アルピーヌCEO「A110の生産は2026年まで続ける」 究極の『R』を日本で初公開した理由 | Push on! Mycar-life

アルピーヌCEO「A110の生産は2026年まで続ける」 究極の『R』を日本で初公開した理由

鈴鹿でのF1日本グランプリが近づいてきた今週、横浜は山下町の倉庫街にて、アルピーヌが世界に先駆けて『A110R』をワールドプレミア発表した。10月半ばのパリ・モーターショー発表ではなく、日産ルノー・グループのお膝元である横浜を発表の場に選んだのはなぜか?

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10月4日、日本で世界初公開となったアルピーヌ『A110R』
  • 10月4日、日本で世界初公開となったアルピーヌ『A110R』
  • アルピーヌのロラン・ロッシCEOと『A110R』
  • 10月4日、日本で世界初公開となったアルピーヌ『A110R』
  • アルピーヌのロラン・ロッシCEO
  • テストドライバーのダヴィッド・プラシュ氏
  • アルピーヌのエンジニア統括、グザヴィエ・ソメール氏
  • 10月4日、日本で世界初公開となったアルピーヌ『A110R』
  • 10月4日、日本で世界初公開となったアルピーヌ『A110R』

鈴鹿でのF1日本グランプリが近づいてきた今週、横浜は山下町の倉庫街にて、アルピーヌが世界に先駆けて『A110R』をワールドプレミア発表した。10月半ばのパリ・モーターショー発表ではなく、日産ルノー・グループのお膝元である横浜を発表の場に選んだのはなぜか?

パーツ図のティーザー画像が公開されていたとはいえ、開発コードAS1こと現行『A110』の中でも、もっともエクストリームな仕様であり、F1を軸とする昨今のアルピーヌのマーケティング上の強いメッセージをも感じられる。

会場への入口、港・ヨコハマをバックにズラリと一列に並べられたのは、何と日本車のチューニングカーだった。『GT‐R』や『ローレル』など日産車が多いのはグループのロジックとして分かるが、『スープラ』などトヨタ車もチラホラ。「クール・ジャパン=ストリートチューン」という、お披露目の場所が日本であることをグローバルに発信するための演出だが、他社の車がいても全然OKで、「むしろなぜダメ?」的な態度が、じつにフランスっぽく感じた。

そして同じ通路から、今宵のボスキャラ、アルピーヌA110Rが会場に姿を現す、という趣向だった。

限りなくサーキットに近い、チューンド「A110」

A110Rは確かにロードゴーイングモデルだが、A110Rの“R”は“RADICAL(根本的な、過激な、の意)”の“R”より採られている。コンストラクター純正もとい謹製のチューニングカー的な一台だが、そのインスパイアの源は無論、サーキットにある。

A110は純粋な競技用車両として、欧州でのワンメイクレースのために開発されたA110カップカーと、FIAのGTカテゴリーの国際競技規格に則った「GT4」、そしてラリー仕様のホモロゲモデルの「R-GT」も欧州では市販されている。いわばA110Rは純モータースポーツ車両とA110Sの間に位置し、シャシー骨格は公道仕様として型式認証の枠内に収まるものの、その軽量化やエアロ武装のノウハウはモータースポーツ直伝という、あくまでストリート・リーガルの過激バージョンなのだ。しかも「ブルー・レーシング・マット」という艶消しブルーのボディカラーはF1マシンであるA552譲り。ロードゴーイングカーだが限りなくサーキットに近いそのポジションは、ポルシェ『911』でいう「GT3 RS」に近いものがある。

だから結果から述べてしまえば、A110Rは1082kgにまで軽量化されている。オプションの鍛造軽量ホイールを履いたベースモデルやA110Sより、30kg近く軽い。340Nm・300psの1.8リットルターボエンジンに7速EDCというパワートレインはA110SやGTと共通のままだが、0-100km/h加速は3.9秒、最高速は285km/hに達する。つまりシャシーと空力を突き詰めることで、さらなるパフォーマンスを引き出すという方向性だ。

テストドライバー「ロードカーの域を超えている」

ではA110Rの挙動は、従来のA110とどう異なるのか? ちょうどテストドライバーのダヴィッド・プラシュ氏がいたので、この質問をぶつけてみた。氏はA110の日本導入時にも、富士スピードウェイの東コースでの試乗会で、同乗走行を担当するために来日していた。

