【メルセデスベンツ EQS SUV 海外試乗】アメリカ的な乗り心地と圧倒的な加速感…渡辺慎太郎 | Push on! Mycar-life

【メルセデスベンツ EQS SUV 海外試乗】アメリカ的な乗り心地と圧倒的な加速感…渡辺慎太郎

◆EVへの「完全移行を宣言」したわけではない ◆EV専用アーキテクチュアを使う第3のモデル ◆圧倒的な加速感と優れた回頭性 ◆個体差?タイプによって異なる乗り心地

自動車 試乗記
メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 580 4MATIC)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 580 4MATIC)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 580 4MATIC)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 450 4MATIC )
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 450 4MATIC )
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 580 4MATIC)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 450+)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 450+)
  • メルセデスベンツ EQS SUV(EQS SUV 580 4MATIC)

EVへの「完全移行を宣言」したわけではない

先日テレビを見ていたら、天下の公共放送が「メルセデスベンツも2030年には完全にEVへ移行することを表明している」と報じていてちょっと驚いた。メルセデスは昨年、今後の中長期計画を発表した。そこで語られていたのは主に次の3点だった。

「2025年以降に発表する新しいアーキテクチャーはすべてEV専用とする」「2025年までに3タイプのEV専用アーキテクチャーを発表する」「2030年の段階で、もしEVに対する市場の環境が整っていれば、メルセデスは生産するすべてのモデルをEVにする用意がある」

つまり「用意がある」と言っただけで「完全移行を宣言」したわけではない。トヨタも「燃料電池もハイブリッドもEVも水素エンジンも全部本気」と言っている。EVを走らせるために不可欠な電気の作り方の確たる見通しが立たない現時点で、EVしか許さないという判断は時期尚早であるという空気が自動車メーカーの間や欧州の一部にも広がりつつある。実際、暑かった今年の夏は日本でも一時期、電力不足に陥った。こんな状態でもし走っているクルマがEVだらけだったとしたら、えらいことになっていただろう。

電気自動車は電池とモーターがあれば簡単に作れる。そんな物言いも散見されるけれど、自動車作りの難しさを熟知している自動車メーカーほどEVの開発には慎重だ。開発中の実走行テストの距離が100万kmを超えることも珍しくないメルセデスは、初めてのEV専用アーキテクチャーを使った『EQS』の実走行テストの距離を100万kmからさらに増やしたという。一方で、メルセデスはかなり積極的にEVのラインナップを拡充している。実は超が付くほど保守的な彼らにとってEVはまだ未知の乗り物であり、万が一2030年にEV化することが決まったときに慌てずに済むよう、いまからデータを収集しているという用意周到な姿勢がうかがえる。

EV専用アーキテクチャーを使う第3のモデル

今回試乗した『EQS SUV』は、EVA2と呼ばれるEV専用アーキテクチャーを使う第3のモデルで、EVA2使用モデルにはあと『EQE SUV』が追加されることがすでにアナウンスされている。ボディサイズはメルセデス『GLS』よりも若干小さいが、それでも全長5mを超える。ホイールベースはEQSと同じで、オプションで2人掛けの3列目シートが用意される。パワートレインやサスペンションは基本的にEQSと変わらない。

現時点では「450+」(360ps/568Nm)、「450 4MATIC」(360ps/800Nm)、「580 4MATIC」(544ps/858Nm)の3タイプの布陣となる。モーターは交流同期型で、450+はリヤのみにそれを置く後輪駆動である。バッテリー容量はEQSと同じ108.4kWh。航続距離は450+が540-671km、450 4MATICが511-610km、580 4MATICが511-609kmで、EQSの約700kmよりも少し短いのはEQS SUVのほうが車重が重く空力が悪いことが原因と考えられる。サスペンションはエアサスと後輪操舵が標準装備となっている。

圧倒的な加速感と優れた回頭性

国際試乗会はアメリカのデンバーで、一般道と高速道路の他にオフロードコースも用意されていた。オフロードの走破性がそこそこのレベルを有しているのは、車高調整ができるエアサスとオフロードモードの巧みな制御、そして何よりモーターによるレスポンスのいいトラクション確保のおかげである。内燃機とは異なり、電気信号により駆動力をコントールするEVは、実は4WDの駆動形式に適している。そもそもEQシリーズの4MATICは、前後の駆動力配分を随時細かく最適化しているし、4輪にかかるトラクションは毎分1万回という頻度でモニタリングしているという。

アクセルペダルの動きに対する瞬速の応答性はEVならではで、それはオフロードだけでなくオンロードにおける圧倒的な加速感にも現れている。450+でも通常の領域ではまったく申し分のない動力性能を発揮するが、最大トルクが800Nmを超える450 4MATICや580 4MATICに乗り換えると2.5トンを超える車重をものともしない、グイグイと押し出されるような加速感が味わえる。

ハンドリングは正確で安定感のあるもので、スポーティな味付けにはなっていない。ホイールベースが3210mmもある車両にしては回頭性がいいのは後輪操舵のおかげである。後輪操舵によるサポートを意識させられる場面もたまにあるものの、操舵応答遅れはほとんどないから、それと相殺されると考えればそれほど気にはならない。450+は前輪が駆動しないので、4MATICよりはステアリングの手応えがスッキリとしている。後輪駆動と前述したけれど、モーターがリヤのサブフレームに乗っかっているのだから、駆動形式としてはポルシェ『911』と同じRRである。

個体差?タイプによって異なる乗り心地

今回の試乗車には個体差があって、特に乗り心地にそれが顕著に現れていた。580 4MATICは減衰が比較的ゆっくりとしたちょっとフワッとした乗り心地、450+と450 4MATICは個体によってはリヤのサブフレームの取り付け剛性由来と考えられる突き上げがあった。これは、路面から大きな入力がある時に見られた事象で、良路では滑らかな乗り心地に終始した。

EQS SUVはアラバマ州のタスカルーサ工場(一部は中国)が生産を担当するそうで、生産品質のバラツキが落ち着けばじきに解消されると思われる。おそらく、本来の乗り心地は580 4MATICが近いのだろう。試乗会の場所をアメリカに選んだのは北米が主たるマーケットと踏んでいるからで、ならばアメリカ人の好きそうなフワッとした乗り心地にも合点がいくからである。

日本仕様は現時点でまだ不明、導入時期は2023年上半期とのことだった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★

渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。

《渡辺慎太郎》

特集

page top