知っておきたい「ブレンディッドラーニング」…メリット・デメリットと効果 | Push on! Mycar-life

知っておきたい「ブレンディッドラーニング」…メリット・デメリットと効果

 前回の記事(2015年9月2日)では、アメリカで急速に普及しているブレンディッドラーニング(BL)を紹介した。今回は、BLが従来の教育と対極に位置していることを説明するほか、教育者・保護者・生徒からみたメリット・デメリットと効果を紹介する。

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(画像1)BLほか教育法ポジショニングマップ
  • (画像1)BLほか教育法ポジショニングマップ
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 前回の記事(2015年9月2日)で、アメリカで急速に普及しているブレンディッドラーニング(BL)をご紹介しました。「生徒一人ひとりの学力や目標に合わせて学習カリキュラムを個別化し、その計画から実践までを生徒が主体的に進め、各生徒の達成度によって進級が決まる教育」を実現するために、一部にオンライン学習をブレンド(融合)することから「ブレンディッド」ラーニングと呼ばれています。

 BLについて詳しく学びたい場合は、カーンアカデミーの講座(全42回)が有効でしょう。運営する塾でBLを実践して日々効果を実感している私自身がボランティア3人と協力して翻訳した日本語字幕もあります。質問や不明な点があれば遠慮なくご連絡ください。

従来の教育と対極に位置するBL

 20世紀の工業化社会では効率を追求して標準化を最優先にした受動型集団画一教育が主流でしたが、21世紀に入りネットの進化とデジタル機器の発達で生徒一人ひとりのニーズに合わせたカリキュラムの個別化が技術的に可能になったことがBLの普及を後押ししています。

 この変化をわかりやすく言うと、「事前に決められた通りに、皆と同じ教科書を使って、皆と同じ時間割に沿って、皆と同じ内容の授業を受ける」教育から脱却して、「いつ・何を・どの程度・どのようなペースで学習するのか個々のニーズに応じて生徒主導で進める」指導へ転換するということです。

 文章だけでは理解し難い部分もあると思いますので、両者の違いを図式化した簡単なポジショニングマップを作成しました(画像1)。従来の受動型集団画一教育とBLは対極に位置することがおわかりいただけると思います。

BLを導入すれば教務で専門性を活かす場面が増える

 前回の記事に対していくつかコメントをいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。一部ですが現職の先生からは日本でのBL導入に否定的な意見もありました。アメリカでも当初、オンライン学習の採用で自分たちの存在意義が脅かされると感じた教員が反発しました。

 しかし、BLにおいてオンライン学習が代替するのは、おもに教科書に掲載してある内容を個々の生徒の理解度とは関係なく一方的に口頭で説明するタイプの授業およびドリルタイプの問題演習です。BLの教員は、これまで単純講義型授業に充てていた時間を、生徒一人ひとりの演習データを解析して各自に見合った的確なアドバイスをしたり少人数でのプロジェクト学習をサポートするなど、より高い専門性と社会経験が求められる教務に回すことができます。この点が正しく理解されないと、講義に自信のある先生ほど強い拒絶反応を示すようです。

受動型生徒の壁…BLで競う相手は「昨日の自分」

 BLの短時間の映像授業には、わかるまで何度でも繰り返し視聴できるというメリットがあります。逆に、理解できていれば見る必要はありません。そもそも、先生が一方的に説明する時間が長ければ長いほど、生徒は聴くことに集中して自分の頭を使って考える時間は短くなり、これが生徒の主体性を奪い創造力の芽を摘んで、結果的に国語や算数など「お勉強」はできても一人で判断し行動することができない社会人を生み出す、という考えが根底にあります。

 教師にとって、生徒が主体的に行動を起こすまで待つというのは忍耐がいるものです。一から十まで丁寧に解説し手取り足取り正解を教えるほうがはるかに楽なのです。しかしそれでは、子どもたちの自主性や行動力を育むことはできません。

 しかしながら、学校で指定された教科書を使い、決められた時間割に従って、先生の話を聴いて板書をノートに書き写す受け身の勉強しか経験したことのない日本の子どもたちにとって、自ら学習の計画を立ててそれを主体的に実践することは容易ではありません。

 実際私の塾でも、自分で考えるのは面倒臭い、誰かに誘導されないと進まない、友達と違うことを勉強するのは不安、などの理由から足が遠のく生徒もいました。その一方で、少し努力してこの壁を乗り越えた生徒は、21世紀の情報化社会で必要と言われる気概、やる気、実行力、積極性、創造力といった「非認知能力」を高めることができ、これが将来社会に出て大きな差となって表れるのです。

 BLには、日本の集団教育のような「競争」がない、という指摘もよく受けます。確かに、たとえば6年生は全員水泳の授業で25メートル自由形のタイムを計る、といった意味での競争はありません。集団教育では25メートルという決められた枠の中でクラスメートとタイムを競いますが、BLで競う相手は「昨日の自分」です。目標はあくまで自分で定め、他人に決められた数値ではありません。目標に向けて昨日よりも1メートルでも長く、1秒でも速く泳げるようになれば良いのです。

 しかし実際には、小学校高学年にもなれば周りの同年齢の子どもたちのようすが気になり、自分だけが大きく遅れていることが分かると皆に追いつこうと自主的に勉強に励むようになるものです。

学習状況をリアルタイムで把握、保護者も積極的に関与

 保護者にとっては、ネットを通じて子どもの学習状況をリアルタイムでチェックできるので、我が子が学校で何をやっているのか、どんな宿題が出て期限はいつなのか、などを常に把握することができます。また、個別カリキュラムですので休日や時間割は家庭の都合に合わせて融通が利きます。その反面、小学校では学習計画の立案サポート、中学・高校ではプロジェクト学習や職業学習の手伝いなど、学校教育に積極的に関与することが求められます。欧米に比べて残業が多く、育休が取りづらい日本の共働き世帯にとっては解決すべき課題でしょう。

 先生、生徒、保護者にとってのBLのメリット・デメリットを簡単に説明しましたが、肝心のBLの教育的効果はどうなのでしょうか。アメリカでは、BLを導入した中学が州内の学力テストでランキング上位に躍り出た、高校の中退率が著しく改善した、小学生の読書量が3倍になったなど、多くのBL成功例を断片的に耳にします。しかしながら、まだBLが導入されて日が浅いため長期的かつ広範囲の記録が少なく、どれだけBL導入の効果があるのか科学的に十分実証されたとは言えないため、やや懐疑的な報道もあることは触れておかなければなりません。

《小松健司》
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