【THE REAL】頑張り屋から点取り屋へ…貪欲に前進を続ける岡崎慎司がハリルジャパンにもたらす相乗効果 | Push on! Mycar-life

【THE REAL】頑張り屋から点取り屋へ…貪欲に前進を続ける岡崎慎司がハリルジャパンにもたらす相乗効果

頑張り屋と点取り屋。前者はプレミアリーグ王者のレスター・シティに、後者は6大会連続のワールドカップ出場に挑む日本代表に。タイプのまったく異なる、2人の岡崎慎司が存在している。

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岡崎慎司 参考画像(2016年3月24日)
  • 岡崎慎司 参考画像(2016年3月24日)
  • 岡崎慎司 参考画像(2016年3月29日)
  • 岡崎慎司 参考画像(2016年3月29日)
  • 岡崎慎司 参考画像(2016年8月20日)
  • 岡崎慎司 参考画像(2016年8月3日)

頑張り屋と点取り屋。前者はプレミアリーグ王者のレスター・シティに、後者は6大会連続のワールドカップ出場に挑む日本代表に。タイプのまったく異なる、2人の岡崎慎司が存在している。

埼玉スタジアムにUAE代表を迎える、9月1日のワールドカップ・アジア最終予選の初戦へ向けて、8月28日から埼玉県内で行われている日本代表の直前合宿。試合の関係で1日遅れて合流した岡崎は、2シーズン目を迎えたレスター・シティにおける立ち位置を包み隠すことなく打ち明けた。

「間違いなく点取り屋としては認められていないけど、それ以外の部分では認められている。もちろん自分はゴールを狙っているけど、周りがそれを求めていないこともあって、自分が欲しいところにパスが来ないこともある。周りのレベルも高いなかでいろいろと模索しているけど、自分はこうしなきゃ試合に出られない、という点も理解している。チームがうまくいかないときに自分を必要としてくれるし、それに応えなきゃいけないと思っているので」
すでに3試合を消化した2016‐17シーズン。昇格組のハル・シティとの開幕戦でよもやの黒星を喫したレスター・シティは、アーセナルとの第2節から岡崎を先発として復帰させる。

岡崎が守備のスイッチを入れる役割を果たし、スコアレスドローで勝ち点1を獲得すると、続くスウォンジーとの第3節で初勝利。クラウディオ・ラニエリ監督をして「このチームにおける、彼のベストゲームのひとつだ」と言わしめたのは、2戦連続で先発した岡崎の一挙手一投足だった。

ゴールをあげているわけでも、味方のゴールに絡んでいるわけでもない。前線からの守備で献身的かつ精力的に走り回り、黒子に徹し続ける。昨シーズンから意識して演じてきた汗かき役が勝利に必要不可欠だと、開幕戦でつまずいたチームにあらためて認めさせた。

■日本代表ではゴールハンター

一転してバヒド・ハリルホジッチ監督に率いられる日本代表では、ゴールハンターの大役を託される。UAE代表戦でも、間違いなくワントップとして先発。チームを白星発進に導くゴールを狙う。

「出場するからには、ゴールしないと意味がない。このチームに一番必要なのは自信だと思うし、自信を手に入れるためには勝たないといけないし、勝つためにはゴールを奪わないといけない。自分が点を取るという強い気持ちをもって、チームを引っ張っていけたら。もちろんそれだけじゃないけど、それ以外のプレーというのはあまり意識しなくてもできる自信があるので」

ここで二度繰り返した「それ」をゴールに置き換えれば、ハリルジャパンにおける岡崎の立ち位置がより鮮明に見えてくる。レスター・シティと同じく誰よりも汗をかきながら、フィニッシャーだけでなく、味方のゴールに絡む役割をもまっとうしていく。

ハリルジャパンでは本田圭佑(ACミラン)と並んで、チーム最多の8ゴールをあげている。そして、頑張り屋と点取り屋という“2人”の岡崎は、実は密接にリンクしている。両者のギャップが乖離しているほどに、岡崎を成長させる糧にもなってきた。
ここまでのサッカー人生を振り返ってみれば、岡田ジャパンで15ゴールをあげて頭角を現した2009シーズンは、清水エスパルスでも14ゴールをマーク。日本代表と所属クラブの両方で点取り屋を演じた。

順風満帆に映った軌跡が狂い始めたのは翌2010シーズン。エスパルスでは13ゴールをあげたものの、日本代表では3ゴールに甘んじ、初めて臨んだワールドカップを前にワントップ失格の烙印も押された。

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原因ははっきりしていた。ペナルティーエリア内のピンポイントで、味方からのパスに合わせるプレースタイルはアジア相手には通用しても、世界の舞台では図らずも限界を露呈してしまった。

「代表でもなかなか点を取れない時期もあった」

岡崎自身もこう振り返るどん底から脱出するために、プレーする舞台を海外に求めた。すべて途中からの出場だったワールドカップ南アフリカ大会。デンマーク代表とのグループリーグ最終戦で決めたゴールが、大きなターニングポイントとなった。

■僕は世界一のストライカーを目指している

岡崎の代わりにワントップを任された本田が、自らもシュートを打てる体勢にもかかわらず、右側をフォローしてきたフリーの岡崎にパスを預けた。右足で押し込むだけのゴールが、同じ1986年生まれで、ひと足早く日本を飛び出していた盟友・本田からの“檄”に思えた。

