【THE REAL】“博多のネイマール”金森健志が与えた衝撃…アビスパ福岡、地元生まれのホープ | Push on! Mycar-life

【THE REAL】“博多のネイマール”金森健志が与えた衝撃…アビスパ福岡、地元生まれのホープ

敵地・福岡に大挙して駆けつけた川崎フロンターレのサポーターが、そして生中継されたNHKのBS1で戦況を見つめていた全国のサッカーファンが驚いたはずだ。

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金森健志 参考画像(2016年3月28日)
  • 金森健志 参考画像(2016年3月28日)
  • 金森健志 参考画像(2016年3月28日)
  • 金森健志 参考画像(2014年9月17日)
  • 金森健志 参考画像(2014年1月14日)
  • アビスパ福岡の金森健志(右)とロアッソ熊本の巻誠一郎(2014年2月21日)

敵地・福岡に大挙して駆けつけた川崎フロンターレのサポーターが、そして生中継されたNHKのBS1で戦況を見つめていた全国のサッカーファンが驚いたはずだ。

「あの7番は、いったい誰なんだ?」

ファーストステージの優勝がかかった6月18日の大一番。キックオフ直後にまばゆい輝きを放ち、首位・川崎フロンターレの出鼻をくじいたのは、最下位にあえぐアビスパ福岡のホープ、FWの金森健志だった。

■誰にも止められない

4試合連続で勝ち星から見放され、さらに3試合連続でノーゴール。悪い条件ばかりが重なる状況で、今夏のリオデジャネイロ五輪に挑むU-23日本代表に招集されたこともある22歳は静かに牙を研いでいた。

「相手は首位のチームでしたけど、自分たちもやれるんだというところを見せつけたかった。フロンターレにボールを回されることも想定内でしたし、そのなかでチャンスがあれば絶対にものにしようと」

ゴールキーパーのイ・ボムヨンが、ゴールキックを蹴ってからわずか7秒後。電光石火の先制ゴールがアビスパにもたらされたのは開始9分だった。

186cmの長身FWウェリントンが、フロンターレでセンターバックを任されるエドゥアルドとの空中戦を完璧に制する。頭を経由して前方へ流されたボールに、ゴール前のスペースへ飛び出したMF邦本宜裕が反応する。

このとき、金森はもうひとりのセンターバック・谷口彰悟と右サイドバックのエウシーニョの間、距離にして2メートルほどのスペースにトップスピードで走り込んできていた。

「試合開始直後からウェリ(ウェリントン)がロングボールに競り勝っていたので、そのこぼれ球を狙っていました。クニ(邦本)が出場したときはしっかりとボールを収めて、攻撃のリズムを作ってくれるのですごくやりやすい。狙い通りの攻撃でした」

空中に浮いたままのボールを、邦本が右足で左側にずらす。あうんの呼吸で金森が胸でトラップ。ボールをさらに浮かせて谷口の頭上を越させ、勢いそのままにエウシーニョを置き去りにする。

金森を止められるフロンターレの選手は、もはや誰もいない。ボールの落ち際を右足で的確にヒット。韓国代表のゴールマウスを守るチョン・ソンリョンを棒立ちにさせる一撃が、ゴール右へと吸い込まれた。

目の前でゴールを決められたフロンターレのサポーターがぼう然としている。対照的に狂喜乱舞するアビスパのサポーター。しかし、衝撃は一度だけでは終わらなかった。

■8年ぶりの高卒ルーキーへの期待

わずか6分後の前半15分。邦本がドリブルで右サイドからゴール前へ迫る。金森と以心伝心のワン・ツーを成功させ、さらに危険なエリアへ侵入。背番号7もその背後をフォローする。

邦本のドリブルは元日本代表の谷口に阻止されたが、すかさずこぼれ球を金森が拾う。トラップ際に繰り出したフェイントでエウシーニョを難なくかわすと、迷うことなく左足を振り抜いた。

チョン・ソンリョンが必死に左腕を伸ばすも届かない。これまでの15試合で平均失点が0点台だったフロンターレの戦い方を、根底から狂わせる2ゴール。レベルファイブスタジアムがどよめきに包まれた。
金森は福岡の筑陽学園中学から高校をへて、2013シーズンにアビスパへ加入した。中学時代はチームを全国大会の準優勝に導き、高校時代は九州プリンスリーグで19試合に出場して20ゴールをあげた。

地元に生まれた待望のスター候補。大卒選手や他チームである程度の結果を残した中堅選手を獲得してきたアビスパにとって、8年ぶりとなる高卒ルーキーだったことが金森へ寄せられる期待の大きさを物語る。

1年目からコンスタントにJ2の舞台で出場機会を得て、昨シーズンまでの3年間で21ゴールをあげた。最大のストロングポイントはどこにあるのか。金森本人に聞いてみた。

「ドリブルと、あとは左右両足でしっかりとゴールできるところですね。スピードにも自信があります」

自らの特徴を説明するのは、ちょっと照れくさかったのだろう。はにかんだときの笑顔と何よりもそのプレースタイルから、アビスパのサポーターからはこんなニックネームをつけられた。

「博多のネイマール」

【“博多のネイマール”金森健志が与えた衝撃 続く】

チームのJ1昇格に伴って、ポジションをシャドーストライカーから、バルセロナで活躍するブラジル代表と同じ左サイドに移すことが多くなった今シーズン。得意とするドリブルを仕掛ける機会も増えてきた。

フロンターレ戦でも左サイドに入れば、守備力に難のあるエウシーニョが対面にくる。ブラジル出身のテクニシャンとの“タイマン”を制することが、勝利につながると金森は自らを鼓舞していた。

