税理士を30年以上やってきて、会社を伸ばす社長は「素直」であるという印象を私は持っています。
自分の考えに凝り固まらず、社員や他人の意見、アドバイスなどを聞く耳を持っている。ただし、最終的には自分の強い意志や考えで決定をしている・・・、そんな気がします。謙虚ではあるが、非常に頑固である、というような感じですね。
これは数字、つまり会計の結果に対しても同じだと思います。月次試算表や決算で出てきた数字を素直に読み取っているか、信じているか、ということです。しかしながら、表面的にはわかったような感じであるが、実はあまり意に介していない、気にしていない、そんな社長が多いような気がします。
これはどういうことなんだろう?と、私などは思ってしまいます。せっかく自分の会社の数字が出ているのに、「まあ、これはこれ。でも、現実は・・・」みたいな感じなのです。
正直、数字を信じていないのですね。だから意識しようとしないのです。会社にとってものすごく有用な情報がつまっているのに、会社が良くなるヒントが隠されているのに、見ようとしないのです。もったいないですね。
これには、いくつか理由があると思います。
・自分の会社の会計は正しくない、だから見てもしょうがないと思っている。
・会計の数字は過去の結果、見てもしょうがない。大事なのはこれからと思っている。
・数字をみてもよくわからない、だから見てもしょうがないと思っている。
・そもそも数字は苦手、できるだけ見たくないと思っている。
・会社の状況が悪いのはうすうすわかっている。数字で現実を直視したくない。
数字を見ない社長、数字を信じない社長は、概ね上記のような理由ではないでしょうか? 理解できないわけではありませんが、でも正直なところは「数字から逃げている」ということではないでしょうか?
会計に限らず、数字というのは正直なものです。決して嘘をつきません。スポーツの結果でも、健康診断でも、学校の成績でも、視聴率でも、いろいろなところで数字の結果が出され、世の中はそれによって動いているのです。
会計も同じです。会計の結果を見て、会社をどうするか、どう改善していくのかを考え、軌道修正していくわけですよね。だからこそ、もっと会計を大事にして、その結果を信じ、いや信じられるものにして、常にその結果を見ながら経営していくーー当たり前のことだと思いませんか? 正しい処理をしていれば、出てきた数字は決して嘘をつかないのですから。
まずは、数字を本気で信じることが大事です。本気で信じられるのであれば、その数字は社長にインパクトを与えるはずです。「なぜ、こんな数字になったのか?」と。その「なぜ」が大事なのです。そして次に「では、どうしたらいいのか?」です。当然、次は「よし、このようにしていこう!」です。
この3つを毎月やっていったらどうなるでしょうか? 毎月毎月、改善の方向が示されそれを実行していけば、その累積ですばらしい会社になるはずです。きっと営業関係では、毎月毎週やっているはずです。なぜ客数が落ちたのか? なぜ目標に達しなかったのか? なぜ今月は新規が○○件しかなかったのか? などなど。これを、会社全体について会計を見ながらやってほしいのです。
たとえば、月次試算表を見て「人件費が多い」としましょう。今までは、「うーん確かに多いかも。でも、○○だからしょうがない」と、思っていませんでしたか? 実はこれ、本当に多いとは思っていないのです。数字上は多くなっているようだけど、本当は多くないんだと思っているのですね。認めたくないわけです。これが、数字を本気で信じていない、せっかくの情報を活かしていない、ということです。
「なぜ多いのか? 本当に必要なのか? 減らす方法はないのか?」を数字の情報をもとに、あるいはこれに仕事の状況を組み合わせ、真剣に考える。そして「では、どうしたらいいのか?」の対策を出し、「よし、このようにしていこう!」を実行する。
実はこれだけなのです、いい会社になるのか、ならないのかの差は。「数字を本気で信じられるか?」=「社長自身にインパクトを与えられるかどうか?」ーーこれがその差の分岐点だと思います。
儲かる会社と儲からない会社、いい会社とあまりよくない会社、お金のある会社とない会社・・・この差は、こんなところから始まってくるのです。是非、数字に正直な、数字を素直に見られる経営者になってください。
●北岡修一(きたおかしゅういち)
東京メトロポリタン税理士法人 統括代表。25歳で独立以来、税務会計業務を基本としつつも、経営診断、人事制度の構築支援、システム導入支援などコンサルティング業務にも携わってきた。現在は「会計理念経営」を掲げ、「会計を良くすると、会社が良くなる!」をモットーに、誠心誠意、中小企業を支援している。主な著作に『社長の「闘う財務」ノート ~ 社長の数字力が会社を鍛える』(プレジデント社)がある。