「あえてパワートレインに手をつけないで、シャシーを磨き上げることにこだわるのはアルピーヌの伝統だから、カーボンを多用しての軽量化は無論、空力を見直すために車体下のデバイスは結果的にすべて広がっていますね。リップスポイラーから、サイドスカートもリアディフューザーも延長しています。あわせてリアウイングも、白鳥の首のようなカタチの新たなステーを採用することで、(A110Sより)後ろに寄せて高くマウントしています。もちろんダウンフォースを増やす方向ですが、ただ増やすのではなく、速度域に応じて前後のダウンフォースのバランスを最適化しています。それに今回採用した車高調整式ダンパーは、通常時でSより10mm低い車高ですけど、トラックモードではさらに10mm、計20mm低められるんです。軽量化した車体が、高速コーナーや最高速に近い領域でも浮き上がらず安定してビタッと路面に吸いつくように走らせられるところは、サーキットでのパフォーマンスとしてロードカーの域を超えていると思いますよ」

実際、リアのダウンフォース量は最高速でA110Sより+29kgも増していながら、ドラッグ自体は5%も減っているという。ダウンフォースとトップスピードは通常、トレードオフの関係になるので、軽量化したボディを従来と同じエンジン出力のまま、より高いスタビリティや最高到達速度を実現できたからこそ、さらなるポテンシャルが引き出せたというのだ。

しかもZFレーシングによる車高調整式かつ伸び・縮み双方の減衰を20段階で可変できるショックアブソーバーに、前後ともA110Sより+10%レートを増したスプリング、加えてアンチロールバーはフロント側が+10%、リア側は+25%ほど剛性を高めている。装着タイヤはミシュランのパイロットスポーツカップ2、つまりセミスリック採用で横方向の反応と縦方向のグリップを稼いでおり、前後それぞれのサイズは215/40R18、245/40R18となる。

前後で異なる形状のカーボンホイール

軽量化に貢献しているパーツでひときわ際立つのは、前後でデザインの異なるカーボンホイールだ。このホイールを製作し供給するサプライヤーは、ハイテク素材の複雑加工や生産を手がけるフランスの大手グループ、デュケーヌ社だ。デュケーヌ社はロードバイク用のカーボンホイール生産をマヴィックから、あるいはレーシングドライバーが頸椎保護のために装着するハンスの製造をスタンド21から受注しており、そのクオリティが察せられるだろう。メイド・イン・フランスにこだわりつつ、「A110R」「ALPINE」のロゴがリムとスポークに入った専用パーツという訳だが、前後で異形のデザインはホイール自体が空力デバイスであることを示す。

「基本的な空力の考え方ですが、フロントからのエアを広く取り込んで、中央からリアへは絞って流す。フロントのホイールがスポークの空いた形状であるのは、グリル内の整流版から導入したエアでブレーキディスクを冷やして、それを排熱するためです。サスアーム近くにダクトも追加されていますが、こうしてブレーキを冷却することで、走行中の耐フェード性や制動力の効率が20%ほど増しているんですよ。逆にリアはホイールの中と外でエアの流れを分けたい部分なので、ディスクのような形状になっているのです」

と、エンジニア統括のグザヴィエ・ソメール氏は述べる。フロントでとくに重要な空力デバイスは、リップスポイラーと並んでグリルに一体化された整流版で、これは空気抵抗を減らしつつもブレーキへのエア導入を促しているという。

フロントボンネットの効果は意外にも?

またフロントボンネットの、大型のエアスクープはGT4仕様にも似た形状だが、氏はこう答えてくれた。

「デザイン的にインスパイアされているところはあるでしょうね。とはいえロードカーである以上、競技車両のA110のようにラジエーターを前倒しの搭載向きにして、熱を上から抜く方式ではありません。従来のA110公道仕様と同じ、上を向く仰角のラジエーターですから、フロントの荷室トレイはそのままですよ。もちろん乗り手が望めば、取り外すこともできます。ボンネット全体のスリットは、ここから入った風がラジエーターを冷やすことはないですが、これは後ろのエアレットから抜いて、フロントのダウンフォースを高めるためのディティールです。ですからボンネット内ではほら、この回路はクローズなんですよ」

ボンネット裏を見せてもらうと、補強と同時にエアスリットとエアスクープの裏が二重構造になっていて、エアの流れが内部に及ばないことが分かる。これらボディパネルのカーボンはCARL社製となっており、フロントボンネットにはパネル自体のシリアルナンバー刻印が付けられている。

