【ホンダ ステップワゴン 3300km試乗】ライバルの後塵を拝する理由がわからない[前編] | Push on! Mycar-life

【ホンダ ステップワゴン 3300km試乗】ライバルの後塵を拝する理由がわからない[前編]

ホンダの5ナンバー3列ミニバン『ステップワゴン』のハイブリッドモデルで3300kmあまりをツーリングする機会があったのでリポートする。

自動車 試乗記
ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。山口の角島灯台近くにて。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。山口の角島灯台近くにて。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。鳥取砂丘付近にて。
  • ステップワゴン スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング。ホンダ青山本社を出発の図。
  • ピラーは細く、視界はとても良い。
  • フロントシート。
  • 横開きドアから荷室へのアクセスは本当に気軽で嬉しくなる。
  • 2列目シート。5ナンバーボディでのキャプテンシートは横幅が狭く、窮屈な傾向がある。ステップワゴンもその例に漏れず。
  • 「わくわくゲート」の横開きドアを開放の図。

ホンダの5ナンバー3列ミニバン『ステップワゴン』のハイブリッドモデルで3300kmあまりをツーリングする機会があったのでリポートする。

新型ステップワゴンの長所と短所

ステップワゴンの第1世代モデルが登場したのは1996年。コンパクトカーのコンポーネンツを使って大スペースの3列シートFWD(前輪駆動)ミニバンを安く作るというのがコンセプト。エンジン、変速機は1機種のみでスライドドアも片側のみというミニマリズムの権化、言うなれば3列シートの普通車版『ワゴンR』的なモデルであったが、そのミニマルぶりがカスタマーの心をとらえ、スマッシュヒットとなった。その後、モデルチェンジを重ねるごとにミニマルという特色は失われ、普通の豪華なミニバンとなっていった。

2015年にデビューした現行モデルは第5世代にあたる。1.5リットルターボとハイブリッドの2種類のパワートレインがあり、ハイブリッドシステムは北米セダン『アコード』が初出の「i-MMD」。普段はエンジンを発電のみに使い、電気モーターで走行するシリーズハイブリッドとして機能、そして一定速度以上の軽負荷時にはエンジンが直結状態となり、電気モーターがアシストにまわるパラレルハイブリッドに。走行状況に応じて効率の良いほうを選択するという、単純だが凝った仕組みである。

試乗車は最上級グレードの「スパーダ ハイブリッドG・EX ホンダセンシング」。カーテンレールエアバッグ、乗り心地とハンドリング性能の両立を図るパフォーマンスダンパーなど、装備はこのうえなく充実している。試乗ルートは東京~鹿児島で、往路は山陽、復路は山陰ルートを通った。おおまかな道路比率は市街地2、郊外路5、高速2、山岳路1。長距離移動時は1名乗車、九州内では1~6名乗車。エアコンAUTO。

では最初に、ドライブを通じて体感した長所、短所を5つずつ列記してみよう。

■長所
1. 横開きドア「わくわくゲート」とワンタッチで折り畳める3列目シートのコンビネーションが生む、驚異的な使い勝手の良さ。
2. ハイブリッドシステムi-MMDが超パワフル。動力性能は5ナンバー3列シートミニバン史上空前の高さ。燃費も良好。
3. 悪路でも同乗者の不興を買うことはまずないであろう、大型バス的に良好な乗り心地。(ただしこの足は今回乗った最上級グレードだけのものらしい)
4. 先進安全システム「ホンダセンシング」や全周囲エアバッグなど安全装備が山盛りで標準搭載されている。
5. 直進安定性が良く、ロングドライブ時の疲労感は小さい。静粛性も高い。

■短所
1. 3世代使いまわしのボディ、シャシーの能力がi-MMDの強力無比なパワーについていけていない。
2. 重量バランスの変化ゆえか前輪への荷重のかかりが低下しており、ステップワゴンの特徴だったハンドリングの良さは後退。
3. せっかく標準搭載されたホンダセンシングのチューニングが甘く、走りにスムーズさを欠く。自動ハイビームも未装備。
4. ハイブリッドシステムの性能自体は十分だが、スロットル全開からフルパワーになるまでに結構大きなタイムラグがあり、それを予測したスロットルワークが要求される。
5. 5ナンバーミニバン共通の問題ではあるが、せっかくの2列目キャプテンシートの幅が狭く、ゆとりが感じられない。

高所得層ファミリーのお出かけに最適

ではまず雑感から。ステップワゴンハイブリッドは乗り出し400万円也のお金をクルマに無理なく出せる高所得層のファミリーがお出かけを楽しむにはとても良いモデルだった。現行ステップワゴンがデビューしたての頃は段差や突起の通過時に突き上げが若干きつめだったりしたのだが、ハイブリッドG EXに限り、快適性について家族から苦情が出ることはまずなさそうに思えた。

