【ホンダ ステップワゴン 3300km試乗】ツーリングミニバンとしての完成度は高い[後編] | Push on! Mycar-life

【ホンダ ステップワゴン 3300km試乗】ツーリングミニバンとしての完成度は高い[後編]

ホンダの5ナンバー3列シートミニバン『ステップワゴン』のハイブリッドモデル「スパーダハイブリッドG・EX ホンダセンシング」で東京~鹿児島間を3300kmほどツーリングしたのでリポートする。

自動車 試乗記
ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。下関にて。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。下関にて。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。福岡・田川にて。
  • 2列目からフロントシートの光景を眺めるの図。
  • タイヤはブリヂストン「トランザER33」。
  • 3列目シートから車内を俯瞰。
  • エンジンが発電専用運転を行っているときはエネルギーフローチャートにギアマークが表示されない。
  • ロングラン燃費はミニバンとしては望外の良さだった。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。山口・角島にて。

ホンダの5ナンバー3列シートミニバン『ステップワゴン』のハイブリッドモデル「スパーダハイブリッドG・EX ホンダセンシング」で東京~鹿児島間を3300kmほどツーリングしたのでリポートする。前編ではユーティリティ、居住感を中心にお伝えした。後編ではハードウェア、先進安全システム、デザインなどについて述べたい。

パワフルなハイブリッドシステム「i-MMD」

ステップワゴンのハイブリッドシステムは2014年に日本デビューしたセダン『アコードハイブリッド』が初出の「i-MMD」。通常はエンジンで発電し、100パーセント電気モーターで走るシリーズハイブリッド。高速域では状況に応じてクラッチがエンジンと駆動軸を直結させ、エンジンをモーターがアシストするパラレルハイブリッドとしても機能する――というものだ。モーターパワーは135kW(184ps)と、改良版アコードハイブリッドと同じだが、最終減速ギアをアコードの3.421から3.888へとローギアードすることにより、1.8トン超の重量級ボディに対応させている。

このi-MMDだが、電気モーターで135kWもの出力があるため、絶対的なパフォーマンスは申し分ない。静止状態からの飛び出しばかりでなく、追い越しや高速道路への流入などのさいにモノを言う40-80km/h中間加速も素晴らしかった。ガソリン車でいえば300ps級の3.5リットルV6を積むトヨタ『アルファード/ヴェルファイア』にも匹敵するであろう速さである。

高速道路のバリアを利用した0-100km/hのストップウォッチ計測では、ブレーキからスロットルへの踏み換えというシンプルな方法でもおおむね8秒フラットであった。タイム的には滅法速かった現行『フィットハイブリッド』初期型のフル加速には負けるが、5ナンバーミニバンでは唯一無二の俊足ぶりであるし、1.8トン超の巨体を強引に加速させるフィールは、軽いモデルとは異なる一種独特の迫力がある。

主基が電気モーターだけあって、走行フィールはEVライクだ。エンジンがかかっているときはパワートレインからの振動は皆無に等しく、エンジンがかかってもクルーズ時以外は駆動に使うわけではないので至って滑らか。ドライブシャフトとエンジンが切り離されていることがノイズ、バイブレーション面でどれだけ有利かがうかがえた。

ところでこのシステム、基本はシリーズハイブリッドだが、軽負荷で巡航しているときにはエンジンパワーを走行に使い、電気モーターがそれをアシストするパラレルハイブリッドになる。インパネ内にエネルギーフローを表示させると、エンジン、車軸、バッテリーの間にギアのマークが現れる。そのときがパラレルハイブリッドモードだ。エンジンの効率が高い領域で走れるときはパワーをいったん電力に変換するより直接駆動に使ったほうが燃費面で有利なのは、ちょっと考えれば誰でもわかることだ。それを実に細かく制御しているのが印象的であった。

パフォーマンス面での弱点を挙げるとすれば、スロットルペダルを踏んだときの応答性だろう。普通に走っていてちょっと加速するときなどは何の問題もない。加速の瞬間はバッテリーからの電力でほとんど事足りるからだ。

問題はバッテリーだけではとてもパワーをまかなえないフルスロットル時で、踏んでから発電用エンジンがフルパワーを出すまでのタイムラグはどうしても出てしまう。エンジン車との比較であればそれほど気にはならないが、普段のフィールがEVライクなだけに、そういうときにバッテリーからすべてのパワーが供給されるEVとの差が浮き彫りになるように思えた。もっとも、加速タイムラグはバラバラではなく一定なので、システムにちょっと慣れてくればそれを見越した運転で十分にカバーできるのも確かだった。

