【ルノー メガーヌR.S. 新型試乗】「世界最速のFF車」がもつ最大の武器とは…吉川賢一 | Push on! Mycar-life

【ルノー メガーヌR.S. 新型試乗】「世界最速のFF車」がもつ最大の武器とは…吉川賢一

2021年3月4日に日本販売開始となった、ルノー『メガーヌR.S.(ルノー・スポール)』。メガーヌR.S.といえば、ドイツ・ニュルブルクリンクのFF量産車最速(2021年5月時点)のタイトルを持つ、最強のFFハッチバック・スポーツカーとして有名だ。

自動車 試乗記
ルノー メガーヌR.S. 改良新型
  • ルノー メガーヌR.S. 改良新型
  • 強めの制動をすると、ハンドル操舵角を固定していても、クルマがイン側へと切れ込み、想像よりもヨーが出て、強く巻き込むような動きをする
  • ルノー メガーヌR.S. 改良新型
  • フロントリップスポイラーは低い位置にある 車体下面に流れる空気の量を制限しているようだ
  • 接地面とホイールまでのハイトが5センチに満たない35扁平のタイヤなので、硬さがそれなりに目立つ
  • ナパレザー/アルカンターラステアリングホイールは、手にしっとりとなじむ感触。剛性感の高いステアリングフィールとよく合う
  • ルノー メガーヌR.S. 改良新型
  • ACC作動時、アクセルペダルから降ろした右足を置くエリアがあるのも良い。オフモード時の通常使いにも適している

2021年3月4日に日本販売開始となった、ルノー『メガーヌR.S.(ルノー・スポール)』。メガーヌR.S.といえば、ドイツ・ニュルブルクリンクのFF量産車最速(2021年5月時点)のタイトルを持つ、最強のFFハッチバック・スポーツカーとして有名だ。

正しくは、FF最速タイムを記録したのは「メガーヌR.S.トロフィーR」を改良したスペシャルマシンであったが、そのベースであるメガーヌR.S.のもつ速さは間違いないところだ。

今回、このメガーヌR.S.に試乗させていただくことができた。メガーヌR.S.の持つ速さだけでなく、ツーリングカーとしてのバランスの良さもあり、感激の連続だった。その様子をお伝えしていこう。

「FF最速」を競い合うタイプRとの違い


今回のマイナーチェンジのビッグポイントは、上級グレードのR.S.トロフィー専用だった最大出力300ps/最大トルク420Nmを発生する1.8リットル直4ターボエンジンが、ベースグレードのR.S.にも搭載された点だ。メガーヌR.S.を手にした誰もが、刺激的な速さを体験できるようになり、これによって商品力がぐっと上がっている。

同時にアダプティブクルーズコントロールや、歩行者検知機能付き衝突被害軽減ブレーキなど、先進運転支援も強化された。

ボディサイズは全長4410×全幅1875×全高1465mm、ホイールベース2670mmと、欧州Cセグメントの上限に近いサイズを持つ。ちなみに、ライバルのフォルクスワーゲン『ゴルフR』(4275×1800×1465mm、ホイールベース2635mm)よりも、幅が広くて長い。異様に前後フェンダーが張り出した、背の低いハッチバック、それがメガーヌR.S.の魅力でもある。

メガーヌR.S.と「FF最速」を競い合う、ホンダの『シビックタイプR』のように、いかにもリフトの低減効果がありそうなリアウィングや、低く幅の広いリップスポイラーとは違い、メガーヌのボディには、「いかにも」という空力アイテムはついていない。

フロントから流れてきたエアを、リアエンドで抜くリアバンパー下の大型ディフューザー。外部からは見えないが、奥行きが深く、まるでレーシングカーのようだ
というのも、メガーヌR.S.の場合、リフトの低減はクルマの底を流れる空気を利用している。低いフロントスポイラー下と地面との間を流れる気流を、リアエンドまで送り、リアバンパー下の大型ディフューザー(外部からは見えない)へと導き、下面から出た気流の負圧を利用し、リアのリフト低減を行っているのだ。

メガーヌR.SとシビックタイプR、どちらが正しいということはないのだが、サーキットでは近しいタイムをたたき出すのに、空力の使い方がこうも違うのは、実に面白い。

余談だが、冒頭で触れたように「FF最速」は現在、メガーヌR.Sが保持しているが、これには、シビックタイプRがコロナ禍の影響で、改良型モデルでのニュルのタイムアタックができていない、という事情もあるようだ。

スタートスイッチを押した瞬間から感じる、高い戦闘力

ナパレザー/アルカンターラステアリングホイールは、手にしっとりとなじむ感触。剛性感の高いステアリングフィールとよく合う
メガーヌR.S.の高い戦闘力は、スタートスイッチを押した瞬間から隠すことはできず、「バウン」という始動サウンドを轟かせ、野太いアイドリングに落ち着く。外部から聞いていると「ガリガリ」といった硬質な音もするが、コクピットにいると「ゴー」という低音になり、また、若干のアイドリング振動を伴う。このアイドリングサウンドとエンジンの振動が実に心地よい。きっと、好きになる人は多いはずだ。

