ボローニャ国際児童図書見本市、絵本原画展に日本人10名が入選 | Push on! Mycar-life

ボローニャ国際児童図書見本市、絵本原画展に日本人10名が入選

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日本からの出版社の合同ブース
  • 日本からの出版社の合同ブース
  • 新設されたデジタル会場への順路(緑)
  • デジタル新設基調講演にMicrosoft、Google、Disneyの3社
  • ボローニャ国際絵本原画展
  • ボローニャ国際絵本原画展
  • 会場はお祭りの感
  • フェア内でのドイツ関連展示
  • 絵本原画展50年記念の回顧展では読み聞かせ風景も
 イタリア・ボローニャで4月4日から7日まで、世界最大の児童書専門見本市「ボローニャ国際児童図書見本市(Bologna Children's Book Fair、ボローニャブックフェア)」が開催された。午前9時の開場から午後6時半の閉場(最終日は午後3時)まで連日賑わい、計4万人近くの人が訪れた。総出展社数は74か国1,278社に及んだ。

◆注目すべき2つの話題と、ブックフェア

 53回目の開催となった2016年の見本市には、注目すべきトピックがいくつもあった。なかでもひときわ大きな話題は、「ボローニャ国際絵本原画展が50年の節目」「デジタルエリア新設」の2つ。この2点について現場の状況を伝える前に、まずはこのボローニャ国際児童図書見本市がどういったイベントであるか、おおまかではあるが紹介しよう。

 ボローニャは、世界最古の大学ボローニャ大学や、中世を色濃く残す街並み、それに美食でも知られるイタリアの都市である。見本市はこの地で毎年、春の4日間開催される。イタリア語以外の言語を聞くことがあまりないボローニャにおいて、中心部から少しはずれたフェア会場だけは英語が飛び交い、国籍の違うさまざまな人が行き交っていた。長い間このフェアに憧れを抱きつつ、今年初めて足を踏み入れた筆者は、溢れんばかりの人の多さ、そして眼前に広がる国際色豊かな光景に圧倒された。

 訪れる人は、そのすべてが児童書関連、もしくは児童向けデジタルコンテンツ関連の仕事に携わる者だ。これは、このブックフェアを説明するときに一番重要なことであろう。来場者たちが会場でするおもな仕事といえば「権利の売買」なのである。つまり、自国以外で刊行された児童書などの翻訳出版権を売り買いする舞台が、ボローニャ国際児童図書見本市というわけだ。もちろん、書籍それ自体の販売もなくはないが、メインではない。

 たとえば、日本からA社という出版社がブースを出展したとすると、その目的は「自社が国内刊行する児童書を、翻訳出版したい海外の出版社をみつけること」であり、また「海外作品で目ぼしいものがあれば、自社が国内での翻訳出版の権利を獲得すること」である。今年の出版部門には、日本からは「ぐりとぐら」シリーズでおなじみの福音館書店や「ノンタン」シリーズの偕成社、「アンパンマン」シリーズのフレーベル館など、全15社が出展した。これらのブースでは、訪れた海外出版社スタッフとの商談が盛んに行われていたし、また日本側の編集者たちは個別に海外出版社ブースを回り、これはという出版物に出会うため奔走していた。会場取材中に幾度となくすれ違う日本人編集者を見るにつけ、彼らの努力が実り、筆者がここで出会った外国の絵本にいつか日本で再会する日も来るかもしれない…と胸が高鳴る。

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◆フェア名物、イラストレーター売り込み合戦

 「翻訳出版権の売買の場」という核がありつつ、そこから派生した複数のトピックが同時多発的に存在するのも、当ブックフェアの特徴である。「ボローニャ国際絵本原画展」「ボローニャラガッツィ賞」をはじめとする運営側主催のいくつもの賞がそれであり、受賞作品を展示する各種エキシビション、その他さまざまなテーマに関する展示、イベントがそれである。なかでもひと際ドラマチックなのが、各国のイラストレーター、絵本作家による自作品の売り込み合戦だ。

 運営側主催の賞に入賞や応募をした、しないに関わらず、世界各地からフェア開催を目がけてプロの絵描きたちが集う。彼らが目指すのは、一堂に会した各国の出版社の中から、自分の作品テイストに共鳴する相手を選び出すこと。もしくは逆に、相手から発掘してもらうことだ。なぜなら自国の絵本で好まれるテイストが、自分の描く絵と必ずしも一致するとは限らないし、そもそもコミュニケーションさえ取れれば、仕事の相手を国内に限る必要はどこにもない。

 腕によりをかけた美しい画面の数々を大きなファイルに入れ、真剣な面持ちでひたすら売り込み先を探し、アポを取り、訪問するイラストレーターたち。その存在によって、会場のなんとも心地よい緊張感が生まれているように筆者は感じた。イギリス、インド、イタリア…各国出版社のブース前で、売り込みの順を待つ彼らの列ができていたのが印象的だった。

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◆2016年は絵本原画展開催50周年

 活況を呈するボローニャ国際児童図書見本市。では53回目の開催で注目の2点、「ボローニャ国際絵本原画展が50年の節目」と「デジタルエリア新設」のようすはどのようだったか。いよいよ、各所についてレポートしていこう。

