【プジョー 308ディーゼル 3500km試乗】ロングラン&欧州車好きにはたまらない[前編] | Push on! Mycar-life

【プジョー 308ディーゼル 3500km試乗】ロングラン&欧州車好きにはたまらない[前編]

フランスの自動車メーカー、プジョー・シトロエンの欧州Cセグメントコンパクト『308』のターボディーゼルモデルで3500kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。

自動車 試乗記
プジョー308 アリュール BlueHDi。アリュールはフランス語の俗語で「個性」のようなニュアンスがある。また、古フランス語では魅惑するというニュアンスもあった。そういう意味が込められているのだろう。
  • プジョー308 アリュール BlueHDi。アリュールはフランス語の俗語で「個性」のようなニュアンスがある。また、古フランス語では魅惑するというニュアンスもあった。そういう意味が込められているのだろう。
  • プジョー308 アリュール BlueHDi。滋賀・長浜にて。
  • ガラスに空を映す。赤とのコントラストがなかなか美しかった。
  • プジョー308アリュール BlueHDiのミラーまわり。きわめてオーソドックスな造形。
  • プジョー308アリュール BlueHDiのサイドビュー。プロポーションは中庸。
  • 205/55R16サイズのミシュラン「エナジーセイバー」を履く。なかなかしなやかなタイヤだった。このサイズだとリプレイス品も見つけやすく、価格も安いであろう。
  • プジョー 308 Allure BlueHDi
  • 前席。シートはタイトすぎずルーズすぎずという程よさ。

プジョー308の長所と短所

フランスの自動車メーカー、プジョー・シトロエンの欧州Cセグメントコンパクト『308』のターボディーゼルモデルで3500kmほどツーリングする機会があったので、インプレッションをリポートする。

プジョー308は初代が2007年にデビューしたCセグメントコンパクト、すなわちフォルクスワーゲン『ゴルフ』と同カテゴリーのモデルである。308が登場する前は『305』『306』…と、代替わりするごとに末尾の数字が1個ずつ上がっていくのがプジョーの常であったが、10の位のゼロが1に侵食されそうになってきたため、世代によらない固有のモデル番号にすることとなった。

現行308は、その308の第2世代で2013年に欧州デビュー。クルマの基本部分が刷新され、軽量なモデルに仕上げられた。今回ツーリングしたのは「Allure(アリュール) BlueHDi」という1.6リットルターボディーゼルを積むグレード。2リットルターボディーゼルのGTは8月に変速機が8速AT化されたが、1.6リットルのほうは6速ATのまま残された。本国では1.5リットル+8速ATの新鋭ターボディーゼルが登場しており、日本市場にそれが投入されるまではこの仕様で行くのであろう。

スペックは最高出力88kW(120ps)/3500rpm、最大トルク300Nm(30.6kgm)/1750rpm。排出ガス浄化は尿素SCRで行い、JC08モード燃費は21.0km/リットル。車両重量は1340kg。ガソリン直列3気筒モデルに対する重量増加は50kgで、デビュー時期がそれほど新しくないディーゼルユニットとしてはそこそこ軽量に作られているようだった。

試乗ルートは往路が山陰、復路が山陽経由の東京~鹿児島間の周遊で、総走行距離は3491km。長距離移動時は1名乗車、九州内では1~4名乗車。天候は往路と復路の一部で強い雨に降られた時以外はおおむね晴天。エアコンAUTO。

では、ドライブを通じて感じられた308BlueHDi1.6の長所と短所を5つずつ。

■長所
1.設計が古いにもかかわらずスロットル操作に対して素晴らしい応答性と抜群の力感を示したターボディーゼル。郊外路では燃費性能も安定。
2.63cm+キャスターサイズの旅行トランクを4つ並べて積めるスクエアな形状のラゲッジスペースが旅向き。
3.小径ステアリングが生む軽快無比な独特の操縦感覚。
4.一見何の変哲もないようでいて、風景の中に置いてみるとフィニッシュの美しさが目立ったエクステリア。
5.良路ではフラット感が高く、身体への攻撃性の低い乗り心地が維持されたこと。

■短所
1.足元の遮音材が省かれており、エンジンの透過音は今どきのディール車としてはかなり大きかった。ただしDIYで簡単に対策がききそう。
2.室内の収納スペースが不足気味で、何でもドアポケットに放り込むことに。
3.ボディは同社のBセグメント『208』ほどソリッドな感じでなく、少しユルめ。
4.荷室の奥行きにこだわったぶん割を食った格好の後席足元空間の狭さ。
5.市街地でルーズな運転をしていると落ちる燃費。

