レクサス最小の『LBX』は、「サイズ的ヒエラルキー」から脱却できたのか? | Push on! Mycar-life

レクサス最小の『LBX』は、「サイズ的ヒエラルキー」から脱却できたのか?

『LBX』はレクサスのSUVラインナップにおいてボトムを担うのみならず、歴代のレクサスで最もコンパクトなモデルだ。その三寸は全長4190×全幅1825×全高1545mm。欧州的尺度でいえばBセグメント級クロスオーバーのど真ん中にいる。そしてLBXが狙う最大市場も欧州ということ…

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◆ガチでぶつかるのはドイツ御三家、ではない?

『LBX』はレクサスのSUVラインナップにおいてボトムを担うのみならず、歴代のレクサスで最もコンパクトなモデルだ。その三寸は全長4190×全幅1825×全高1545mm。欧州的尺度でいえばBセグメント級クロスオーバーのど真ん中にいる。そしてLBXが狙う最大市場も欧州ということになる。

とあらば、ガチでぶつかるのはドイツのプレミアム御三家かと思うわけだが、メルセデスやBMWには該当するラインナップは見当たらない。一番近いのはアウディ『Q2』ということになるが、欧州の報道ではアウディがBセグメントから手を引くのではないかという噂もあがっている。更に加えるなら、メルセデスやBMWもCセグメントの独自開発をやめるのではという話も聞こえてくるのが現状だ。

仮にドイツ勢がコンパクトカー市場から退潮傾向にあるとすれば、理由はBEVシフトに伴うイニシャルコストの上昇が低価格帯では吸収できないことにあるのだろう。さりとて内燃機の開発は停滞していることもあって、コストや環境性能的に競争力のあるパワーユニットを搭載することも難しい。

Q2は2リットルディーゼルを搭載しているが、これはBセグメントとしてはかなりイレギュラーな措置だ。そのQ2、邦価をみれば高いと思われるかもしれないが、本国価格にユーロ高をあてがってみれば、大バーゲンともいえる値札となっている。言い換えれば3万ユーロ前後の価格帯では儲けることが難しい、プレミアム勢はBEVシフトの中でそういう轍に嵌っているともいえる。LBXはこなれたHEVを最大の武器に、そこで戦おうというわけだ。

◆ヤリスやアクアとは似て非なるHEVシステムとシャシー

搭載されるのは1.5リットル3気筒ユニットをベースとするハイブリッドシステム。その原型は欧州でも販売されている『ヤリスハイブリッド』のそれだ。バイポーラ型ニッケル水素電池を搭載するという点でいえば、日本で販売されている『アクア』に最も近いコンポーネンツということになるだろうか。が、そこはレクサスの看板を背負うだけあって、LBX用に徹底的にリファインが施されている。

出力を向上させたモーターと一体型となるトランスアクスルを採用、組み合わせられるエンジンは一次バランサーを組み込み…と、パワートレインはハードウェアからしてアクアやヤリスとは別物だ。システム総合出力は136ps、0-100km/h加速は欧州仕様で9.2秒と、動力性能的には充分なレベルといえるだろう。そのぶん、CO2排出量は103g/kmとヤリスハイブリッドの85g/kmには及ばないが、数値的には現地のAセグメント以下と、環境性能的な説得力は非常に高い。

別物といえばシャシー回りも徹底的に手が加えられている。ベースとなるのはヤリス系が用いるGA-Bプラットフォームだが、フロントカウルやインパネ部の補剛、リアゲート開口部の環状構造化、レインフォースやセンターピラーのホットスタンプ材使用などの剛性強化に取り組んでいる。加えて生産側でもスポット溶接の短ピッチ化や構造接着剤の多用と共に、前席回りには高減衰仕様の接着剤を用いて室内のアコースティックを整えるなど、レクサスならではの工夫も加えられる。

フロントサスはジオメトリーから新設計したマクファーソンストラットを採用、スタビリティの向上やアンダーステアの低減に寄与している。リアサスは駆動方式によってトーションビームとダブルウイッシュボーンを使い分けている。ちなみにホイールベースはGA-B系のヤリスシリーズともアクアとも異なる2580mmだ。

◆奇をてらわない上質感のインテリア

日本仕様のグレード構成は「クール」と「リラックス」に加えて、内外装の専用マテリアルを組み合わせて自分好みの仕様が作り出せる「ビスポークビルド」の3つ。リラックスはセミアニリン本革や凝った加飾ステッチなどを組み合わせたトラッドな高級感を売りとする一方で、クールはセミアニリン本革とウルトラスエードのコンビでLBXのテーマである「プレミアムカジュアル」の指向を最も端的に表したものとされている。用意された試乗車はクールのFFだった。

内装のデザインはオーソドックスなT型レイアウトだが、そこに均整のとれたドラポジが組み合わせられると、なるほど奇をてらわない上質感がじわじわと感じ取れる。操作回りのアクセスにも苦はなく、必要最小限ながら空調などのスイッチが物理化された運転環境も安心感が高い。そして要所に配される肌触りのいいスエードタッチのマテリアルが大袈裟ではないいいモノ感を伝えてくれる。

クールにはセミアニリン表皮も用いられるが、むしろそれらもLテックスなどの人工素材に置き換えたアニマルフリー仕立てにして色などのバリエーションを増やしてくれた方が今日的な高級感を演出できるのではとも思う。ちなみに身長181cmの筆者が採ったドラポジで後席に座るとレッグスペースはミニマムだ。が、荷室は天地に広く、望外に容量が確保されていた。

◆サイズ的ヒエラルキーからの脱却なるか

走りの質感でことさら気になるのは、音・振動関係がいかほどのものかということだ。エンジンはマウント類にも工夫をこらしたということもあって、始動時の振動は巧く封じ込めているし、回っての振動もバランサーがしっかり相殺してくれる。但し全開加速などでエンジンの回転数が高まると、3気筒の独特の音色が入ってくるのは致し方ないところだ。小さな高級車という趣旨やレクサスのブランドイメージを鑑みても、充分納得できる範疇だと思う。

乗り心地については凹凸が連続するような路面状況で、アシのバタつきが気になる場面があった。試乗車は18インチタイヤを装着していたこともあり、そのマスがトゥーマッチだったところもあるのだろう。この辺は17インチを履くリラックスの感触もみてみたいところだ。

パワートレインのレスポンスは上々だ。発進や緩い加速時はエンジンの稼働をなるべく減らしつつ、駆動力を積極的に使いたい時にはモーターの力をしっかり引き出してメリハリのある走りをみせてくれる。バイポーラ型の特性を巧く使いながらラバーバンドフィールをしっかり抑えている辺りは、欧州のユーザーにも好意的に映るだろう。高速域ではCセグメントにも比肩する高いスタビリティに驚かされるが、コーナリングでは身のこなしに鈍重さを感じないのは、このパワートレインの快活な応答性によるところも大きい。

LBXが狙うのはサイズ的ヒエラルキーからの脱却で、車名のBにもブレークスルーの意が込められている。言葉にするのは優しくもかたちにするのは難しいコンセプトだが、その目標には概ね達している。なにより、目を覆う厚化粧やわかりやすい豪華装備などではなく、自然体でさらりといいモノ感を出せているのがいいと個人的には思う。

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)

《渡辺敏史》

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