ガソリン車はEVに置き換わるのか?『bZ4X』と『ソルテラ』長距離試乗でわかった可能性と課題 | Push on! Mycar-life

ガソリン車はEVに置き換わるのか?『bZ4X』と『ソルテラ』長距離試乗でわかった可能性と課題

◆『bZ4X』&『ソルテラ』で250kmを走る
◆まずは『ソルテラ』、ハンドリングの素直さに驚いた
◆『bZ4X』に乗り換え、キャラの違いを実感する
◆BEVとサブスクの相性は抜群!「GR」や「STI」の可能性は
◆2030年までに急速充電の設置は3万基程度

自動車 試乗記
トヨタ bZ4X
  • トヨタ bZ4X
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  • トヨタ bZ4X
  • 急速充電中のトヨタ bZ4X
  • 急速充電中のトヨタ bZ4X
  • トヨタ bZ4Xをドライブする野口優氏
  • トヨタ bZ4Xの開発主査、トヨタZEVファクトリーの井戸大介氏

『bZ4X』&『ソルテラ』で250kmを走る

いよいよ本格的に始まった電気自動車(BEV)への移行。脱化石燃料を実現するべく、各自動車メーカーは必死になって開発を進めているが、実際にこれまで続けられてきた内燃エンジン搭載車と同じように使えるのか、正直不安に思っている人は多いと察する。何よりも筆者自身がそう。「次はいよいよ電動車だな」と心の中では思っていても、休日のサービスエリアなどで見受けられる“充電待ち”するクルマを見てしまうと、「やっぱり現実的じゃないなぁ」と、心底考えさせられる。

そんな最中、トヨタとスバルが共同開発した『bZ4X』&『ソルテラ』に乗る機会を得た。個人的にもこの2台には興味津々、メルセデスベンツやBMW、アウディ、ポルシェなどといったドイツ勢に加え、日産にも先を越されてしまった印象は否めないが、昨今のトヨタ自動車の完成度には眼を見張るものがあるから期待のほうが大きい。不安と疑問を払拭できるのかも含めて、この試乗を心待ちにしていた。しかも、ロングドライブというから尚さらだった。

このbZ4X&ソルテラの満充電あたりの走行距離は500km強と必要にして十分だ。CHAdeMOによる急速充電では30分で80%に達するという点も当たり前だがクリアしている。しかし、これらは、あくまでも謳い文句的にしか受け取れないというのが本音。使用用途や環境次第では、またたく間に底をついてしまうのは分かっていた。

今回の試乗コースは、名古屋駅周辺から金沢駅まで約256km。途中の車両乗り換えポイントまで走行可能距離200km以上残して到着せよ!という指示まで出されている。道中にはワインディングもあるからスタート前からして不安が過る。だが、遠慮して電費優先にしてしまうと、本質は分からない。自動車メディアによくある燃費テストのような運転をしては、実用範囲を知ることはできないから、ここは思い切って通常運転することに決めてスタートした。

まずは『ソルテラ』、ハンドリングの素直さに驚いた

はじめに乗ったのは、スバル・ソルテラのAWDモデル。車両総重量は2トンを超えているからスタート早々から重さが気になってしまった。実のところ、筆者はこの電動車特有の、フロア下に置かれる巨大なバッテリーの重さが気になって仕方がない。2トン超えという実重量よりも、どうしてもこのバッテリーの塊を積んで走ることに抵抗を感じてしまうのだ。しかし、電動車の特異性を活かしたゼロ発進時の加速は十分以上だったのは事実。「重いけど、まぁ慣れれば許せるようになるかな」というのが第一印象だった。

Dセグメント寄りのCセグメントに属するボディサイズも見切りは良いし、取り回しもよく、昨今のクロスオーバーSUVと比較しても遜色ないパッケージングだが、それよりもトヨタとスバルが共同開発したBEV専用のアーキテクチャー「e-TNGA」の強靭な剛性と、ハンドリングの応答性の素直さには驚いた。フロア下の重さが気になるとはいえ、そのぶん低重心化を図れるとあって、途中のワインディングでは、軽快とはいかないまでも意外にも楽しんでドライブする自分がいた。

となれば、当然の如くバッテリー残量は急激に減る。特にスポーツモードの設定があるわけではないのに、シャシーが優れているおかげで、こうしたスポーツドライビングを促してしまうから、かえって厄介だと思ったのは本当だ。本来なら褒めてやるべきことかもしれないが、BEVの場合はドライバーが運転を楽しんでしまうと逆効果になるということを深く思い知らされた。それゆえに、乗り換えポイントに到着する頃には、約束を守ることができず、残りの走行可能距離は200kmを下回ることに……。

「やばい、叱られるのか!?」などと思いつつ、次に乗ったトヨタbZ4Xのバッテリー残量を確認すると、ほぼ同じ状況の200km弱になっていたから、筆者の運転のせいではなさそうだ。ここまで乗ってきた前者もほぼ同じということは、現実的にギリギリな条件だったのだろう。それよりも、こうしてヒヤヒヤしながら乗るのがBEVの宿命なのかと思うと、心情は極めて微妙である。

『bZ4X』に乗り換え、キャラの違いを実感する

そう思いつつ、bZ4Xを金沢に向けて走り出すと、先のソルテラよりも快適性が高いことを実感。こちらはFWDモデルだから印象が異なるのかと思って後に開発陣に聞いたところ、トヨタとスバルで意図的にセッティングを変えていることが判明した。

