブル装備のフルスペック機。
  • 出力93kWは国内最速レベルではないが、ポルシェの充電器は15分で速度が半減しないため電力量を稼げる。
  • アウディディーラーの150kW機で充電中。全国の主要都市を広くカバーしているため心強い。

フォルクスワーゲン(VW)の全長4.6m級ミッドサイズクロスオーバーBEV(バッテリー式電気自動車)『ID.4』の4000kmロードテスト。前編『「VWらしさ爆裂」さすがの長距離性能、BEVとしての魅力は』ではシャシーと先進装備について触れた。後編は充電性能、動力性能&ドライバビリティ、居住性&ユーティリティなどについて述べようと思う。

◆充電、航続力は

「ID.4 Pro」のバッテリーパックの性能は総容量77kWh、総電圧352V。欧州のシンクタンクによる分解調査では物理容量は82kWhあり、77kWhはネット容量(ユーザーが使用できる容量)であるという。バッテリーセルは正極にニッケル、コバルト、マンガンの合金を使う通称「三元系」。

まず往路、神奈川のポルシェセンター横浜青葉を充電率100%で出発後、鹿児島までの中継充電地点と充電スコアを列記してみよう。全スポットとも最大電流350Aの150kW機。

(1)ポルシェセンター京都(京都府・走行498km)
高速比率4割。到着時バッテリー残2%。電費7.2km/kWh。充電31分、投入電力量46.1kWh。充電率2→63%。

(2)フォルクスワーゲン倉敷(岡山県・走行237km)
バッテリー残16%。電費7.9km/kWh。充電35分、投入電力量46.4kWh。充電率16→74%。

(3)アウディ小倉(福岡県・走行368km)
バッテリー残3%。電費7.7km/kWh。充電31分、投入電力量42.2kWh。充電率3→60%。

(4)日産サティオ佐賀大和インター店(佐賀県・走行104km)
バッテリー残39%。電費7.5km/kWh。充電30分、投入電力量35.2kWh。充電率39→84%。

佐賀を出発後、282km走行、電費6.9km/kWh、バッテリー残25%で鹿児島市に到着。

過去に筆者が東京~鹿児島ロードテストを行ったBEVの中で、中継充電に要した時間127分はBYD『ドルフィン ロングレンジ』の120分に次ぐ2位。経路充電のうち(4)は充電制御のリアルを調べるため電流、電圧が表示される新電元製150kW充電器が設置されている佐賀にわざわざ遠回りして立ち寄ったもので、通常ルートなら120分は余裕で切れたであろう。

総論で少し言及したが、CHAdeMO規格に準拠した日本のID.4は充電電流350Aを受け入れる欧州仕様と異なり、250Aまでしか受け付けない。得られる充電器出力は欧州版の140kW強に対し、ピークで94kWと3分の2程度。CHAdeMO規格適合BEVの中で充電パフォーマンスのトップランナーである日産自動車『アリアB9 e-4ORCE』が(2)、(3)と同じタイプの150kW機で30分充電したさいに50kWh程度の投入電力量を得られたのに対し、ID.4は40kWh強と2割前後のビハインドである。

にもかかわらず長距離ドライブで好スコアを残せたのは、同クラスの中では電費が比較的良かったこと、充電速度がトップランナーモデルに劣るものの思うように電気が入らないということもなく、常に安定していたこと、そして高速充電網プレミアムチャージングアライアンス(PCA)が使えることの3点の合わせ技によるものだった。

◆高速充電ネットワークPCAのメリット

PCAは実際に使ってみると、実に有難味の大きいサービスだった。充電器が設置されているのがフォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェのディーラーで、それらはおおむね経路上の大都市にある。ディーラーに充電器を設置するという方式の先駆者である日産ディーラーほど密に存在するわけではないが、行った先にはPCA以外ではまだ珍しい150kW機、最低でも90kW機という大容量バッテリーカーに相応しい能力の充電器がある。この往路行程においても、当初は岡山市で充電と考えていたがもう少し行けるかと思い、ウェイポイントを倉敷に変更した。どちらの街のディーラーにも150kW機があり、自由に選択可能だったからだ。

帰路は日本海側の山陰道を経由したが、そこでもPCAは威力を発揮した。高速型充電器の設置数がきわめて少ない山口県のポルシェディーラー、同じく充電インフラの弱い山陰地方に入っても島根県の松江と鳥取県の米子のアウディディーラーにも1か所ずつ。結果、山口からワンストップで京都に達することができた。PCAのマップを見ると、充電インフラの脆弱な東北や北海道でも主要都市のディーラーに充電器が配備ずみ。線ではなく面のネットワークと言える広がりがあるのはBEVで自由に旅をしたいという人には有り難いところだろう。

