なぜ受験生が集まるのか? 広尾学園、5年連続志願者増の理由に迫る | Push on! Mycar-life

なぜ受験生が集まるのか? 広尾学園、5年連続志願者増の理由に迫る

 独自の校風と常に改善を試みる姿勢で志願者を伸ばし続けている、東京の中高一貫校「広尾学園」。2012年以降、5年連続で受験者数が増加している理由は何なのか。広尾学園の冨田宗良先生と金子暁先生に話を聞いた。

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広尾学園2016年の中学入試を受ける受験生
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  • 広尾学園2016年の中学入試のようす。大手塾が駆けつけ、受験生を励ましていた
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 独自の校風と常に改善を試みる姿勢で志願者を伸ばし続けている、東京の中高一貫校「広尾学園」。2012年以降、5年連続で受験者数が増加している理由は何なのか。広尾学園の冨田宗良先生と金子暁先生に話を聞いた。

定員減に反比例し志望者数は増加

--2016年の入試は、志願者の推移などから見てどんな傾向がありましたか。

冨田先生:出願者自体は2012年から5年連続で増加傾向にあります。重要なのは何人が入学式に来るかということですが。2月9日が入学申込みの締めですので、公立一貫校の発表を待って締めるということになります。

--女子の比率が高いでしょうか。

冨田先生:広尾学園では、合格者は男女を区別せず、点数の上から順に合格する方式になっています。男子の比率は、昨年の43%から46%に増えました。

 また、ひとつの指針として、2015年の特待生が18名で男子7名、女子11名という内訳でしたが、今年は19名のうち男子が12名に増えています。併願校を分析すると、女子の比率がどうしても多いのですが、男子が増える傾向にあります。

--定員割れする学校がある一方で、広尾学園が多くの受験生を集める理由をどうお考えですか。

冨田先生:「子どもを預けた場合、どうしてくれるのか」という、6年後の姿が思い浮かぶのではないかと思います。学校を見学し、色々なコンテンツを見た場合に、「どうしてくれるのか」ということがわかりやすいのではと。「立派にします」といった抽象的なことではなく、具体的に学年ごとの課題を説明することで、6年間を過ごすにあたってどんな成長が見込めるかということがハッキリしている学校ではないかと思います。

 また、今年10年目になる広尾学園で実際に過ごしてきた生徒や保護者の方が、それを実感しているんですね。「期待通りだった」という声が、外に出ていることを感じます。

 広尾学園では、広報活動の一環として、海外や国内の塾などで説明会を行っています。その際に塾の方とお話をすると、広尾学園の生徒たちが、卒業後に通っていた塾を訪れて勉強をしたり、自分の学校の魅力を話してくれたりすると聞きます。それを多くの塾の方からお聞きするので、生徒自身が学校の情報を発信してくれているんだなと思いますね。

 それにくわえて、保護者の方も、周囲の方々に学校のことをお話してくださっているようです。それにより、「説明会で聞くことと、当事者の生徒の話にぶれがない。両側から聞くことで、信用できる」というお声もいただいています。

文化祭では生徒が来場者を案内するツアーも

--文化祭も非常に特徴的ですね。

冨田先生:そうですね。毎年秋に行っておりまして、2日間で1万人参加されるという大きなものになっています。ここでは、生徒ひとりひとりが必ずプレゼンテーションするのも大きな特徴ですが、もうひとつ「広学ツアー」というものがあります。文化祭に来られる方の多くは受験生なのですが、そういった方々に必ず広尾学園の在校生が一人ついて、40分ぐらい文化祭や学校をご案内するものです。

 たとえば中学を受験される方でしたら中1が、高校受験の方には高1の生徒が担当します。このツアーには、大変満足していただいているようです。

金子先生:担当する生徒には、事前に「こんな感じでまわる」という打ち合わせはしていますが、あとは生徒にまかせています。

--ツアーの間、来校者の方は生徒に質問をし放題なわけですね。

冨田先生:何を言うかは生徒次第ですが(笑)。でも、アンケートをとった際、志望理由として「文化祭で広学ツアーに参加したいから」と書く生徒もいて、大変楽しい印象として残るようです。

定員を減らしたクラスも志望者は増加

--昨年から比べて、入試の変化はありましたか。

冨田先生:数で言いますと、240名という全体の枠が変えられないなかで、医進サイエンスコースと、インターナショナルコースのスタンダードグループの定員が各40名ずつだったのを、2015年から35名に減らしました。これは教育していくのであれば35名ぐらいが最適だという判断だったのですが、結構大きい割合になります。「なぜ」という声もあり、もしかしたら志望者への影響もあるかもしれないと懸念したのですが、結果として影響は一切ありませんでした。特に医進サイエンスコースの伸びは予想を超えるものになりました。また、インターナショナルコースは昨年から2クラスに増設したため一気に志望者が増加しました。今年は、スタンダードグループの枠を35名に減らしたものの、影響なく志望者が増えています。

