子どもの睡眠時無呼吸症候群・好き嫌い、解決策は「歯学」にあり…第6回歯科プレスセミナー | Push on! Mycar-life

子どもの睡眠時無呼吸症候群・好き嫌い、解決策は「歯学」にあり…第6回歯科プレスセミナー

 全国の私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟する日本私立歯科大学協会は11月1日、国民生活における歯科の役割の大きさおよび歯科医療の最前線を伝える「第6回歯科プレスセミナー」を都内で開催した。

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岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 日本私立歯科大学協会会長の井出吉信氏(東京歯科大学学長)
  • 司会進行を務めた日本私立歯科大学協会副会長専務理事の安井利一氏(明海大学学長)
  • 岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)
  • 質疑応答に答える岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)
  • 質疑応答に答える朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)
  • 第6回歯科プレスセミナー 開催会場

 全国の私立歯科大学・歯学部(15大学17歯学部)が加盟する日本私立歯科大学協会は11月1日、国民生活における歯科の役割の大きさおよび歯科医療の最前線を伝える「第6回歯科プレスセミナー」を都内で開催。2016年はさまざまな疾患との関連が明らかとなっている睡眠時無呼吸症候群(SAS)、および脳科学の観点からも重要な子どもの嗜好学習に関する講演が行なわれた。

子どもや痩せている人も安心は禁物、睡眠時無呼吸症候群とは

 講演はまず、歯科矯正を専門とする岩手医科大学歯学部の佐藤和朗教授(口腔保健育成学講座歯科矯正学分野)よる講演「医歯連携で行う睡眠時無呼吸症候群の治療」が行われた。

 佐藤教授によると、日本の死因上位を占める疾患は、実はすべて連動している。過剰な栄養摂取によって生活習慣病が、そしてそれによって動脈硬化が起こり、さらには心筋梗塞や脳梗塞につながる。また高齢になると認知症やオーラルフレイル(口腔機能の低下)によって誤嚥性肺炎を引き起こす。

 しかも、こうした疾患のいずれにも関連してる可能性があるのが「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」である。循環器系、呼吸器系、消化器系、また子どもに関しては乳幼児の突然死、注意欠陥多動性障害(ADHD)など、あらゆる世代の疾患を増悪させるひとつの因子として考えられているという。

 SASは今から40年ほど前に報告された比較的新しい疾患で、1時間あたり10秒以上の無呼吸・低呼吸が5回以上、もしくは7時間の睡眠で30回以上認められる場合をいう。しかし日本の現在の保険制度では、医科の保険対象は20回以上のため、5回以上が保険診療の対象と歯科が患者の受け皿となることが多い。

 SASにはタイプがあるが、気道が狭くなって呼吸ができなくなる「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」に8割以上のSAS患者が該当する。一般的に、医科では持続的気道陽圧療法(CPAP)の装置で強制的に空気を送り込んで無呼吸を改善させる治療が行なわれたり、肥満の患者には体重減少、寝方の変換などが行なわれる。

 また、歯科ではマウスピース(OA:オーラルアプライアンス)を使って下顎を前方へ出すことで喉のスペースを物理的に確保する治療が広く行なわれる。こうした保存的治療のほかにも、外科的治療として下顎形成手術や扁桃腺(アデノイド)摘出手術、体重軽減手術などがあり、あらゆる科との横断的連携が必要である。佐藤教授の岩手医科大学歯学部では、睡眠医療科がハブとなって医歯連携による治療が行なわれているという。

 佐藤教授の専門は矯正歯科であるが、「出っ歯」を治したいと訪れる患者の顎や歯の角度・大きさを計測すると、実際は前歯が出ているのではなく下顎が引っ込んでいる(小さい)場合が多く、OSASを併発しているケースも見られるという。矯正歯科分野では「顎変形症」と診断されるが、上下顎の位置を外科的に移動させることによって組み合わせのバランスを整える治療を行うことがあり、佐藤教授の矯正歯科と形成外科および口腔外科も、この治療を連携して行っている。特に、顎を前方に移動する手術は矯正歯科の顎変形症治療のひとつであると同時に、欧米における代表的なOSASの外科的治療とほぼ同じ内容であり、OSASの治療での医歯連携が必要な一例を示している。