静粛性の高さ、舗装の荒れた田舎道でも保たれるフラット感と滑らかさ、居住区の広さなど、すべてOKといった感じであった。とくに乗り心地についてはエアサス装備の大型観光バスのようで、同乗者をもてなすのにはもってこいであろう。

ハイブリッドシステムi-MMDは2014年日本デビューのアコードのものから大幅に改良されており、エンジンが発電機を回すときに発していた自転車のダイナモのような低質なノイズはほぼ完璧に消されていた。それが生み出すパワーはステップワゴンハイブリッドを5ナンバーハイトミニバン史上最速のモデルたらしめていた。新東名の流入路から最も速い流れに乗るまで一気呵成に加速する。一般道の急勾配で大型車を抜くときも、あっと思ったときにはもう前に出ているという感じである。

加えて素晴らしかったのは、縦開きバックドアに横開きドアを仕込んだわくわくゲートとワンタッチで床下に収納できる3列目シートが生むユーティリティの高さだった。鹿児島では布団を含む大量の洗濯物や荷物を幾度となく運んだが、横開きドアのアクセス性の良さはもはや疑いの余地がない。荷室の実効容積も3列目両サイド跳ね上げ式を大幅に上回っており、そこに家の扉を開けて入るような感覚で入り込める。このクルマでクリーニング屋くらいやれるんじゃないかなどと思うくらいの使い勝手だった。

もちろん欠点もある。ホンダセンシングのチューニングが甘く、前車追従クルーズがスムーズでないこと、前輪に荷重がかかりにくく、とくに濡れた路面には強くないこと、ボディ、シャシーがいささか古く、フルパワーを出した時にそれをいまひとつ受け止め切れていない感があったこと等々。だが、それらを差っぴいてもファミリー向けのモビリティの実力はなお第一級と言えた。

それでもライバルの後塵を拝する理由とは


ステップワゴンは初代はミニバンのマーケットリーダーに君臨するほどの人気車であったが、今はライバルであるトヨタ『ノア/ヴォクシー/エスクァイア』、日産『セレナ』の後塵を拝するという惨めな状況に陥っている。一体何がそんなに負けているのかという興味関心もあって、超ロングツーリングのギアに選んでみたのだが、結論から言えば、商品力についてはデザインの好き嫌い以外、ライバルを圧倒していると思わざるようにしか思えなかった。

今回乗ったモデルは高級なサスペンションを装備しているぶん、余計にそう感じたのかもしれないが、昨年『フィット』が大規模改良で乗り味を大幅向上させていたことを考えると、ノーマルサス版のステップワゴンも同様に快適性が高められていることは想像に難くない。

これだけの実力値があるにもかかわらず、ステップワゴンが今もってノアボク3兄弟、セレナの後塵を拝しているのか、個人的にはちょっと解せなかった。

5ナンバーミニバンを購入する層は乗り味などそもそも求めていないのか、凝ったリアゲートを持つぶん価格がやや高いのが嫌われているのか、それともホンダブランドへの信頼度、忠誠度が下がってホンダ車が顧客のバイイングリストから外れつつあるのか。理由は定かではないが、ひとつ言えることは、クルマという商品は一旦評価が定着してしまうと、それを後から改良してもそれを挽回するのは非常に難しく、ビジネスとしては非効率的ということだ。

八郷隆弘氏が社長に就任してから企画がスタートした新モデルはまだ出てきていないが、せっかく新しいクルマを作るのなら、最初から乾坤一擲でポジティブな評判を取りに行ったほうがいい。

ハイライトはユーティリティ&室内演出


では、細部についてみていこう。通常、ロングツーリングレポートでは動的質感にかかわる部分から入るのだが、このクルマの場合、一番のハイライトであるユーティリティや室内演出から入ることにする。

わくわくゲートと3列目シートの床下へのワンタッチフォールダウン機構は、現行ステップワゴンの最大の特色であろう。初代に対して大きく、重く、高価になってしまった第5世代モデルだが、シートを折り畳んだときにできる広々としたフラットフロアとスクエアな空間は、荷物の積載性にこだわり、トランポ(バイクや自転車などを積んで走るトランスポーター)としても人気があった初代のDNAが最も色濃く受け継がれている部分だろう。

そこに横開きの扉を開けて入れるというのは、荷物を積む機会が多い人にとっては一度使ったら手放せなくなりそうと思えるくらいに便利だった。大きなバックドアをガバッと開くのと異なり、ドアノブを引っ張って自分の部屋に入るくらいの感覚なのである。ステップワゴンのわくわくゲートの切り欠きを見ればわかるように、ドアの開口面積は結構大きく取られており、普通の生活や遊びではバックドア全体を跳ね上げる機会はほとんどなさそうだった。

