【マツダ ロードスター 新型】NDが2030年まで存続ってホント? 開発者に聞いた改良型「ND2」の全貌 | Push on! Mycar-life

【マツダ ロードスター 新型】NDが2030年まで存続ってホント? 開発者に聞いた改良型「ND2」の全貌

マツダ・ロードスターが大幅にリフレッシュ! 昨年10月に商品改良の概要が発表されていたが、実際に見て乗ってみると、とんでもない進化に驚かされる。その背景に思いは何か? 開発責任者を直撃した。

自動車 ニュース
マツダ ロードスター RS(左)とSスペシャルパッケージ(右)
  • マツダ ロードスター RS(左)とSスペシャルパッケージ(右)
  • マツダ ロードスター 開発責任者の齋藤茂樹・商品本部主査
  • マツダ ロードスター Sスペシャルパッケージ
  • マツダ ロードスター Sスペシャルパッケージ
  • ミリ波レーダー(グリル右)が装着された改良型 マツダ ロードスター
  • マツダ ロードスター RF VS
  • 改良型 マツダ ロードスターのセンターディスプレイ
  • 改良型 マツダ ロードスターのメーターパネル

マツダ『ロードスター』が大幅にリフレッシュ! 昨年10月に商品改良の概要が発表されていたが、実際に見て乗ってみると、とんでもない進化に驚かされる。その背景にある思いとは何か? 開発責任者を直撃した。

◆サイバーセキュリティへの対応がきっかけ

「今回は内外装のデザインからダイナミクス領域、マツダコネクトまでトータルに商品改良できたが、そのきっかけは規制対応だった」と語るのは、開発責任者の齋藤茂樹・商品本部主査。

規制とは“自動車サイバーセキュリティ法”という国際法規である。クルマをサイバーアタックから守れるようにしなくてはいけない。その適用時期は。OTA=オーバー・ジ・エアのソフトウエアアップデートに対応するか否かで分かれる。OTA対応の新型車(新たに型式認証を受けるクルマ)は、2022年7月からすでにサイバーセキュリティ法が適用。OTA非対応の新型車には24年1月から、OTA対応の継続生産車には24年7月から、OTA非対応の継続生産車には2026年5月から、それぞれ適用となる。

マツダで言えば、OTA対応の新型車である『CX-60』はもちろんサイバーセキュリティ法に適合済み。ロードスターは継続生産車だが、今回の商品改良でOTAを導入するとなれば期限は今年7月に迫っていた。

「従来のロードスターは10年前の電子プラットフォームなので、規制に対応できない。対応するにはCX-60の電子プラットフォームを移植するのがいちばん安くて早いとわかり、それをやろう、と。やってみたら、ものすごくお金がかかりましたけどね」と齋藤主査。

現代のクルマには数多くのECU(電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUを通信で結んだネットワークのようなものが電子プラットフォーム。電装部品や制御システムはECUに接続しているので、電子プラットフォームが新しくなって通信方法が変わるとECUと会話ができず動作しなくなる。

逆に言えば電装品や制御システムをアップデートするチャンスだ。それを活かして、「これまでやりたくてもできなかったことを、すべて実現させた」と齋藤主査は胸を張る。

◆チャンスを活かしたデザインの進化

エクステリアではヘッドランプとリヤコンビランプが新しくなったのが注目点。ランプもECUで制御しているので、「従来のランプのまま変換器を付ける案もあったけれど、前後で4個必要だからけっこう重くなる。ロードスターでそれはやりたくない」と齋藤主査。「これからたくさん売るのだから、中身のデザインから変更させてもらった」

目尻側にあったバルブのターンランプを、LEDのDRL兼ターンランプに変更。目頭側のポジションランプはDRLに変えると共に、より勢いを感じさせる形状に改めた。リヤコンビランプのターンもバルブからLEDに変更して、前後共にフルLEDのランプになった(リヤバンパーのバックアップランプを除く)。

インテリアでは、センターディスプレイの大型化(7→8.8インチ)というビッグニュースがある。当初案はマツダ3の8.8インチ・ディスプレイを流用することだったが、「大きすぎて載らないので、サプライヤーにお願いして、スマホのように黒い縁のないミニマムなディスプレイを新開発した」

『CX-3』や『マツダ2』も最近の商品改良で8.8インチを新採用している。『マツダ3』用よりコンパクトなものだが、ロードスター用はさらにサイズを切り詰めた。それでもディスプレイが立っているベース部分の樹脂パネルをメーター側に広げて、ぎりぎり搭載できたというサイズだ。ベース部分とメーターバイザーを成形する金型を新規に起こしたので、安くはない投資。しかしインパネ全体を変えることなく、ディスプレイを大型化できたということでもある。

◆電子プラットフォーム刷新でADASも進化

「ディスプレイをアップグレードしたおかげで第2世代のマツダコネクトを採用でき、コネクティビティを導入できた」と齋藤主査。スマホと連動した目的地案内、エマージェンシーコールなど、第2世代の機能をロードスターでも使えるようになった。車載通信機があるので、ソフトウェアの更新はOTAでできるし、ナビ地図の道路データは月に1回の頻度でアップデートされる。2017年型NDのオーナーである筆者にとっては、夢のような劇的進化だ。

MRCC=マツダ・レーダー・クルーズ・コントロールも、電子プラットフォームの刷新を活かした新装備だ。「従来の電子プラットフォームでは、ミリ波レーダーを車両中心線上にしか置けなかったので…」と齋藤主査。