実際、南アフリカ大会を終えた直後の岡崎はこんな言葉を残している。

「無謀に聞こえるかもしれないけど、僕は世界一のストライカーを目指しているので」

アルベルト・ザッケローニ監督に率いられた日本代表で、二列目の右サイドで守備も担いながら、チャンスになればペナルティーエリア内に侵入。瞬時にストライカーと化す“二刀流”で、チーム内の得点王として君臨した。

対照的にエスパルスから移ったシュツットガルトでは、たとえば2012‐13シーズンはわずか1ゴールに甘んじている。クラブの首脳陣からは「ユニフォームの下に、日本代表のユニフォームを着てプレーしてほしい」と、嫌味とも受け取れる言葉もかけられた。
それでも岡崎は屈しない。不断の努力と掲げてきた目線の高さは、2013‐14シーズンから移ったマインツで開花する。クラブタイ記録となる15ゴールをあげて不動のワントップに定着すると、翌シーズンにも12ゴールをマーク。日本代表における点取り屋の岡崎に、所属クラブの岡崎が再び追いついた。

その一方で岡崎は、「満足した時点で成長は止まる」を信条としてきた。昨シーズンからブンデスリーガよりもレベルの高いプレミアリーグに挑んだのも、これまでのサッカー人生の軌跡の延長線上にある。

残留すれば御の字とされたレスター・シティの快進撃を支えたひとりが、24ゴールをあげて大ブレークを果たし、イングランド代表にも抜擢されたFWジェイミー・ヴァーディであることに異論はない。

そして、なし遂げられた奇跡のプレミアリーグ制覇。英国の放送局『スカイ・スポーツ』は影のヒーロー5人のなかに岡崎を入れたうえで、最大級の賛辞を送っている。

「ヴァーディが称賛されているが、岡崎の貢献も見逃してはいけない。彼の運動量はチームメートや本拠地キングパワー・スタジアムのサポーターに感銘を与えている」

国境や文化を超えて、チームのために身を粉にして奮闘する姿で人々の胸を打つ。ある意味で快挙を達成した岡崎は、しかし、5ゴールに終わったフォワードとしての自分自身には及第点を与えていない。

点取り屋である自分に追いつくための挑戦は、スウォンジー戦の前半終了間際に放ったペナルティーエリアの外からのミドルシュートに表れている。惜しくも相手GKのファインセーブにあってしまったが、日本代表を含めて、昨シーズンまでの岡崎にはないパターンだった。

「何か(新しい)ことをしなきゃいけない、ということでずっと練習していた。あのシュートが入るかどうかはまた別として、リズムを取り戻せるというか、フォワードとしてゴールへ向かっていく気持ちというものを自分のなかで取り戻せるので。ああいうプレーは、代表でもやっていきたいですね」

【次ページ リオデジャネイロ五輪で日本人選手を必死に応援】

日本中を熱狂の渦に巻き込んだ先のリオデジャネイロ五輪。英国との時差の関係で、夕方以降にほとんどの中継をライブで観ることができた岡崎はあることに気がついた。

体操の団体戦や個人総合。卓球の男女の団体戦。そして、バドミントンの女子ダブルス。いつしか心の底から、メダル獲りに挑む日本人選手たちを必死になって応援している自分がいた。

「やっぱり結果を出している人を応援したくなる。いつもは見られている側ですけど、見ている側として、勝たないと『何だよ』と思ってしまうというか。やっている選手たちが『そんなに甘くない』と思う気持ちもわかるんだけど、それでも勝てばもっと応援したくなる。ワールドカップを二度経験したこともあって、ワールドカップ行って終わりではなく、やっぱり決勝トーナメントに行かないと意味がない。今回はアジア最終予選ですけど、あえて言えば3次予選のような感じで、ワールドカップ本番のグループリーグが最終予選になるというか。もちろん今回の戦いは間違いなく僅差になるし、本来ならば日本とオーストラリアだろうと思われるところが、どの国にも狙える戦いになる。その意味でも、一瞬の隙も見せたくない」

決して思いあがっているわけではない。期待されながらグループリーグで敗退したブラジル大会の苦い記憶が鮮明に残っているからこそ、リオデジャネイロ五輪で味わった感動と興奮とがあいまって、勝ち続けなければいけないという使命をより強く感じている。
そして、あらためて言うまでもなく、勝つためにはゴールが必要となる。頑張り屋から点取り屋へ近づこうと奮闘しているレスター・シティでの岡崎のチャレンジは、不動のポジションを築いて久しい日本代表にも間違いなく相乗効果を与えるはずだ。

「大事な試合でゴールを決めていくことは、ただの1点とは価値が違うので。自分にとっても大事になるというか、レスターでも点を取れていない状況なので、飢えていると思います」

UAE代表戦でゴールネットを揺らせば、釜本邦茂、カズこと三浦知良に続いて史上3人目の国際Aマッチ50得点の大台に到達する。30歳になっても貪欲なまでに成長を追い求める岡崎の背中が、ロシアの地を目指すハリルジャパンの羅針盤になる。

《藤江直人》
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