 説明会に来られる保護者の方の雰囲気は毎年変わるのですが、特に2015年の説明会では雰囲気が大きく変わったように感じました。熱烈な広尾学園のファンばかりというわけではありませんが、とても深いところまで突っ込んだ質問をされる方が多い。難関校を受ける保護者の方が増えているようです。

金子先生:毎年併願校のパターンも変化していますが、今年は御三家をはじめ最上位校との併願が急速に増えていますね。

既存の枠を取り払うことで生徒の力を伸ばす

--広尾学園は、ICTを積極的に導入しているイメージが大きいと思いますが、その点のご評価はいかがでしょうか。保護者の期待感はあるのでしょうか。

金子先生:あると思います。家庭で教育に熱心であっても、教育がどんどん変わっていく中、把握するのは難しいですよね。それを教育の専門である学校が提案していけると思います。

--昨年、デジタルファブリケーションのラボを立ち上げられましたよね。

金子先生:最初のきっかけは生徒から、コミュニティの空間を作りたいという提案からでした。3Dプリンターなどを導入してほしいと。現在、ラボは生徒たちが運営しています。

--それだけ柔軟な受け皿が学校にあるということですね。

金子先生:これまでの学校では、生徒から質問されたときに教師は「知らない」とは言えなかった。けれど、私たちは知らないことは知らないと言います。生徒も専門性の高いことをしているので、分野が違うとわからないこともある。

 伝統の重みや積み重ねがない分、時代に合わせて必要なものを選択していける。それは強みだと思います。今までの学校は枠の中でやりなさいという傾向があり、それは教師としても楽だった。けれど、時代の流れもあり、その枠に納得や満足ができない生徒もいる。その枠を取り払うと、どんどん伸びる。抑えるのではなく、サポート役として見守るのがベストではないかと思っています。

中高を変えることで大学も変わる

--高大接続システム改革の波を受け、中学・高校でも受験への英語導入などが増えている傾向がありますが、広尾学園として何か意識されているところ、また入試問題がそれによって変化したということはありますか。

冨田先生:まだ高大接続システム改革の全貌は明らかではないですが、その主旨は、元々インターナショナルコースがやってきたことそのものだと思います。考えること、ディスカッションすること、何かをみんなで作り出していくことなどが中心で、本科や医サイコースでもそのやり方を徐々に広げていっています。

--卒業生から「広尾学園で身についたプレゼンやディスカッションの力が役立っている」ということをお聞きしました。このような部分も、志望者増加に結び付いているとお考えですか。

金子先生:広尾学園だったら、教育に変化があっても、すばやく対応してくれるんじゃないかなと期待されている部分はあるかと思います。一方で、教育にも流行がありますが、そういった流れからは一歩距離を置くようにしています。文部科学省の方針だから動くのではなく、広尾学園では中高でどんどん教育を変えていくことで、大学が変わっていくと思って動いています。

冨田先生:本科、医サイ、インターのクラスでは、高校に上がる段階で希望のコースを出すことが可能です。たとえばインターのアドバンストコースにいたけれど、医サイや本科に移ることもできます。ただし、英語だけは元のインタークラスで受けられる“取り出し授業”ということも行っています。ひとつの学校の中に2つの学校があり、行き来ができるような感覚です。

 今年度は昨年に比べ、英語による入試を導入した中学校がかなり増加しました。そのなかでも広尾学園は受験者数が多かったと思います。帰国子女をはじめ、英語教育を意識されている方々に、それだけ英語教育に力を入れている学校だと認識していただいているのではと思っております。

世界に通用する学校へ

--今後の広尾学園が目指す方向性などをお話いただけますでしょうか。

金子先生:広尾学園では学校の見学を受け付けているので、全国の学校から見学にいらっしゃいます。昨年は進学校の見学が大変多いのが特徴でした。特に後半からは海外の見学が増え、大学の教授や、OECD関連の方、大臣や大使などがいらっしゃいました。数年前までは首都圏で伸びた学校として知られていたのが、日本全国に広がり、今後は海外で注目される学校にまでもっていきたいと思います。

 これまでの日本では「文武両道」といわれてきましたが、両方とも自分の利益のためのものなのです。そこに社会貢献などはほとんどなかった。しかし、どれだけ社会に貢献できたか、国際レベルでどういった活躍をしたかが海外の大学では問われます。今後はこの部分が絶対必要になってくる。広尾学園ではその用意や後押しをしますし、何よりも生徒たち自身が探して見つけてきます。

 去年、私が説明会で話したテーマは「生徒が日本の教育を越えていく」でした。学校としては、日本の教育の良さは土台としてもちながら、それを越えていくのが広尾学園としてのミッションだと思っています。

--ありがとうございました。

《相川いずみ》
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