筆者は実家の荷物整理のため、ステップワゴンで膨大な量の布団、毛布、洗濯物を最近流行っている高機能コインランドリーまで何度も何度も運ぶという作業をやってみたが、狭いコインランドリーの駐車場でも後方のクリアランスをほとんど気にしなくていいし、家のガレージの天井とバックドアの干渉も気にする必要がない。そして何より、力いらずでパカッと扉を開けるだけでいいというのは、心理的圧力を極小にする。バックドアというのは、実はかなり威圧感があるものだったんだなーと、わくわくゲートを使ってみて再認識した次第だった。

このわくわくゲート、デザイン的には決してフォローの風にはなっていないきらいがある。ホンダ社員でさえ口の悪い人たちが「石川五ェ門に斬鉄剣でぶった切られたみたいだ」等々、酷評するのを耳にしたのは一再にとどまらない。が、この壮絶な便利さは、デザイン面のビハインドを補って余りあるものだ。余談だが、ダブルバック(観音開き)のカーゴモデル『カングー』が人気を博しているルノーのフランス人スタッフも「このアイデアと、それを実現させた努力はすごい」と激賞していた。

6人乗車でも窮屈さのない空間


人が乗ったときはどうか。パセンジャーカーとしてもすこぶる具合が良かった。鹿児島では最大6名乗車したが、1~3列に人が乗っても窮屈さはなかった。3列目シートはさすがにいささか粗末だが、快適な乗り心地、高い静粛性にも助けられ、2時間程度の乗車では何の不満も聞かれなかった。

面白いと思ったのは、前席と後席が声を張り上げなくても会話できるよう、インカム機能が搭載されていること。大型バイク『ゴールドウイング』をはじめ、タンデム2名乗車に適したバイクを長年作り続けてきたホンダらしい装備である。会話は自然と弾むだろうし、妻子を連れてパパがドライブしながら、ふと見えた景色について「あれはね、〇〇なんだよ」などとさりげなく地理・歴史的教養を披露することもできる。少なくとも、パパが運転を頑張り、妻子が後席の天井ディスプレイでテレビを見たりゲームをしたりといった悲惨な行楽ドライブよりは、目の前にライブで現れた景色への感動を家族みんなで語り合い、共有したほうがよっぽど有意義というものであろう。

室内の演出はそれほど凝ったものではないが、さり気ないところがいろいろルーミーに作られていた。たとえば夜間照明だが、2列目、3列目のLEDルームランプは照度を無段階調節できるようになっており、薄暗く発光させれば夜のドライブでも真っ暗な車内に閉じ込められるような気分にならずにすむ。LED光は拡散性が低いからか、少々明かりを灯すくらいでは窓ガラスの反射で運転席からの視界が妨げられるような感じはほとんど受けなかった。

ミニバン離れしているほどの遠乗り耐性


次に快適性について。これはハイブリッドGのもうひとつのハイライトと言える良さだった。ボディ、シャシーの基本設計は3世代にわたって踏襲されたもので、旧態化が目立ってもおかしくないところだが、北九州の飯塚から大分の天ヶ瀬温泉に至る、ひび割れや補修痕だらけの老朽路線を走っても、突き上げはごく弱く、姿勢もフラットそのもの。足回りのガタつきも極小だった。まさに大型観光バスのようなフィールで、未舗装路でも走らないかぎりガタガタとした振動に不快感や緊張感を覚えることはまずなさそうだった。

ちょっと弱いかなと思ったのは高速道路や高架橋の路盤の段差と、角は立っていないが細かいうねりが連続するようなコンディションの路面で、ちょっとガタッ、ブルンと来る。もっとも、そのレベルまで追求したらお値段はもっと上がってしまうだろうし、そもそもステップワゴンをそうしたところで顧客が高級車だと認識してくれるわけでもない。現状でライバルの追随を許さないレベルなので、これで満足すべしというものであろう。

遠乗り耐性はちょっとミニバン離れしていた。クルマの揺動が小さく、直進性も良好であるため、長距離を走っていてもシートへの負担が小さく、また神経をすり減らさずにすんだ。ドライビングが面白いわけではないが、安定してばく進する系の味付けが上手く決まったクルマは、それはそれでロングドライブには向く。クルーズフィールが似ている乗用車をあえて挙げれば、クルマの性格はおよそ異なる三菱自動車の『デリカD:5』だ。3300kmツーリングとは言わずとも、ワンドライブ1000kmくらいはお茶の子さいさいのように思えた。

後編ではハイブリッドシステムのパフォーマンス、経済性、シャシーセッティング、ホンダセンシングなどについて述べようと思う。

《井元康一郎》

特集

page top