【プジョー 308SW 海外試乗】これが本命!電動化のウラで身悶えさせられるほどの完成度…南陽一浩 | Push on! Mycar-life

【プジョー 308SW 海外試乗】これが本命!電動化のウラで身悶えさせられるほどの完成度…南陽一浩

◆軽さが売り!「EMP2エボ3」に進化したクリーンディーゼル
◆サンデードライバーのファミリーカーとして完璧なまでに適応
◆「シャシーが速い」のお手本、ワゴン離れした素早さ

自動車 試乗記
プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)
  • プジョー 308SW Blue HDi 130(海外仕様)

クリスマスも正月も終わった今、プジョー『308SWアリュール』しかも「Blue HDi 130」とかけて、ロティサリーチキン的ステーションワゴン、と解くことにしよう。そのココロは…の前に、前提というか下地となる“もやもや”も露払いしておこう。

「ロティサリー」とは、仏語で「ロースト屋さん」を意味する「ロティスリー」の英語読みで、英語圏でも日本でも外来語。フランスでも丸鶏のローストは週末に家族がサクッと集まってワイワイやる際に食卓に上る定番料理で、商店街や鶏系の精肉店のようなロースト機を備えた店で買うことも無論ある。とはいえ、それは生で売れ残りかけたものが最終的に加工され売られているということ。家庭のオーブンで焼いても鶏からしみ出てきた油を時々かけ戻すぐらいだし、同時に人参やいんげんやポテトといったつけあわせも一緒に仕込めるので、決して難しくもなければ特別でもない料理だ。だから製造元が店でも「ロティスリーのチキン」と分けて考えないし付加価値も漂わず、単に「プーレ・ロティ(ローストチキン)」と呼ばれる。

むしろ、胸肉かもも肉かと、焼き上がった鶏の味わいの異なる部位を、家族や客人とシェアすることに重要な意味があるし、取り分け方や人数によっては2~3日もつので、週末のキッチン仕事を減らしてラクするための料理でもある。要はプチ特別感はあれど、ごく日常的でカジュアル、でもメインを張れる一品ということだ。

翻ってプジョー308SW、今回はエントリーモデルのアリュール、そのディーゼルに現地で1500km近く、あらためて試乗してきた。

◆軽さが売り!「EMP2エボ3」に進化したクリーンディーゼル

搭載されるディーゼルとは無論、1.5リットルターボのDV5ことBlueHDi 130。輸入車ディーゼルは2リットルが主流だった日本市場に旧シトロエン『C4』や旧308辺りから上陸し、より控えめな排気量ながら300Nm・130psの力強さやパンチ、アシの長さといったディーゼルならではの美点については何ら羨むところのない、貴重なクリーンディーゼルだ。さしものDV5もユーロ6.4規制への対応がおそらく最後のご奉仕と本国でもウワサされるが、最新世代の308が基づくプラットフォームは、先代308の前期、後期フェイズをそれぞれ1、2とカウントし、今や「EMP2エボ3」にまで進化している。

よって現行「308III」においてはハッチバックもSWも含め、まずトップ・オブ・レンジとしてPHEVが開発の要だったことは想像に難くない。2023年中には急速に進む欧州の電動化に合わせ、308のBEVモデル登場すら予定されている。というわけでEMP2エボ3という熟成のプラットフォームには、PHEVとBEVの重量を受け止めつつもプジョーらしい機敏なシャシーと爽快なハンドリングを実現するのに必要なポテンシャル、容量が与えられた。

その器にディーゼルユニットとしては例外的に軽いDV5が積まれ、PHEVよりざっと250kg近く軽く仕上がっている。そう聞くと、電動化の時代と頭では判っていても、どうしてもそっちが本命と考えてしまう天邪鬼は、一定数以上いるはずだ。そもそもプジョーは「パワー・オブ・チョイス」を掲げ、PHEVとガソリンとディーゼル、どのパワーユニットもポジティブな選択肢としてユーザーの選ぶに任せることを主旨としている。

全長4655×全幅1850×全高1485mmという伸びやかな体躯にして、308SWアリュールの車重は1460kg。308のハッチバック比でも+40kgでしかない。車型も駆動方式もまるで異なるので参考になるか不明ながら、ポルシェ『911』の軽量ヴァージョンたるカレラTのMT仕様は1470kg。いずれ軽さというのはやはりヴィークル・ダイナミクスの上で正義といえるもので、パワーが限られているのなら尚更だ。