ロードスターはノーズが低い。中央のナンバープレートの下にレーダーを置くスペースなどなかった。「それで諦めていたけれど、最新の電子プラットフォームではミリ波レーダーをオフセットしても大丈夫。グリルの端にピンポイントでレーダーを収めることができた」

ただし採用できたのは日本向けとアメリカ向けだけ。ナンバープレートが横長形状のヨーロッパでは、レーダーの照射範囲にそれがかかってしまうため、MRCCを採用できていないという。

しかし、そもそもロードスターにMRCCが必要なのか、という議論もあるだろう。齋藤主査は「自分で運転したいクルマだから、要らないという意見も社内にあった」と語りつつ、「でも、その考え方は古いと思う」。

ロードスターといえどもADAS=先進安全システムは大事だと齋藤主査は考えた。実際、NDが登場して以降、段階的にADASを充実させてきた。一方、車線逸脱警報はあるが、車線の中央を維持するレーンキープアシストはあえて採用していない。「その機能も準備はしているけれど、まだ要らないと判断した」とのことだ。

◆温めてきたネタを一気に実現

インテリアに戻ると、メーターのデザインが新しくなった。センターのタコメーターは、従来は立体的な文字盤でシフトインジケーターの窓に縁を付けていたが、新型はフラットな文字盤でスッキリ。目盛りの背景がダークグレーだったのもやめて、スピードメーターも含めて文字盤の色を漆黒に統一した。

「漆黒にすることで、目盛りや針が鮮鋭に見えるようにした」と、カラーデザイン担当の松岡信宏デザイナー。よく見れば、針も従来型よりシャープな形状になっている。左側のコンビメーターはカラー液晶。その地色の漆黒感や針のシャープな表示とタコ/スピードのトーンが揃い、メーター全体の質感が上がったことも見逃せない進化だ。なぜ今までそれをやっていなかったのか…と思ってしまう。

「電子プラットフォームに関わるところをいろいろ変更したので、おっしゃるように、なぜやっていなかったのかということを、ここで一気にやってしまおうと考えた」と齋藤主査。「センターコンソールの合皮巻きもそのひとつだ」

ソフトトップでは上級グレードの「Sレザーパッケージ」と「RS」で、電動格納トップのRSで、電動ハードトップのRFでは全グレードで、センターコンソールの側面と収納リッドが合皮で包まれている。触感はさほど柔らかいわけではないが、従来の黒い硬質樹脂からの質感アップは歴然だ。

さらに本革シート(ナッパレザー)を備える「Sレザーパッケージ・Vセレクション」にはスポーツタンの内装色を採用。RFの「VS」グレードでもブラックに加えてスポーツタンが選べるようになった。もちろんセンターコンソールもスポーツタン色の合皮巻きだ。

これまで特別仕様車などでさまざまな内装色を展開し、それぞれ異なる世界観を提示してきたロードスターだが、「どれもセンターコンソールは黒だった」と松岡デザイナー。さらにVセレクションはベージュのソフトトップで内外をカラーコーディネートしており、これにブラックやマシーングレーのボディ色を組み合わせると、ロードスターらしいオーセンティック名世界観を楽しめそうだ。

一方、最量販グレードのSスペシャルパッケージはシート表皮を変更。メイン材にスエード調人工皮革のレガーヌを採用した。CX-60の一部グレードや『CX-5』などの特別仕様車「Retro Sports Edition」にも使われている素材だが、松岡デザイナーによれば、「触感が良く、滑りにくいという機能もある。取っておきの素材を、ようやくロードスターに採用できた」とのことだ。

◆「ND2」は2030年まで存続する?

上記以外にも、アルミホイールのデザインが一新され、ルームミラーはフレームレスのスッキリした形状になった。ボディカラーではマツダ2/CX-3の商品改良で新色として登場した「エアログレー」を導入している。齋藤主査は「これだけ新しくしたので、『ND2』と呼んでほしい」と告げる。

ダイナミクス領域の進化については後編でお伝えするが、それも含めて、なるほど『ND2』と呼ぶに相応しい大幅な商品改良だ。しかし2014年9月に東京・舞浜でNDが初披露されてから9年半近くになる。かなりのコストをかけて開発した『ND2』を、いつまで作り続けるつもりなのだろうか?「正直なところ、次のNE型にはまだ着手したくない」と齋藤主査は告げる。

NE型に電動化の波が押し寄せることを考えての発言だ。「どうせ電動化するなら、バッテリーが小型化してからプラットフォームを作らないと、大きくて重いクルマになってしまう」

今回の商品改良はサイバーセキュリティ規制への対応をきっかけに実施されたが、次に控えるのは車外騒音規制のレベル3だ。2026年7月までに2dBほど下げなくてはいけない。齋藤主査によれば、「ハードルは高いけれど、それを乗り越えて『ND2』を2030年ぐらいまで引っ張りたい。そうすると次のNEでは、『おおっ!』という電動化ができる」とのことだ。

まだしばらくはICEの『ND2』が続くと期待できそう。「デザインがまったく古くならず、カラー・コーディネーションで新しい世界観を提案できる。これを捨ててしまうのはもったいないと思う」と齋藤主査。『ND2』の世界は今後もまだまだ広がっていくようだ。

《千葉匠》

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