PCAの充電料金は均一ではなく、150kW機が75円/分、90kW機が45円/分。これは基本料金基本料金1800円/月の月額会員プランで、基本料金0円の都度会員それぞれ200円/分、120円/分、非会員のビジター料金はポルシェチャージングが250円/分、アウディは1kWhあたり85~105円と高額。ビジタープランを用意することで公共性を持たせてはいるが、バッテリー切れ寸前という場合以外はこの料金で利用するユーザーはほとんどいないだろう。事実上VW車、アウディ車、ポルシェ車のクローズドサービスといえ、このドライブでも充電がかち合ったりすることはおろか、2口あるプラグで1つの充電器をシェアすることも一度もなく、常に高速充電器を占有できた。

ロードテスト中、バッテリー残量が20%以下という充電に適した状態で30分チャージした場合(料金は150kW機が2250円/30分、90kW機が1350円/30分)の投入電力量の実績値を紹介しておく。

(1)ポルシェターボチャージャー(水冷ケーブル装備、150kW)
 42.1~45.1kWh。電力量単価53.4~49.9円/kWh。

(2)アウディウルトラチャージャー、VWディーラーの高速機(150kW)
 30分連続充電の場合40.6kWh、55.4円/kWh。15分充電でプラグを差し替えた場合42.1kWh、53.4/kWh。

(3)VWディーラーの低速機(90kW)
 35.6~36.3kWh、37.9~37.1円/kWh。

このリザルトから、短時間でより多い電力量がチャージされる150kW機は電力量単価が高く、低速な90kW機(それでも高速だが)は電力単価が安くすんでいることがわかる。急いでいる場合は150kW機、料金を節約したい場合は90kW機と、ケースバイケースで選べるのは有り難いところである。

◆動力性能、パワーフィール

ID.4 Proの動力用電気モーターの最高出力は150kW(204ps)、パワーウェイトレシオは10.5kg/ps。電気モーターは広い回転域でフルパワーを出せるので同等出力のエンジン車よりはずっと余裕があるが、2140kgという車重に150kWというパワーはさすがに必要十分の域にとどまる。実速度ベースの0-100km/h(メーター読み103km/h)加速タイムの測定値は8.4秒だった。

セッティング上の特徴は出力制御が少し踏んだときはダル、踏み込む量を増すにつれて加速度的にパワーが増大するVWのエンジン車の非線形スロットルを模したものになっているということ。チョイ踏みでピューンと加速したりといった刺激性は皆無で、BEVであることの特別感はない。半面、高速道路における本線車道への流入、登坂車線のある急勾配での追い越し等々、急加速で加速しすぎたり意図より遅かったりということがなく、ドライバーの狙い通りの加速がピタピタと決まる。これはこれで至極気分の良いものだった。

アクセルペダルのオン/オフでのスナッチ(トルク変動に伴う前後方向の揺れ)がほぼ完璧に取りきられていたのはVWのエンジン車と比べても優れていた部分。ゴー、ストップの多い道では加速、減速の両方向でふわっとした、同乗者に優しい優しいフィールが終始維持された。低中速クルーズ時に微量の通電で速度を維持する時の微妙なトルク変動も皆無で、スッキリとした乗り味を作る一助になっていた。

これらのチューニングは物理で勝負が決まるピーク性能に比べて作り込みがモノを言う領域。VWは10年あまり前に市販BEV『eゴルフ』をリリースしたが、顧客からは高い評価を得られず四苦八苦していた。それを何とかしようと懸命に電動パワートレインの質感を作り込んできた成果がここにきて良い形で表れはじめているように思われた。

◆居住空間、ユーティリティ

4585mmという全長はCセグメント相当SUVの中では短い部類に属するが、車内空間のゆとりは同クラスの標準的なラインを十分にクリアしていた。

空間設計の特徴は車体の隔絶感が強いことで、乗り込んでドアを閉めると外が遠い世界に感じられる。フォルクスワーゲンはじめドイツ車は全般的にその傾向があるが、ID.4はそれがとくに顕著で、頑丈な装甲に守られているという印象だった。

同クラスのBEVと比較すると、最も開放感寄りの性格を持っていたヒョンデ『アイオニック5』が外界はすぐ隣という感覚だったのと対照的な性格付けで、安心感を最優先させたと考えられる。もっとも窓面積は十分に確保されており、グラストップ装備とあいまって採光性は十分。視界も良好で、閉鎖空間のようではまったくない。