重量級ミニバンとしてはトップランナー級の燃費


次に燃費情報。ツーリング最初の給油は都内での満タンから535.6km走行地点の奈良・天理。給油量は32.22リットルで、表示燃費18.0km/リットルに対し、すりきり満タン法による実燃費16.62km/リットル。

次は一気に鹿児島まで。ステップワゴンハイブリッドはタンク容量が52リットルと、ミニバンの常でコンパクトカー並みのサイズしかなく、ワンタンク1000km超はちょっと難しいかと考えた。が、パラレルハイブリッドモードが維持されるといいなどシステムのおいしいところがちょっとずつわかってきたためか、平均燃費計値は東京~天理間よりはるかに良い水準で推移した。瀬戸内回りで鹿児島までちょうど1000kmくらいなので、もしかしたら無給油1000kmも行けるかもなどと思ったりした。

途中、福岡の飯塚から熊本まで大分の天ヶ瀬温泉経由の山岳ルートを通過することでそれを台無しにしたりしつつも、鹿児島~熊本県境まではゆうゆうと到達できた。この時点で走行距離約900km。目当てのガソリンスタンドまでは残り100kmちょっとだが、航続残は2桁kmしかない。残り航続60kmくらいになったところで給油警告灯が点く。なるべく燃料を使わないように、クルマのエネルギーコントロールに通常の3倍気を遣いながら走った。

給油から985km地点、鹿児島市目前の松元の地方道で航続残がゼロに。本当にあとちょっとなのだが、鹿児島市郊外の992.2km地点で給油。給油量は53.18リットルで、燃費計表示20.3km/リットルに対して実燃費は18.65km/リットルとなった。途中、もうちょっとエコに気を遣えば、あるいあ九州山地の険路でないルートを選んでいればワンタンク1000kmは十分行けるところだったのだが、結果は結果である。

以後の燃費は、

■急勾配だらけの実家付近を中心にチョイ乗り、たまに15kmほど先の郊外までという運転パターンの鹿児島市エリア169.0kmが13.5km/リットル(燃費計表示13.6km/リットル)。
■鹿児島起点で九州北部の八女地方から英彦山を経由する山岳ルートも通りながら山口・下関までの415.3kmが19.57km/リットル(同19.9km/リットル)。
■下関から長大な橋で知られる角島、萩、島根、鳥取を経て兵庫北部の豊岡に至る山陰のガッツリ海沿いルート532.3kmが18.65km(同18.8km/リットル)。
■豊岡から最終・東京までの645.8kmが19.15km/リットル(同19.8km/リットル)。

――というリザルトであった。

筆者は2014年、アコードハイブリッドで東京~鹿児島ツーリングを行っており、その時は往路がエコモードONで26.2km/リットル、復路がエコモードOFFで25.7km/リットルと、Dセグメントセダンの常識を覆すような燃費を記録していた。それと同じシステムを積んでいるのだから、重量、空力差を考えても20km/リットル超で行けるだろうと考えていたが、それはさすがに期待しすぎだった。しかし、1.8トン超の重量級ミニバンとしてはトップランナー級の燃費であることに疑いの余地はなく、家族での遠乗りの心理的バリアを低くする効果はかなり大きそうに思えた。

旧プラットフォームながらソリッド感あるボディ


シャシー、ボディに話を移す。ステップワゴンのプラットフォームは改良を施しながらも3世代使いまわしという古いものだが、少なくともボディの建て付けについては不満はなかった。5ナンバーミニバンのライバルたちと比べても、ソリッド感ではナンバーワンで、大きなうねりやギャップを乗り越えてもブルつきやミシつきはほとんどなかった。

ひるがえってダイナミック性能ではその古さがどうしても目立つ。ガソリン版はライバルのなかでも俊敏なほうなのだが、ハイブリッドはハイパワーと重量増の両方を受け止めなければいけないぶん、古いシャシーにとってはいささか辛いようであった。

最もネガが出るのはタイトコーナーが続く山岳路。前輪への重さのかかりが良くなく、トラクション、横方向のグリップとも不足気味。湧水が路面を濡らしているような場所ではいきなりきついアンダーステアが出たりする。もっとも、普段のドライブではそういう弱点が意識されるようなシーンはほとんどないし、タイトコーナーの山道では十分にスピードを落として走ればいいだけのことなので、これを理由にステップワゴンを嫌うほどではない。また、山岳路でもよく整備された路線の高速コーナーは得意で、大変落ち着いた挙動を見せた。

古いながらも上手くチューニングされているのは直進性。高速道路のクルーズは東名110km/h区間や九州自動車道の追い越し車線くらいのスピードでも至極安定しており、快適だ。また、ミニバンが苦手とする横風を食らったときのブレも小さく、ハイウェイエクスプレスとしての資質は高そうだった。

