【アストンマーティン DB11 試乗】ああ、時代が明確に変わった…桂伸一 | Push on! Mycar-life

【アストンマーティン DB11 試乗】ああ、時代が明確に変わった…桂伸一

静と動の共存…。現代のプレミアムスポーツカーに求められる要素である。すべてが新しいアストンマーティン『DB11』のコクピットに入り、ドアを閉めた瞬間、それまでの喧騒はシャットアウトされた。そこで聞こえるのは新開発の5.2リットルV型12気筒ツインターボの鼓動だけ。

自動車 試乗記
アストンマーティン DB11
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静と動の共存…。現代のプレミアムスポーツカーに求められる要素である。すべてが新しいアストンマーティン『DB11』のコクピットに入り、ドアを閉めた瞬間、それまでの喧騒はシャットアウトされた。そこで聞こえるのは新開発の5.2リットルV型12気筒ツインターボの鼓動だけ。

アストン初のV12ツインターボはアストン史上最高の608ps/700Nmを誇る。5.2リットルの大排気量による余裕に加えて、ターボの過給と可変バルブタイミング機構が低速から高速までどの回転域でも極太のトルクをよどみなく生む。ミッションは8速AT。通常の「GT」(走行モード)はシームレスに変速し、「スポーツ+」モードに変えると若干の変速感と、エンジンはエキゾーストのフラップが開き4000rpm以上で吸気音と12気筒が奏でる排気音のハーモニーが迫力と同時に気品すら感じさせ、心地いい。

動力性能は0-100km/h加速が3.9秒。最高速度はアストンマーティンDB史上最速の322km/h !! 

2台しか上陸していないDB11を有効活用するため、試乗は袖ヶ浦フォレスト・レースウエイ。ブレーキに余裕を残したフォレストの短い直線でも180
km/hを優に超える加速性能。そこに達するまでのエンジン特性は、まさに大排気量の自然吸気のよう。アクセルに忠実に自然に応答する。ターボトルクだな、と感じるのは登り区間を4速や5速と高いギヤで加速した際の回転上昇の異様な盛り上がり感で、負荷がかかればかかるほど力強い印象。それこそ過給エンジンの特性だ。

◆従来とは明確に違う世界観

今までの『DB9』や『ヴァンテージ』の伝統を感じさせるデザインから一変、斬新なスタイリングの新世代のアストンマーティンとして生まれ変わったDB11は、ひとめ見た瞬間からそのスタイリッシュな姿に引き込まれる吸引力を放つ。

08年からアストンマーティンの本社チームから、ドイツ・ニュルブルクリンク24時間レースに、ヴァンテージや『ラピード』を操り戦って来た筆者だけに、従来のあのデザインには特に愛着があり、アストンらしい落ち着いた、まさに伝統の良さがあった。それはDB9から派生した『DBS』や最高峰、ヴァンキッシュにしても同様だ。デザインだけじゃない。最終のDB9の熟しきった完成度の高さは、エンジンやシャーシ、操縦安定性と乗り味を含むすべてが見事に調和、バランスが取れた最高の仕上がりである。

特にヴァンキッシュは今回DB11と同時に試乗でき、最高峰に相応しい存在感と走りの性能と乗り味の見事なバランス感覚を改めて見直した。

ところがDB11でフォレストの右90度の第一コーナーを曲がり、登りから下りへ旋回しながら下りに差し掛かると、コースの外に向かう力が働く第二コーナーを曲がったところで、「ああ、時代が明確に変わった」と実感する。

構造部材に軽量高剛性のプレス品を使い、アルミ接着技術も更に進歩した新VHプラットフォームと呼ぶシャーシ。ボディ幅ギリギリまで迫り出した大系でワイドなタイヤの位置が意味するところは、路面への接地安定性と、操縦性の確かさだった。

通常はアンダーステアが出やすい第二コーナーへ向けてステア操作すると、何のためらいも抵抗もなく、スッとノーズは巻き込むようにインに入る。本来ならそのまま外へ外へと重力は働くのだがDB11はインに留まる。リアのデファレンシャルには、曲げるために積極的な回転差を生むトルクベクタリング制御も効果絶大。自然なラインで外にはらむには、ステア操作で外に向けて行く、それほど自由度が高い事に驚き、思うがままに動くことの重要性を改めて感じる。駆動力を与えるリアタイヤも路面を離さず、乗員は極めて堅い骨格のシャーシに座ったまま、サスペンションの動きを感じ取る。その空気感、乗り味など世界観が従来とは違うのだった。

◆女性のハートも射ぬいた

2台の試乗車を効率良く回す。という意味でサーキットが選ばれたが、スポーツカーでありGTカーであるDB11の個性を見る為にこの場は最適だった。

DB11のキャラクターからすると、まずそういうシーンはないと思うが、ESPをOFFにして5.2リットルV12の出力をフルに路面に叩き付けると、有り余る動力性能にタイヤのグリップ力は奪われ、パワースライドを起こす。しかし、フロントでも異様に後退して搭載されるエンジン、そこからプロペラシャフトを介してリアに置かれた8速ミッションによるトランスアクスル方式は前後の重量配分を51対49と、フロントエンジン車として理想的な荷重バランスに整えた結果、スライドからの回復力は異様なほど早い。ステアリングで修正舵を入れるが、適度に駆動力を与えると自然回復する特性はお見事!!  極めて高い操縦安定性と、極めて心地良い乗り味が得られるが…、その件はフラットなサーキットの良路だから当たりまえ。

そんなDB11だが、発表会の席で、普段あまり見られない光景に驚いた。女性陣がコクピット待ち、乗り込み待ちをし、一緒の写真に納まるではないか!!

DB11、まずは男性陣よりも先に、いや女性陣も、というべきかハートを射ぬかれたようである。

桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。

《桂伸一》

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