「攻撃が売りの選手ですし、自分が守備をしているときはすごくきつかったですけど、逆にその裏を突いてやろうということはチームとしても狙いをもっていたので。自分としても(左サイドとしての)感覚はつかめてきていますし、与えられたポジションで点を取れる自信もある。監督から与えられたポジションで、ゴールのイメージというものをどんどん作っていきたい」

2ゴールはいずれもエウシーニョを守勢に回した末に、その背後を突いた攻撃から生まれた。金森を気にするあまりに、リズムを崩したのか。攻撃に回ってもエウシーニョが精彩を欠く場面が多くなった。

フロンターレは後半開始から武岡優斗を右サイドバックに投入し、エウシーニョを一列前へ上げている。名刺代わりのゴールだけでなく本家ネイマールばりの攻撃力で、金森はフロンターレのプランを狂わせたことになる。

■五輪代表メンバー入り、可能性はゼロではない

リオデジャネイロ五輪に臨むU-23日本代表が立ち上げられた2014年1月から、コンスタントに招集されてきた。昨年7月のU-22コスタリカ代表戦では、スピードを生かした突破からゴールも決めている。

しかし、好事魔多し。アビスパが快進撃を続けていた昨シーズン終盤に、右太ももの裏を痛めて戦線離脱。年末に沖縄・石垣島で行われたU-22日本代表合宿で故障を再発させて、リタイアを余儀なくされた。

今年1月にカタールで開催されたU-23アジア選手権。リオ五輪切符をかけた最終予選を兼ねた過酷な戦いへ、金森は福岡でリハビリを積み重ねながらエールを送り続けた。

「悔しかったですけど、気持ちを切り替えて。みんなには本大会へ進んでもらって、僕自身はそこ(リオデジャネイロ五輪)へ向けてアピールしようと思っていたので、(テレビ越しに)みんなと一緒に戦っていました」

決して芳しいものではなかった開幕前の下馬評を覆したU-23日本代表は、「23歳以下のアジア王者」という肩書を添えて6大会連続の五輪切符を手にした。
本大会に臨む18人は7月1日に発表される。最後のアピールの場となる29日のU-23南アフリカ代表戦(長野・松本平広域公園総合球技場)に臨むメンバーのなかに、しかし、金森は含まれていなかった。

状況を考えれば、逆転での代表入りは難しいかもしれない。しかし、2列目からスピードを生かして相手ゴール前へ飛び出すタイプが少ないだけに、可能性はゼロではないと金森は信じている。

「ドキドキしているというか、インパクトの強い結果を残さなければ自分にはチャンスはないと思っているので。(五輪代表メンバーの発表まで)残された時間は少ないですけど、調子のいい選手は必ず使われると思っているので、次もしっかりと2ゴール以上をあげてチャンスをもぎ取りたい」

アピールできるのはJリーグの舞台だけ。だからこそ、フロンターレ戦にも満足できない。後半3分に訪れた、ハットトリックを達成するチャンスを逃していたからだ。

ハーフウェイラインの手前からウェリントンが出した縦パスに素早く反応。ほぼ全員が攻め上がり、無人と化していた敵陣を一直線に駆け上がったが、左足から放ったシュートはゴールの左側へそれてしまった。

「あの場面では切り返せたと思うんですね。もっと落ち着いてああいうところを決められるようになれば、さらに上のレベルの選手になれるはずですし、もっともっと練習して次に生かさないと。今日対戦した大久保(嘉人)さんのポジショニングや、しっかりと点を決めるところには刺激を受けたというか。ずっとゴールを奪い続けている選手のいいところを盗む意味でも、すごく勉強になりました」
追走してきたのは武岡だけ。それでも届かないと見るや、最後はスライディングで金森を止めにきた。状況を的確にキャッチして、切り返して右足にもち変えていれば、また違った状況が生まれていたはずだ。

結果は2-2で引き分け、5試合ぶりの白星はお預けとなった。後半27分に同点弾を決めたのは大久保だった。依然として最下位から抜け出せていない。それでも、初めて経験しているJ1での戦いを、金森は力に変えている。

「後半は守備に回ってしまった部分はありましたけど、前半のように攻撃も守備もしっかりして、という試合をしていけば必ず勝ち点もついてくる。首位のチームを相手にこれだけやれたことは、チームとしても個人としても自信になります。もちろん、勝ち点3を取れなかったことは悔しいですし、もっともっとやらなきゃいけないことがありますけど」

■ファーストステージ最終節へ

6月25日午後7時に全9会場でいっせいにキックオフを迎える最終節は、フロンターレに代わって首位に立った鹿島アントラーズのホーム、カシマサッカースタジアムへ乗り込む。

アントラーズが勝てば、ファーストステージ優勝が決まる。一方で引き分けもしくは負けならば、大宮アルディージャをホームに迎えるフロンターレの結果次第で、優勝トロフィーの持ち主が変わってくる。

運命のいたずらか。あるいは、組み合わせの妙か。ファーストステージの覇権の行方を左右する立場となった状況を、金森はむしろ闘志を高ぶらせながら歓迎する。

「自分たちとしてはどちらにも優勝させたくないというか、目の前で(胴上げを)見たくないというのがあるので。次もしっかり首位の相手を叩いて、(アントラーズの)優勝を阻止したい」

対するアントラーズはMFカイオだけでなく、守備の要である日本代表DF昌子源が累積警告で出場停止となる。予測不能のドラマを演出するために。アビスパが、そして金森が再びキバを研ぎすませる。

《藤江直人》
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