3500kmを走ってみて


まずは3500km試乗の雑感から。308の1.6ターボディーゼルは、ロングラン好きの欧州車好きというカスタマーにはなかなか刺さる部分が多いであろうクルマだった。

操縦性、安定性はスポーツタイプに限らず高速性能への顧客からの要求が厳しい今どきの欧州Cセグメントに恥じないレベルを十分に満たしており、十分に面積が取られたウインドウやピラー配置の適切さが生む良好な斯界とあいまって、長距離・長時間走行時のストレスはごく小さいものであった。乗り心地は欧州のCセグメント市場で一強となっているゴルフと比べると路面の得手、不得手がはっきりしているがおおむね良好で、長旅にともなう疲れの蓄積は小さかった。

1.6リットルターボディーゼルはロングランにおいては燃費が良く、ワンタンクでの無給油航続距離は軽く1000kmを超えた。また、エンジンと6速ATの協調が生む切れ味の良さはプレミアムセグメントばりで、とくに一般道の制限速度が先進国中ぶっちぎりに遅い日本では上位グレードのGTに積まれる177psエンジンでなくてもこれで十分満足でき、積極的に楽しむことさえできるのではないかと思われた。

プジョーらしさが感じられるポイントも多々あった。たとえばステアリングが異様に小径で、メーターパネルがステアリング上端から見越すというコクピットデザイン。これだけハンドルが小さいと運転感覚はどうなのかと思ったが、実際に長距離ドライブをしてみると、ステアリング操作が小さな動きでできるというのはなかなか具合がよろしく、軽快であるし、肩こり防止にも良さそうだった。

前席が広々としているのに対し、後席は足元空間がフォルクスワーゲン『ゴルフ』に比べると狭いが、これもちゃんと理由がある。ラゲッジルームの奥行きが深く、63センチサイズの中期旅行用トランクを、いちばん長い辺を奥行きに向けて搭載することができるだけのキャパシティを持たせているのだ。高さ方向にも余裕があるため、厚すぎないトランクなら4つ積むことも可能。これが偉いとか偉くないという話ではなく、クルマで長旅をするにはこういう仕様がいいという、プジョー流の考え方が表出しているポイントのひとつと言えよう。

308を選ぶ理由


欠点としては、足元からのディーゼルエンジンのノイズの透過が今どきのクルマとしては過大なことがまず挙げられる。後述するが、対策はDIYで簡単にできそうで、商品力を大きく左右する静粛性についてなぜこんなコストダウンをしたかというのはいささか謎だった。

ボディは衝突安全や空力、走行抵抗削減といったスペックはしっかり作りこんであるのだろうが、フィール的には下位の『208』が「これって補強ボディじゃないの?」と思うくらいカッチリしたのとは対照的にユルい感じで、質感の面ではマイナスだった。デザイン性優先の代償か、小物入れが不足しているのもネガティブに感じられた。

308の根拠地である欧州において、Cセグメントコンパクトカテゴリーの圧倒的なリーディングモデルとなっているのはフォルクスワーゲン『ゴルフ』で、他のモデルにダブルスコア以上の差をつけている。筆者は昨年末にゴルフのTSIハイラインで3700kmほどツーリングを行ったが、性能云々以前にクルマの動き、車室と荷室のバランス、安全装備、室内のレイアウトなどがいちいちウェルバランスで、失点が少ない。その壮絶な中道ぶりにかんがみて、欧州市場でゴルフ一強になるのもむべなるかなだ。

では、308を選ぶ意味は薄いのかといえば、そんなことはない。エステートですらないCセグメントの普通のハッチバック車に荷物を山のように積んで長旅をしたい、その旅にしても高級ホテルで散財するよりは低価格なキャンプ場などで自然に親しみつつ、浮いたお金で旅の遊びを豊かにデザインしたいといったフランス流のミニマルな休暇スタイルを志向する旅人には、308は断然合う。また、一見何の変哲もないCセグメントだが、よく見るとあちこちが艶やかに作られており、ボディカラーの調色も素敵だ。そういう秘めやかな洒落感を求める人にも良さそうだった。

308のシャシー性能は


では、要素ごとにもう少し細かく見ていこう。まずはロングツーリングを支える乗り味を決める最大ファクターであるシャシー性能から。308のサスペンションはフロントがストラット、リアがトーションビームというごく一般的なレイアウト。そのチューニングはエキセントリックではなく徹底して安定重視に振られた、ツーリング向きのものだった。