端的に言うと、トヨタは乗り心地など快適性を優先し、一方のスバルはスポーティさを重視しているとのことだった。それぞれのブランドの特徴を優先してのことらしいが、確かにトヨタbZ4Xの場合、FWDということもあるのか、ソルテラのようにドライビングが楽しめるというよりも、“秀逸な出来”という印象が先立つため、比較的エコ運転を心がけるような効能があるのかもしれない。

その電費に関してさらに加えると、セッティングの違いもあって両車でわずかに異なるが、本気で購入を考えるなら、むしろ重視するのはタイヤサイズのほうだ。例えば、bZ4Xの場合、標準の18インチと、オプションの20インチを比較すると、もっとも電費の良いFWDでは満充電で47kmもの差があり、電力消費率で見ても13Wh/kmほど異なる(いずれもWLTCモード。メーカー公表値)。

本質を考えると、どちらを選択するか自ずと答えは出てくるが、とはいえAWDモデルも捨てがたい魅力があるのは確かだ。FWDのドライブモードは「ECO」「NORMAL」「SNOW」と3モードの設定に対して、AWDはSNOWモードに変わって「X-MODE」が別途設けられ、その内訳には「SNOW・DIRT」「DEEP SNOW・MAD」「Grip Control」が揃えられているだけに、意外にも楽しそうな予感がする。無論、地域によってはAWDが必要な人もいるだろう。また、回生ブレーキの効きを調整できるパドルシフトが備わるのはソルテラのAWDだけなので、より走りを楽しむならソルテラ、という選び方もできるだろう。

残念ながら今回は、bZ4XのAWD仕様には乗れなかったから違いの詳細は分からないものの、bZ4X及びソルテラ、いずれも完成度が高いことは今回の試乗を通じて、よく分かった。トヨタとスバル、FWDとAWD、どちらの何を選択するかは、あなた次第だと言えるが、その一方で、もっと重要な違いが実はこの両社にはある。それこそ、「購入方法」だ。

BEVとサブスクの相性は抜群!「GR」や「STI」の可能性は

スバル・ソルテラのカタログには、通常通りの車両本体価格が表記されているが、トヨタbZ4Xの場合は、KINTO、またはリースのみ。即ち、トヨタはサブスクを推奨しているのが最大の違い。実はこれこそBEVの本質を物語っている証し。最長10年、5年目以降は途中解約金不要としているうえ、契約期間中は駆動バッテリーを10年20万km、容量も70%を保証。しかも車検や法定点検、おまけにタイヤなどの消耗品まで含まれている。

いくら出来の良いクルマであっても、いずれは寿命を迎えるのは当たり前。ましてや電気自動車の場合、使用済みのリチウムイオンバッテリーの処理も問題視されている。ならば後のリユースやリサイクルすることも考えれば、予め回収することを前提にしたサブスクこそ、BEVを手にするには最適なのは言うまでもないだろう。今や“人生を共にする1台”を選びたいと、愛情たっぷりのエンスージアストが好むようなクルマはこの先出ないことも示唆している時代だ、地球環境を考慮してサスティナブルな買い方を進めなければならないことを思えば、KINTOとBEVの相性は抜群と言える。

と断言してしまうと、もう「クルマを趣味する」時代は終わったのかと思われそうだが、この先には、また別の形で余白が残されているから期待していいのかもしれない。この試乗を終えて開発陣にbZ4Xやソルテラをベースにした「GR」や「STI」の可能性はあるかと訪ねたところ、十分に考えられるとの解答をもらった。もちろん、その需要が見込めればという前提ではあるようだが、少なくとも内燃エンジン車から電動化への移行を加速させるにも魅力的な商品づくりがキーになるし、モータースポーツの世界でも電動化を推し進めるようになるから、その影響力を思えば、BEVのスポーツグレードは必然と言えるだろう。

2030年までに急速充電の設置は3万基程度

その日を迎えるためにも、一日も早くインフラの拡充を強く望みたいところだ。冒頭でも触れたように日本の充電設備はまだまだ足りないのが実情。集合住宅が多い都市部など、BEVを購入したくてもその環境が整っていなければ現実的に考えられない。ましてや地方など、論外と思えるほど充電環境はお粗末。実際、この試乗時に途中で充電設備があったのは、後半約130kmの間に、12箇所程度。しかもどこも1基のみの設置で、半数程度は出力20kWだった。

自動車メーカーは今、必死である。それを受け入れるにも、政府の後押しは必要不可欠。2030年までに15万基を設置する方針らしいが、そのうち急速充電は3万基程度だという。これでBEVは本当に浸透していくのだろうか? これが最大の課題である。それともその前に非接触充電システム=ワイヤレス給電の実現を先に期待したほうがいいのだろうか?

筆者に限らず、BEVに対する揺れ動く気持ちは、まだまだ続きそうである。満充電で500km強と謳われても、エコ運転でもしない限りこの距離には達しないのだから……。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

野口 優|モータージャーナリスト
1967年 東京都生まれ。1993年に某輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。後に三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務し、2008年から同誌の編集長に就任。2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。25年以上にも渡る経験を活かしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動中。

《野口優》

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