 OSASの患者の特徴としては「肥満」「下顎が小さい」「首が短い」「お酒をよく飲む」「扁桃肥大」が一般に知られているが、これだけではない。睡眠中に体内の水分が移動し、人によっては缶ビール1本分の水分が頸部に移動することで気道が塞がり、OSASになることもあるという。痩せているからといって安心できない。

 また子どものOSASに関しても、疾患を持った子どもだけでなく、一般的には扁桃肥大が原因となって慢性的な低酸素が起こり、多動や集中力の低下、注意力散漫、情緒不安定、学習能力低下、あるいはホルモン分泌障害が起こることによる低身長、肥満、顎顔面の成長不良、夜尿などにも関係してくるため、親は子どもの睡眠中の呼吸にもっと注意を払ったほうがいいかもしれない。佐藤教授は最後に、「咀嚼や嚥下(えんげ)、発音などの機能にとどまらず、呼吸機能に対しても歯科が積極的な介入が求められる時代になった」と語り、講演を締めくくった。

 子どもの健康に気を配る保護者なら、疲れやすい、集中力がないといった症状からSASを疑うこともあるだろう。SASを疑う際の判断は、何を基準にしたらよいか。佐藤教授によると、見分け方のポイントは「いびき」と「夜尿症の頻度」のふたつ。SASの最大の特徴は、「軟口蓋が振動して起こる、特に大きないびき」(佐藤教授)と密接な関係にあり、あまりにも騒音である場合はSASであることを疑うひとつの基準となりうる。

 また、小児の夜尿症、いわゆる「おねしょ」と無呼吸が関連することもあり、小学校高学年になっても毎日のように見られる場合、その原因は精神的な要因だけではなくSASを疑ってもよい。ただし、おねしょが多いからといってすぐにSASの可能性を疑うのは一般的でなく、佐藤教授はここでも医学部間の連携が重要であることを指摘している。「子どもの症状について気になる場合はまず、掛かりつけ医に相談のうえ、大学病院などの大型総合病院で総合的な検査を受けるとよいでしょう。」(佐藤教授)

食わず嫌い、好き嫌いなく育つには幼少期に幅広い食経験を

 佐藤教授による講演のあと、口腔生理学を専門とする朝日大学歯学部の硲哲崇教授(口腔機能修復学講座口腔生理学分野)より「何を食べたいかを脳はどう決めるか―好き嫌いをさせない摂食の脳科学」と題した講演が行われた。

 たとえば「かつ丼と親子丼、今食べるとしたらどちらですか?」と質問されたら、私たちはどちらを選ぶだろうか。これは答えが分かれるところだろう。しかしそれを論理的に説明するのは難しい。では、別の質問で「カエルの唐揚げと亀のフライ」の二者択一ならどうだろうか。日本に住んでいる私たちと、カエルや亀を普通に食べている海外の地域では、反応がまったく違ってくるだろう。このことから私たちは、自分が経験してきた食べ物をより積極的に採っているという仮説が立てられる。つまり、これが「食わず嫌い」である。

 また硲教授は、生まれてから成獣になるまでの食事経験がヒトと同じ、雑食性のネズミを使った実験を行なっている。水しか飲んだことのないネズミに、人工甘味料の一種であるサッカリンを入れた甘い水を与えると、1日目は水の3分の1の量しか飲まないが、2日目は水と同程度飲み、以降は次第に増えていった。ネズミも、初めてのものは軽々しく口にしないのだ。また別の実験で、苦い餌だけを食べて育ったネズミに苦い餌と甘い餌の両方を与えると、初日は苦い餌を多く食べた。それ以降は、甘い餌へ嗜好が移ってゆく。

 動物は一般に、初めて見るものは毒かもしれず、誤って食べて病気になったり死んだりすることのないよう警戒する。これを心理学では「食物新奇性恐怖(フードネオフォビア)」と称し、食べ慣れた食物を優先して食べることを「安全学習」という。「食わず嫌い」は安全学習の結果であり、ネオフォビアのおかげである。