サイドサポートの張り出したセミバケシートは、乗り込みにちょっとコツがいるが、座り込んでしまえば体にフィットする良いシートだ。ほんとに、ルノー車のシートは素晴らしい。

走り始めのファーストタッチの印象は、路面の凹凸をなぞるようなタイヤの硬さを感じる。接地面とホイールまでのハイトが5cmに満たない35扁平のタイヤなので、硬さがそれなりに目立つ。だが、スプリングレートやダンパー特性は、程よく締まっている印象で、硬すぎることはない。

カタログデータによると、R.S.の設定(シャシースポールと呼ぶ)でのロールレートは2.9度/G(左右加速度1Gあたりのロール角度)となる。おおよそ、一般乗用車の半分程度となるので、スプリングレートに加え、スタビライザーも強化されたアイテムが入っているのだろう。しかしながら、乗り心地は絶妙なバランスに収まっている。

R.S.のロゴが光るフロントセミバケットシート。身体にものすごくフィットするため、加減速Gや旋回横Gが発生しても、身体がずれることはほぼない

公道で味わうことができる性能は、ごく一部

徐々にペースを上げていくと、いかにもスポーツカーらしいサウンドはするが、ドライビング操作で苦労することはなく、実に乗りやすい。コーナーも良く曲がり、ブレーキングも操作した通りにこなす。強力なタイヤグリップと、良く効くがコントロールはしやすいブレーキ、そして、クルマ本来がもつ転がりの良さ(空気抵抗が少ない印象)で、走りが軽やかだ。ルノーお得意の後輪操舵「4コントロール」も、低速コーナーでの回頭性には効果絶大だ。

ちなみに、車速80km/hでの旋回中に、強めの制動をかけて30km/h程度にまで落とすと、ハンドル操舵角を固定していても、クルマがイン側へと切れ込み、想像よりもヨーが出て、強く巻き込むような動きをする。それが、4コントロールによるものなのか(60km/hを境にしてリア操舵角の位相が反転するロジック)、その他の特性によるものなのかは判別出来ないが、「そういう特性がある」と思えば、また面白くも感じる。

強めの制動をすると、ハンドル操舵角を固定していても、クルマがイン側へと切れ込み、想像よりもヨーが出て、強く巻き込むような動きをする
更にスピードを上げて高速走行をしていく。高速直進性の高さ、舵の落ち着き、余力たっぷりのエンジントルクなどが武器となり、メガーヌR.S.は、高速巡航が非常に得意だ。また強めのレーンチェンジでも、リア追従が速く、ヨーの収斂性は素晴らしい。かつては日産にあった後輪操舵車にも乗ったことがあるが、メガーヌR.S.はボディが小さくて軽い分、さらに素早い応答性となっている。

また、ACC作動時、アクセルペダルから降ろした右足を置くエリアがあるのも良い。長距離移動するときのような、オフモード時の通常使いにも適している。

だが、公道で味わうことができるメガーヌR.S.の性能は、そのごく一部だ。高速道路でも、「アクセル全開」にすれば、わずか数秒で制限速度に到達してしまうため、日本の公道では、一瞬の加速フィールを味わうのが限界だろう。サーキットにでもいかないと、とてもじゃないが本領発揮なんてできない。今回の試乗では、そのポテンシャルのすべてを味わうことができず、とても悔しい。

欲しいクルマランキング上位に躍り出た

高速道路でも、わずか数秒で制限速度に到達してしまう。日本の公道では、一瞬の加速フィールを味わうのが限界だろう
と、ここまで絶賛してきたメガーヌR.S.だが、細かい点をみていけば、気になる点がないわけではない。しかしこのメガーヌR.S.には、「現時点でのニュルFF最速タイムのホルダー」という、なにがなんでも「所有したい」と思わせてくれる魅力的なバックストーリーがある。今回の試乗では、その期待を裏切らない、見事な動性能を備えていることを確認できた。ドライバーがオフモードのときには、スポーツマインドを「スッ」と消して快速ツアラーにもなる懐の深さも魅力的だ。

ということで、今回のメガーヌR.S.は、筆者の欲しいクルマランキング上位に躍り出た。メガーヌR.S.の車両本体価格は税込464万円。予算を用意する必要があるが、いい出会いがあれば、間違いなく手に入れるだろう。

ルノー メガーヌR.S.と吉川賢一氏

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

吉川賢一|自動車ジャーナリスト
元自動車メーカーの開発エンジニアの経歴を持つ。カーライフの楽しさを広げる発信を心掛けています。

《吉川賢一》

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