ロードホールディングはマイルドかつ粘りのあるもの。308といえばスポーツモデル「GTi」のイメージが強いことであろうが、このディーゼルモデルはステアリングの舵角とロール角がぴたりと一致するような研ぎ澄まされたGTiとは異なり、ドライバーの運転操作が適当でもそのダメなところを吸収しつつ、ゆるゆると走るような味付けであった。

タイヤは205/55R16というコンベンショナルなサイズのミシュラン「エナジーセイバー」。このエナジーセイバーというタイヤがエコタイヤのわりにはサイドウォールの柔軟性が高く設計されているようで、快適性の面でプラスに作用している感があった。一方、コンパウンドは高温時でも結構な固さを維持しており、グリップ力より耐磨耗性に焦点が当たっているような印象を受けた。

プジョーシトロエングループのモデルには、同じエンジンと同じタイヤを持ち、車体は308より1世代古いというシトロエンブランドの『C4』があった。1昨年秋、本サイトでC4の900km試乗記をお届けしたが、シトロエンのほうはドライバーがヘボい運転をした時の寛容性が低く、アウトインアウト、コーナリングへの減速しながらの進入といった古典的なドライビングセオリーにのっとると俄然生き生きと走り、そうでないと何だかよくわからない走りになるという性質があった。

同じグループではあれどハンドリングの性格付けの違いは顕著で、プジョーのほうがフールプルーフ。走行ラインをアグレッシブにトレースするような楽しみについてはC4に後れを取る半面、どんな運転でも受け入れるぶん万人向けであるやに思われた。

得手不得手がハッキリしている


乗り心地は基本的に良好。ただし、どんな道でも安定的に不整をいなすフォルクスワーゲンゴルフと比べると、得手不得手がややハッキリしている。

まず良路では不満を抱くことはなかった。いい道なのだから当たり前だろうと思われがちだが、良路といえども実は細かい路面のうねりや補修痕などのオンパレード。そういう小さい不整を余計な動きが出ないようにしながらなめすチューニングを徹底するのは大変なことなのだが、308はそこについては十分に良いと言えるレベルだった。

ゴルフに比べるとショックアブゾーバーの油圧感は弱めで、うねりを通過するときはピッチング(前後方向の揺れ)やふわつきが大きめに出るが、揺れの収め方が上手く、結果としてフラットに近い乗り味となっている印象だった。

細かいひび割れやピッチの小さなアンジュレーションが延々と続く、いわゆるベルジャンロードと呼ばれる路面状況や石畳には滅法強い。路面衝撃の吸収が柔らかであるだけでなく、振動でボディ全体が共振して耳を圧するような音波が出るドラミング現象がよく抑えられており、それが質感を高く感じさせるのに一役買っているようだった。

苦手なのは路盤の継ぎ目や雑な路面の補修など、衝撃のピークが強く出る角の立った不整の多い場所。ベルジャンや石畳路のような不整への耐性は高いのになぜそういう特性になるのかはわからないが、ドタバタ感が強まる。今回のドライブで通った道のなかでは国道1号線由比バイパスや名阪国道などが典型。日本ではそういう路面は意外に多いので、ここが良くなれば良さが増すのにと、ちょっと惜しい失点に思われた。

ロングドライブ性能をより高めるのであれば


ロングツーリングを支える運転支援システム、および安全装備について。欧州での登場が2013年と、モデルライフ後半に入っている308だが、運転支援システムについては現代的なモディファイを受けており、基本的には不満はない。

搭載されているのは前方をレーダーとカメラで監視しており、車線逸脱警報およびステアリング介入ありの車線維持アシスト、前方障害物に関するアラート、ハイ/ロー自動切換え式ヘッドランプなどからなる「ADAS」。カメラの車線認識率は良好で、少々かすれたラインでもちゃんと車線として認識した。ちょっと弱いなと思ったのは路上のポールなど、日本特有の障害物がある場所での認識だった。

車線維持アシストの介入は結構強めで、普段は少々うるさく感じられるかもしれない半面、万が一の事故防止の効果は高そうに思えた。ハイ/ロー自動切換えヘッドランプの作動は至極適切であったが、インテリジェント配光機能のない単純切り替え式はどのメーカーもすっかり優秀になっているので、傑出しているというわけではない。

あればいいのにと思われた機能は前車に合わせて自動的に速度を調節してくれるアダプティブクルーズコントロール。2リットルモデルのGTには搭載されているのだが、外部環境を検知するセンサー類は共通とのこと。いまやスズキ『スイフト』やホンダ『N-BOX』などにも付いている時代なのだから、せっかくならばつけてほしかったところだ。

後編ではパワートレイン、居住感・ユーティリティ、デザインなどについて言及したい。

《井元康一郎》

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