ただ、ホンダには高速での安定性が抜群に素晴らしい弟分『フリード』があり、それには負けている。ライバルだけでなく身内にも勝って、乗り出し400万円のモデルとしての説得力をさらに上げていくといいのではないかと思われた。

ホンダセンシングとステップワゴンのマッチング

先進安全システム「ホンダセンシング」は渋滞時前車追従機能を持つ全車速対応型。アダプティブクルーズコントロールはもちろん、ステアリングアシストつきのレーンキープアシスト、近接車両警報など、機能メニュー的にはアクティブハイビームを欠くこと以外、十分と言える。

ただ、システムの熟成度という観点では少なからず不満を覚えるレベル。たとえば高速を走っているとしよう。前に低速な大型車がいて、それを追い越すために追い越し車線に移動する。さあ、いよいよ横をすり抜けだというときになってブレーキがかかり、後続車に迷惑をかけることがままあった。また、緩いカーブで別の車線にいるクルマを先行車と誤認するケースも比較的多い。

ホンダセンシングそのものが悪いのではなく、ステップワゴンとのマッチングがいまひとつ決まっていないような印象。同じく東京~鹿児島ツーリングをやった弟分のフリードのほうは、機能的には渋滞追従がないなどステップワゴンより劣るが、認識については進歩したものだなあと思ったからだ。パワートレイン、ブレーキなど各部を連携させなければならない先進安全システムのキャリブレーションは大変だと思うが、せっかく付けるからにはストレスフリーを目指してほしいところだ。

ヘッドランプは高機能なカメラを実装していながら、手動ハイ/ロー切り替え式。乗り出し400万円クラスであることを考えると、先行車や対向車を避けて照射するフルアクティブハイビームとは言わずとも、せめてハイ/ロー自動切換え機能くらいは欲しいところだ。ただ、フィットのLEDビームと違って配光特性は良好で、夜間の山道でコーナー奥が全然見えないといったことはなく、その点は好感が持てた。

質感が出たスパーダのデザイン


デザイン考。ホンダは伊東孝紳前社長時代、デザインに力を入れるということで「エキサイティングHデザイン」をキーワードに、かなりアグレッシブなデザインを展開した。ステップワゴンもその名残で、側面にフェンダーアーチ状のプレスラインを持ち、サイドウインドウやバックドアは左右非対称。フロントフェイスも「ソリッドウイングフェイス」という左右のライトとグリルをブーメランのように一体化した特徴的な形状であるなど、かなりきつめのデザインである。

スパーダは昨年、ハイブリッドが追加設定されたさいに顔が大幅整形され、旧型スパーダのようなエッジの効いた顔になった。ミニバンにありがちな“ワル顔”で、左右一文字のめっきモールなどごちゃごちゃしているが、ソリッドウイングフェイス丸出しだった初期型に比べると質感は出たと思う。

ホンダのディーラー関係者に話を聞くと、デザインに関する顧客の評判は決して良いものではないという声が少なからず返ってくる。東京~鹿児島間の各地でいろいろ写真を撮ってみたが、せっかく高機能なバックドアを装備したりといった斬新性を持たせたのだから、デザインはむしろエレメンタルにまとめたほうが良かったのではないかというのが個人的感想であった。

が、5ナンバー3列ミニバンの場合、他がそんなにカッコいいかと言えば、そんなことはない。正直、五十歩百歩である。ほんのちょっとした悪目立ちがここまで販売に影響するということのほうが意外だとも思った。ちなみに今回乗った個体はマルーンのボディカラーをまとっていたが、こういう濃色系のほうが変な陰影やバックドアの切れ目が目立たず、シックに感じられるかもしれない。

ライバルの中でも最もツーリング向け

市場で苦戦が続くステップワゴンだが、今回乗ってみたハイブリッドG・EXはエコ性能、動力性能、快適性、使い勝手など、多くの項目で高い点をつけられる完成度の高いミニバンだった。疲労感が少なく、遠乗りでも神経を使わず走れるというのも魅力であった。

ライバルは本文中でも何度も触れたトヨタ・ノア/ヴォクシー/エスクァイア3兄弟のハイブリッド、および日産セレナe-power。そのなかでステップワゴンハイブリッドは性格的に最もツーリング向けで、アクティブ派のファミリーにはなかなかよさげだ。今回のような超ロングドライブにも余裕で応えたくらいなので、家族での2泊3日ドライブ旅行などはお茶の子さいさいであろう。

《井元康一郎》

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