【マセラティ MC20 海外試乗】V6ターボの刺激とインテリアに新生マセラティの息吹…渡辺慎太郎 | Push on! Mycar-life

【マセラティ MC20 海外試乗】V6ターボの刺激とインテリアに新生マセラティの息吹…渡辺慎太郎

◆マセラティは空気が読めない会社なのか?
◆スポイラーがほとんどないのは「その必要がなかった」
◆ステアリングを切りたくなる、スロットルペダルを踏みたくなる

自動車 試乗記
マセラティ MC20
  • マセラティ MC20
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マセラティは空気が読めない会社なのか?


昨年鮮烈なデビューを果たしたマセラティ『MC20』の試乗会が万全な感染症対策の元、本社のあるイタリア・モデナで開催された。厳しい状況下でも試乗会開催の判断を下したのは、このクルマがマセラティの今後のロードマップを示す新たな道標となる存在だからである。

ハイブリッドだEVだと、世界の自動車メーカーがこぞって電動化の大波に乗っかっている最中に、V6ツインターボを搭載したいわゆるスーパーカーを出すなんて、マセラティは空気の読めない会社なのかと思われるかもしれないけれどそんなことはない。マセラティは2022年に史上初となるBEV版のMC20発表をアナウンスしているし、すでに『ギブリ』と『レヴァンテ』にはハイブリッドを追加した。つまりMC20は開発当初からBEVへのコンバートも考慮した設計がされているのである。

さらにこれまで『グランツーリズモ』/『グランカブリオ』を生産していた本社工場に新たな設備投資をして、ペイントショップを含むMC20の生産ラインとエンジン生産ラインを構築した。その時限りの楽観的モデルではなく、将来をきちんと見据えていると同時に、Made in Modena、Made in Italyにもこだわっているのである。

スポイラーがほとんどないのは「その必要がなかった」


バタフライドアを持つMC20はインハウスのデザインで、空力に関してはレーシングカーを手がけるダラーラの協力を仰ぎ、彼らの風洞実験室を使ったという。見た目のインパクトよりはむしろ機能を優先したデザインで、特に前後に適正なダウンフォースが得られるよう空気の流れをコントロールできるようになっている。スーパーカーでよく見るリヤウイングなどのスポイラーがほとんどないのは「その必要がなかった」からとデザイナーの弁。

エンジンをキャビン後方に搭載するミッドシップレイアウトだが、フロントフェイス下部に設けられた開口部にはエンジン冷却用のラジエターを置き、リヤフェンダー上部の開口部にはターボ冷却用のラジエターを配置している。キャビンはCFRP製モノコックのバスタブ式。その前にフロントアクスル、後ろにパワートレインとリアアクスルを締結するパッケージである。


エンジンはこのクルマのために新たに開発された3リットルのV6ツインターボで、マセラティのシンボルでもあるネプチューンのイタリア語“ネットゥーノ”と命名された。重心を下げるために90度のバンク角とドライサンプを採用しているが、最大の特徴はF1由来の技術であるプレチャンバーを設けている点にある。

通常のエンジンはプラグで点火するが、プレチャンバーはシリンダー上部に小さな副燃焼室を持っていて、そこで混合気に点火して火炎をシリンダー内に送り込む機構。火花ではなく火炎なので燃焼効率がよくレスポンスも向上するメリットがある。副燃焼室にもプラグがあるので、ネットゥーノはV6だがスパークプラグは12本存在する。さらにポート噴射と直噴のデュアルインジェクションなので、インジェクターも12本。組み合わされるトランスミッションは8速DCTのみである。

ステアリングを切りたくなる、スロットルペダルを踏みたくなる


こんな格好で630ps/730Nmを発揮するエンジンを積んでいるから、さぞや運転の技量が試されるスポーツカーと思いきやさにあらず。一般道からサーキットまで、想像以上に守備範囲が広く運転がしやすかった。バタフライドアなんかを開けて乗り込むからなんとなく身構えてしまうものの、走り出すとちょっと拍子抜けするくらいフツーに運転できる。

ステアリングとペダルの操作荷重は適正で重すぎず軽すぎず。ドライバーの入力に対する反応もまったくナーバスではないが、ドライバーのわずかな動きも見逃さず操作した通りにきちんと動いてくれる。乗り心地は望外によく、これなら助手席から文句も言われないだろう。ドライブモードはGTがデフォルトで通常はこれでもう十分だが、スポーツを選ぶとエンジンの存在感が増す。同時に電子制御式ダンパーの減衰力が上がるが、乗り心地をそのままにしたい場合はサスペンションだけソフトを選べるのが嬉しい。


ネットゥーノが本領を発揮したのはサーキットだった。プレチャンバーは常に作動しているわけではなく、おそらくタウンスピードでは通常燃焼で回っていると思われるからその恩恵はあまり感じられない。サーキットのように高負荷域を多用するシーンではレスポンスのよさが際立って、欲しいときに欲しいだけのパワーが瞬時に得られるのである。

この時に気がついたのは4輪の接地性の高さ。730Nmという強力なトルクにもかかわらず、後輪はしっかりと路面をグリップして離さないし、前輪もタイヤの接地面変化が少なく舵角通りにフロントの向きを変えてくれる。そしてミッドシップの真骨頂である回頭性のよさはもちろん備えているから、とにかくステアリングを切りたくなる、スロットルペダルを踏みたくなる、そんな印象のクルマである。

インテリアは既存のマセラティに見られる艶やかな感じというよりは、運転に集中できる機能的な雰囲気が漂っているが、本革やアルカンターラのしつらえは相変わらず上質で抜かりない。刺激的な走りだけでなくコクピットからの眺めにも、新生マセラティの息吹が感じられた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。

《渡辺慎太郎》

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