・ボローニャ国際絵本原画展が開催50年

 「ボローニャ国際絵本原画展」は、1965年に会場内での催し物として始まった展覧会だ。スタート時には運営側が声をかけたプロ作家の作品展示にすぎなかったが、1976年に応募型の絵本原画展に転向。以来、このエキシビションへの自作展示を目指して世界各国から毎年応募があり、一握りの入選作家たちのイラストのみが掲示される栄えある場として知られる。今年は61か国、3,191タイトルが審査員たちの手元に集まり、77名のきわめて優れた作家たちが入選を果たした。うち10名が日本人であることは、特筆すべき事項だ。

 入選者の一人、稲葉朋子氏はこう語る。「はじめての入選です。もともと個展のために作っていた作品で、キャラクターなどのまわりに点線を配した描き方はその時のテーマの名残。『絵本っぽくないこと(=点線を含む描き方)』をやったのが、逆に受けたのでは」。彼女の作品はアクリル絵の具と万年筆で描かれ、発言のように、絵の中のキャラクターたちの周りを切り取り線が一周する独特のスタイルである。

 一方、別の入選者であるKotimi氏は、画面いっぱいに墨を使って描いた象の絵で通過。フランス在住の彼女の絵は、色を数色に限り、筆のかすれなども活かしたもの。筆者は特に「東洋的な匂い」がすると感じた。過去に彼らと同様、何度も本展への入選を果たし、今年の審査員としても活躍した絵本作家の三浦太郎氏は、今回の日本人イラストレーターの作品群について個別インタビューにこう答える。「ヨーロッパのイラストレーションに見られる『流行りの風邪』みたいなものがあまりなく、独特。島国というのも関係しているかもしれない。この空気を失わずにいてほしい」。

 ボローニャ国際絵本原画展での日本人の活躍は今年に限らず、筆者が日本で巡回展を見始めた10年以上前には少なくとも、すでに目立つ動きであったと記憶している。それには東京の板橋区立美術館が、この展示を毎年同館に持って来て、夏の1か月以上にわたり公開していることがおおいに関係していよう。なにしろ前述の三浦氏も、板橋で巡回展示を見たのが絵本作家を目指すきっかけだったという。板橋区立美術館での展覧会は38年の歴史を数え、作家志望者向けワークショップも同時開催する。多くの若手日本人作家が、ブックフェアへの自作入選に憧れる原点となっていることは、疑いようがない。

【次ページ】「デジタル専門エリアをフェア内に新設」へ

◆デジタル専門エリアをフェア内に新設

・デジタルエリア「Hall32」の新設

 さて、もうひとつのポイントは、今年新設の「Hall32」のデジタル部門だ。昨年までは決まった専門エリアがなかったデジタル関連企業だが、出展ブースがひとところに集結。イタリアMicrosoftやGoogleら、デジタル業界を先導する大手企業も参加し、児童向けコンテンツの新たな1ページが開かれた。

 会場期間は出版部門より1日短く、4月6日まで。出版部門と同様、中央にイベントブースが置かれ、5年目を迎える「ボローニャデジタルラガッツィ賞」の受賞トークに始まり、各種テーマの催しが全日とぎれることなく行われた。出版部門のイベントではイラストレーターや編集者の公演・対談が多い印象だが、こちらでは議題を設定し、関係企業の代表たちがデータなどを元に議論をするタイプのショーが中心だった。

 また、今年はボローニャデジタルラガッツィ賞において、フィクション部門の最優秀賞を「Wuwu」(Step In Books、デンマーク)、ノンフィクション部門の最優秀賞を「Attributes by Math Doodles」(Carstens Studios、アメリカ)が受賞。11作品が選考を通過した。

 昨年のボローニャデジタルラガッツィ賞の最優秀作「My Very Hungry Caterpillar」の配信元で、今年もブース出展で参加したStory Toys社(アイルランド)のチーフプロダクトオフィサー、Emmet O'Neill氏は語る。「昨年受賞の当社作品が、エリック・カールの『はらぺこあおむし』という世界中ですでに知られたキャラクターを軸に据えていたのに対し、今年はオリジナルの作品が選ばれているのが印象的。新設されたHall32エリアに関しても、昨年とは雰囲気が雲泥の差だ。これまでは出版部門の一角にデジタル関連ブースがかたまっており、あちこちの出版社を回って疲れきった人が来る場所でしかなかった。しかしここには、本当に興味のある人が来てくれる。広さも昨年の4、5倍にはなっている感覚だ。年を追って、どんどん大きくなるだろう。」

 会場全体と比較すれば、新設エリアは今は確かに「出版メインの見本市でデジタルが小さくやっている」感が否めないかもしれない。しかし、だ。50年以上の歴史を持つこのブックフェアも、最初はフランクフルト見本市の片隅で絵本が細々と取引されているのを見て、立ち上げられたのである。さらに、今日の当フェアにおいて重要視される前述の国際絵本原画展も、始まりは今のような華々しさはなかったという。

 とすれば、大きな見本市の中に小さく生まれたデジタル部門が、これから飛躍的な発展を遂げる可能性は十分に期待できる。少なくとも筆者は、Hall32に吹く前向きで革新的な風に、実現可能性は高いと感じている。

参考文献「ボローニャ・ブックフェア物語」(市口桂子、白水社)
《寺島 知春》

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