もうひとつカーボンパーツの中でも特徴的なのは従来のガラスに代わって、カーボンパネルとフィンが切られたアルミパネルによるエンジンフードだ。両端にはエンジンルーム内にエアを採り入れるスクープが備わり、中央には補強ブリッジが縦に走っている。またスノーフレーク柄のフィンが彫り込まれたアルミパネルは、ちょうど電動ファンの上にあり、冷却効率をさらに促す造りといえる。

純モータースポーツ仕様だけどロードゴーイングカー

以上が、エクステリアからも確認できる軽量化とエアロ化のディティールだが、A110Rはインテリアについても大胆なマスの削減が施されている。バケットシートのシェル形状こそ、Sやベースモデルで見慣れたサベルト製のバケットシートに似ているが、カーボンシェルにソフトパッドを貼ったのみという、マクラーレン『セナ』と同様の超軽量仕立てが奢られているのだ。ベルトはサーキット走行での頻度を意識して6点式を採用している。ドア開閉についても、通常のドアオープナーによるアンロックは残しつつ、赤いナイロンベルトを備えている。

内容的には純モータースポーツ仕様でありながら、ロードゴーイングカーであることにこだわった車検対応のストリート・リーガル仕様、そこにまさしくA110Rの何たるかが示されている。面白いのは、トルクも出力は据えおきにも関わらず、スポーツマフラー自体は従来のA110とは別モノに誂えられていることだ。リアに延ばされたディフューザーとリアパネルからさらに突き出たデュアルテールパイプは、いわゆる二重管で、ガラスではなくカーボンとアルミに覆われたエンジンの音質を、純粋に力強く奏でるという。その効果は、エキゾーストノートの増幅回路がとり払われて遮音材も省かれた車内で、さらに増幅されるというのだ。

A110は“まだ”終わらない

横浜の倉庫街をわざわざワールドプレミアの場に選んだ理由が、明確になってきたところで、アルピーヌCEOのロラン・ロッシ氏に、A110Rというプロジェクトの意義について尋ねてみた。

「A110RはA110シリーズ、現代のベルリネットのもっとも過激でエクストリームなバージョン、究極の表現といえます。もちろんA110が市販されることになった当初から、モデルライフの中でプログラムされていたプロジェクトです。軽さによってさらに増幅されたアジリティ、走りの鋭さが味わえる一方で、超高速域でのパフォーマンスがより深堀りされているという。ダウンフォースは増えたのに最高速が伸びていること自体が、マジックであり、アルピーヌらしいアプローチです」

とはいえ、「究極のバージョン」と聞くと、内燃機関のA110シリーズ自体に生産終了が迫りつつあることを感じずにはいられない。A110Rはディエップ工場の生産ラインのペースアップを促すだろうが、A110自体はいつまで作られ続けるのだろう?

「A110Rはあくまで少量生産で、カーボンパネルの供給の関係もあって、そうそう多くの台数がすぐに作れるわけではないです。ですのでディエップの生産ラインが急に埋まることはないですよ(苦笑)。確かに究極バージョンたるA110なので、この先、カラーエディションや記念限定モデルといった展開はあるでしょうが、内燃機関のA110のメカニカルな進化としてA110Rは最後でしょうね。でもA110の生産は2026年まで、我々の最大市場であるEUの法律による規制がどうなるか次第ですが、続けるつもりです。ご存知の通り、予告済みのSUVやハッチバックといった電動モデルから、徐々に生産ラインに入り込んでいって、少しづつ現行A110と交代していくイメージです」

市場から求められる限り、内燃機関版のA110生産も継続する意思はあるが、いつまで作り続けられるかはEU当局のルール策定次第、というニュアンスでもある。それ以外にも、ルノー・グループ本体の意志判断といった、今はゴーでもいつノーに転じるか予測しづらい要素もある。

A110Rの車両価格については、おそらく10月中旬のパリ・モーターショーの機会で発表されるだろうが、11月から日本市場でも受注が開始され、おそらく1000万円台前半が予想される。いずれ、いつまでも買えると思わず数年先は価格も上がる可能性を鑑みつつ、買えるうちにオーダーしておくのが賢明だろう。究極の切れ味ベルリネットは、ルーツを完全に取り戻したアルピーヌのもっとも過激なロードゴーイングカーであり、欧州でなく日本をワールドプレミアの場に選んだという歴史性ごと、記憶される一台になるはずだ。

《南陽一浩》

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