シート設計は前後席とも優秀。前席は座面長の調節が可能な高機能タイプで、座面のウレタンも長時間連続乗車時の潰れが小さいなど、入念な設計がなされていた。このクラスには珍しくシートマッサージャーを内蔵しており、疲労蓄積ではなく刺激のなさで注意力散漫になったときはこれが覚醒に大いに役立った。九州内では多人数乗車時に後席での移動も体感してみたが、ハッチバック車としては後席シートバックの剛性がきわめて高く、防振性やホールド性などの性能も申し分なかった。

車内のデザインはダークグレー基調にタンカラーの差し色を配したもので、ドアトリムやダッシュボードにはアンビエントライトも仕込まれている。華やかさを演出しようという意図が強くうかがえたが、フォルクスワーゲンは元来その手の装飾を得意としていない。加飾部分の面質がビニール感モロ出しであるなど、いささかちぐはぐな印象を受けた。

インターフェースは従来のフォルクスワーゲン車と大きく異なる。ステアリングコラム上に走行情報を表示するための小型液晶、センタークラスタ上にApple CarPlay、Google Android Autoなどのナビ画面を表示可能なインフォメーションディスプレイが備わる。見える景色が従来車と全然違うのにそれほど面食らわないのは、情報表示のポリシーが従来車を踏襲していることが大きい。デザインが全然別でも人間工学的ロジックが同じなら認識に大きな違いは出ないのだ。

操作系も統一性がおおむね保たれており、フォルクスワーゲン車に乗り慣れた人なら最初から迷わずドライブ可能だろう。そんな中で唯一慣れるのに時間がかかったのはメータークラスタの右側に移設されたロータリー式のシフトスイッチ。手前に回せばドライブ、奥に回せばリバースなのだが、筆者は奥向きイコール前進という固定観念があり、序盤は危険な状況にはならなかったものの“おっといけない”と思うことが何回もあった。

室内収納とカーゴスペースは豊か。室内収納のほうは収納場所を分散させるのではなく、センターコンソールとドアポケットの容量を目いっぱい大きく取り、とりあえず何でも放り込んでおくというフォルクスワーゲン流。長距離を一人で運転しているときはこの方式が一番室内が片付く。カーゴスペースはVDA方式で541リットルと容量的に十分なだけでなく、奥行きが90cmほどあるため大型トランクなどを積むのも容易だった。

◆まとめ

ID.4は航続力、急速充電受け入れ性などはトップランナーではないものの、高速充電ネットワークPCAを利用することで東京~鹿児島を中継充電127分で走り抜くだけの機動性とグラストップやプレミアムオーディオなど豊かな装備を補助金適用前の価格600万円台半ばで手に入れられる、穴場的なモデルだった。BEVとしての華に欠けるきらいはあるが、人間工学設計はさすがに行き届いており、遠出の多いカスタマーへの適合性は高い。

そんなID.4だが、日本でも競合モデルは多い。ノンプレミアムの同格モデルで急速充電による機動性が保たれているものとしては、トヨタ自動車『bZ4X』/スバル『ソルテラ』、日産自動車『リーフ』、同『アリア』、ヒョンデ・アイオニック5、BYD『シーライオン7』、そしてテスラ『モデルY』などが挙がる。

それらと比較してID.4の弱味を挙げるとすれば、動力性能的に最も劣速ということだろうか。現状でも普通にドライブするぶんには十分以上の性能とはいえ、競争力を保つには欧州モデルの最高出力210kW(286ps)の主機搭載が待たれる。高速充電網をリーズナブルな料金で半分独占的に使えるというのはライバルに対する優位点だが、そこではディーラーにPCAばりの高速充電網を多数設置し、さらにeモビリティパワーとの互換性も持たせたトヨタのサービス「TEEMO」を使えるbZ4Xが強敵になる。

価格性能比ではアイオニック5とシーライオン7が圧倒的な優位性を示す。この2モデルはID.4 Proと同価格帯で電動AWD(4輪駆動)が手に入るうえ、あろうことかロングドライブ耐性も抜群に高いなど強敵だ。が、この2ブランドは日本ではまだビジネスの継続性に対するユーザーの信頼感を得るに至っておらず、日本市場におけるフォルクスワーゲンのキャリアの長さは十分対抗軸になる。生産拠点のドイツ・エムデン工場は中上級モデル用で、トリムや装備品の建て付けのバラつきが小さいといった仕上げの良さも売りになるだろう。

《井元康一郎》

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