ちなみにアリュールは上級グレードの「GT」に比べて、非マトリクスのLEDヘッドライトだったり、外装のエアロパーツあるいはパワーシートなど快適装備が省かれているが、人工レザー&ファブリックのコンビシートとはいえ、内装のテーマ自体はスポーティだ。唯一、日本仕様のアリュールで格落ちを感じるかもしれないディティールは、センタースクリーン下部が、タッチスクリーン式のiトグルと呼ばれるショートカットキーではなく、物理的スイッチに置き換わっている点だろう。

◆サンデードライバーのファミリーカーとして完璧なまでに適応

今回は数日間、街乗りから高速道路まで、あらゆる状況で走らせることができた。市街地での加速ピックアップから交差点ひとつ曲がる際のマナー、高速道路の合流から追い抜き時の中間加速の力強さ、低速域から高速域まで安定して質の高い快適性、そして乗り心地のしなやかさ、長距離行なら余裕でリッター20kmを超す燃費まで、どこをどう切っても308SWアリュールBlueHDiは、万能選手的に滋味深い。

あまつさえ、荷物も積めて乗員も快適に過ごせる空間を備えている。それこそが、スポーツカーのもたらすエゴイスティックな楽しさと対照的に、週末のロティサリーチキンがもらたす家族の食卓のコンヴィヴィアリティ(食卓の上が賑わう様子のこと)にも通じるところで、その極上のヴァーサティリティ(多能性)はドライバーだけでなく、乗員の誰もが恩恵に預かれる種類のものなのだ。

だからこそ、308SWアリュールはフランスの週末家族仕様のようなところがあるというか、サンデードライバーのファミリーカーとして、完璧なまでに適応している。4.7m弱の長過ぎない全長で、低重心も手伝いとり回しのいいボディ、そしてi-コクピットによる指先チョイチョイ感覚のエフォートレスなハンドリングは、ほとんど車の方からドライバーの手の内に収まってくるかのよう。ボディ剛性とハンドリングに優れる車はそもそも車両感覚を掴みやすいことが多く、走らせてトレース性が高ければ、なおさら扱い易いのだ。この辺りは速度域が高く、乗員もフルなら荷物の量もハンパない、そんなフランス式ウィークエンドで鍛えられているせいもあるだろう。

ちなみにフランスのバカンスは今も長いが、3週間といった長期休暇を夏にひとまとめで取るパターンは減り、年間カレンダーの上で祝日の飛び石を埋めて連休化するのに有給を充てる傾向が強い。つまり休暇は短く、頻度は多く、祝日の多い日本にむしろ似てきた。職種にもよるがリモートにも積極的だからこそ、アシの長い週末向きのディーゼルのステーションワゴンの人気は、変わらず根強い。それに、今のところ純EVにはない車型でもある。

◆「シャシーが速い」のお手本、ワゴン離れした素早さ

それでも、308SWアリュールBlueHDiは八方美人とか優等生とは形容しづらい一台でもある。ワインディングを走らせると、いい意味でひとクセある味わいが露わになってくる。並のステーションワゴンなら、ベースのハッチバックやセダンより長く重い屋根を上モノに背負っている分、よくいえばおっとり気味、悪くいえばもっさりした、いずれ無難なハンドリングに仕上がっているものだが、今次の308SWは「シャシーが速い」のお手本といえる。ステアリングの切り始め、ヨーを受け止めて収束させるまでが、ワゴン離れした素早さなのだ。

それなのに足が固いと感じさせず、低重心ゆえの盤石の接地感、しなやかで躍動感のあるストロークを感じながら、クイクイと切れ込んでいくハンドリングというか運動神経は、ステーションワゴンであることをほとんど忘れさせる。こうした動的質感には、チキンという週末のカジュアルプレートに喩えるには、申し訳ないほどの特別感すら漂う。ちなみにドライブモードをスポーツにすると、ダンパー減衰力こそ変化ないが、パワートレインや操作系の敏感度が一段と増すのみならず、スクリーン内の表示やアンビエントライトまで赤くなってアドレナリン上等の雰囲気となる。

確かに、以前ならローストチキンは家庭で焼くもので、よほど面倒か切羽詰まった時でもなければ出来あいのローストチキンを控えていたフランス人の行動も変わって来た。丸鶏を専門に扱う「メートル・ロティシエ(ロースト職人)」のいる、お洒落ロティスリー店が実際に街場に増えてもいる。おばあちゃんのレシピみたいな古典的な味だけでなく、詰め物やスパイスも季節や機会に応じて変化する。オフの時間を特別なものとして最大限に楽しむソフトがあるからこそ、週末の定番も進化するし、ディーゼルの308SWのようなステーションワゴンが合理的な選択肢であり続けているのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

《南陽一浩》

特集

page top