【VW ティグアン 新型試乗】自動車村のヒエラルキーを脱却できるか…中村孝仁 | Push on! Mycar-life

【VW ティグアン 新型試乗】自動車村のヒエラルキーを脱却できるか…中村孝仁

◆クルマのバリューとは一体何だろう?
◆新しい『ティグアン』、文句の付けようがない
◆ブランドの魅力をどう捉えるか

自動車 試乗記
VW ティグアン TSI R-Line
  • VW ティグアン TSI R-Line
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クルマのバリューとは一体何だろう?

日頃いつも思うことだが、自動車ジャーナリストのクルマに対する評価ってどうよ?ということ。もちろん自分も含めてのことなのだが、どうも少し引っかかる部分がある。

それはある人は性能に対して非常に細かく評価をし、またある人は総合的に乗り味や快適さなどを評価する。しかし、例えば限界付近の性能を論じたところでエンドユーザーにそれが一体何に役立つのか?という部分。ある仲の良いジャーナリストに諭された。それは皆個人の持つ言わば「芸風」であると。確かにその通りだ。なので、読者はその好みの芸風で評価をするジャーナリストの論を信じればよい。

とここまでは納得なのだが、所詮クルマだって、一介の商品。つまりは費用対効果が求められて値段に対するバリューがどうであるかは重要な要素であると個人的には考える。最近流行りの高級パンではないが、同じサイズでも倍以上の値段のものがポンポンと売れる時代だから、一体バリューというものがどこにあるのか判断はとても難しい。


自動車はこのところ値上がりの一途をたどっている。それは例えばインフォテイメントだったり、ADAS系の装備だったり、少し前なら装備品として全く考えられなかったものがどんどんと付くようになり、それらがクルマの値段を押し上げている。

クルマのバリューとは一体何だろう?極めて単純な比較だが車種を特定せずにブランドで選ぶとしたら、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンと並べられて、あなたは一体どれをチョイスするだろうか?実はここにこれまで連綿と積み上げられてきた自動車村のヒエラルキーがある。極めて単純な話、1台差し上げますよと言われたら、きっとあなたはメルセデスかBMWを選ぶのではないだろうか。

多くの自動車メーカーはこのヒエラルキーからの脱却を目指している。恐らくフォルクスワーゲンも、である。

新しい『ティグアン』、文句の付けようがない


新しい『ティグアン』はクルマに乗ってみると何の不満もなく、とても良くできたクルマであった。マイナーチェンジではあるものの、エンジンは新たに1.5リットルに拡大されたTSIユニットを搭載し、トランスミッションはこれも新たに乾式の7速DSG(※)が装備される。このトランスミッション、数多あるツインクラッチ式のものとしては最良といって良いと思う。発進時のスムーズさ、シフトアップやダウン時の素早さと繋がり感の良さなど、どれをとっても文句なしだ。

1.5リットルとなったエンジンも非常にスムーズだし、パワー感は個人的には予想をはるかに上回る軽快でトルクの盛り上がり感などサイズを考慮すればこちらも文句の付けようがない。室内の仕上がり感も中々クリーンにまとめられていてデザイン的には平凡だが作りこみ感、仕上がり感も十分に満足が行く。


静粛性も高い。そしてハンドリングは軽快でヒタヒタと路面を綺麗にトレースし、攻め込んでいっても高い重心であるにも関わらずノーズの切れ込み感なども鋭くこの点も完全に自分の中では及第点を大きく上回る出来である。

というわけで商品としてのティグアンははっきり言って素晴らしい出来だといえよう。ただ冒頭話したようにVWの指名買いの人なら躊躇ないかもしれないが、同じセグメントであれこれ悩んでいる人にとっては、難しい選択を迫られる。

ブランドの魅力をどう捉えるか


例えば同じグループ内のアウディ。『Q3』はサイズ的にもほぼ同じでセグメントも同じだが、価格はベースモデルこそ高いものの、FWDモデルの最高峰は実はティグアンの方がQ3よりも高い。同様にプジョー『3008』などもFWDならばティグアンよりも安い。

勿論装備内容を精査したわけでなく価格的な字面だけだから内容は異なるのかもしれないが、要するにかつて我々が思い描いていた自動車村のヒエラルキー中にあって、VWの価格はこのところ上昇し、かつてはVWより高級と位置付けられていたアウディと同等のレベルに来てしまっているということだ。

ブランドには根強いファンがいるから、価格が上昇してもファンの信頼性が損なわれることはないと思う。しかし、それはあくまでも既納客に限ったことであって新規顧客にとっては選択肢の一つに過ぎないわけで、クルマには何の不満もなくてもブランドの魅力をどう捉えるか。ある意味でVWは今正念場にいるのかもしれない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

※記事掲載時、「湿式」としておりましたが正しくは「乾式」でした。修正し再掲載いたします。

《中村 孝仁》

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