 次に紹介された実験は、硬い餌のみを食べてて育ったネズミと軟らかい餌のみを食べて育ったネズミそれぞれに、硬い餌と軟らかい餌を同時に与えたらどちらを選択するだろうか、というもの。前者は意外にもフードネオフォビアが働かず、初日から8~9割が軟らかい餌だった。一方後者は、初日に5割ずつ食べるという不思議な結果が出た。その理由を探るために、今度はそれぞれのネズミの噛む力を筋電図で見てみた。すると、硬い餌で育ったネズミは、軟らかい餌を食べる時に半分くらいの力で、硬さに応じて噛んでいたが、軟らかい餌で育ったネズミは、初日は硬い餌も軟らかい餌も同じ力で噛んでいた。それ以降は、だんだんと力を変えていった。

 これは歯科医学的にも重要である。咀嚼の訓練を十分に行なわないと、硬さの弁別能が低下すると考えられるからだ。咀嚼や嚥下は本能ではなく、ある程度学習で獲得したものだと考えられるため、離乳期から上手に癖をつけていくことが重要となる。

 硲教授は、サッカリン水を飲んだあとに内臓不快感を感じさせる薬剤を注射すると、ネズミは「この甘いものを食べるとおなかが痛くなる」と学習するため、それ以降はサッカリン水が嫌いになる実験例も紹介した。食べ物を嫌いになる大きな理由のひとつとして、食べ物の味と何らかの不快感が結びついた結果である。これは「好き嫌い」の「嫌い」の行動学的な原理と現在は解釈される。誤って食べた食べ物が毒物だった場合に二度と食べないようにするために生体が本能的に持つ機能で、「味覚嫌悪学習」という。これは「パブロフ型の条件付け」と似ているが、パブロフ型の“ベルが鳴ると餌が出てくる”という条件付けは1週間ほど続ける必要がある一方、味覚嫌悪学習は一度の経験で覚える。これには脳科学者も関心を持っているという。

 これらの結果を踏まえて、子どもたちに美味しく好き嫌いなく食べてもらうには、幼少期のうちに、たとえば日本に住むなら日本で普通に流通しているさまざまな食べ物の経験を積ませ、新奇性恐怖の除去(安全学習の獲得)をしておくことが重要になってくる。ただし、「もちろんアレルギー源などは命に関わるため、除くこと。」(硲教授)実際、特定のものしか食べられない患者の多くは、幼少期にそれしか食べていなかったという症例があるそうだ。

 好き嫌いをなくし、偏食しない子どもを育てるためには何が必要か。硲教授いわく、「食事をしていて楽しいと思える経験を作ること」が大切。特に、食嗜好は小学3~4年生くらいまでに決まると考える研究者は多く、食物嫌悪学習が発生されると除去が極めて難しい。給食を食べない子どもを叱りつけると、大人になっても食べられないといったことは、さまざまなアンケート調査で報告されている。「食べないとだめよ」と諌めるのは逆効果であり、食物嫌悪学習を引き起こすことになるといえるだろう。

 また、当然ながら保護者が嫌う食物は子どもも嫌う傾向にあり、こと母親の食嗜好は子どもに伝播しやすいという。硲教授は保護者に向けて、「子どもにだけ好き嫌いはいけないというのではなく、保護者も一緒に食事をすることが効果的」と語った。

超高齢社会を迎え、国民の健康づくりに歯科医療で一層貢献

 私立歯科大学・歯学部の設立は、明治時代にさかのぼる。当時、富国強兵の名のもとに医学教育が国策に据えられた一方、歯科医学教育を政府は推進しなかった。そのため歯科は個人の歯科医師の努力によって私立大学に設立され、その経緯から現在も歯科医師の約75%は私立大学出身者が占めている。日本の歯科医療教育における私学の貢献は大きいといえるだろう。

 今や歯科医療は国民の健康づくりの面でも重要だ。司会進行を務めた同協会副会長専務理事の安井利一氏(明海大学学長)は「超高齢社会に突入し、在宅あるいは施設入所者への対応など、地域包括ケアシステムに向けて歯科医療の新たな時代を迎えようとしている。常に社会の変化に対応できる歯科医師を養成することが協会の大切な使命のひとつ」と語る。

 歯科プレスセミナーは、2010年10年から新聞・雑誌の記者向けに毎年開催。代表挨拶に立った同協会会長の井出吉信氏(東京歯科大学学長)は、「摂食・嚥下など、食が我々の生活にとっていかに大切かということも、広く国民の皆様に知られるようになった」と語り、今回のセミナーを始め歯科医学・歯科医療の正確な情報の社会への発信に今後も取り組んでいくとしている。

《編集部》
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