国内の脱“テクノ教室”、欧米で進む「ブレンディッドラーニング」手法を紹介 | Push on! Mycar-life

国内の脱“テクノ教室”、欧米で進む「ブレンディッドラーニング」手法を紹介

 ブレンディッドラーニング(BL)とは、「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準進級」のこと。アクティブラーニングとBLの位置づけや、国内の小中学校における導入手法を紹介する。

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ブレンディッドラーニング導入の可能性とは?小中向け導入手法を紹介(画像はイメージ)
  • ブレンディッドラーニング導入の可能性とは?小中向け導入手法を紹介(画像はイメージ)
  • 第2回連載で紹介した「BLほか教育法ポジショニングマップ」

 本連載の初回(2015年9月2日)では、ここ数年アメリカを中心に急速に普及しているブレンディッドラーニング(BL)をご紹介し、第2回(9月17日)ではBLの効果とメリット・デメリットについて考察しました。

 BLの特徴を一言で説明するならば「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準進級」であり、それらを実現するために従来の対面授業にオンライン学習やソフトなどICTツールを駆使する学習をブレンド(融合)することから「ブレンディッド」ラーニングと呼ばれています。

ブレンディッドラーニングとアダプティブラーニング、eラーニング特長比較

 個別カリキュラムですから学習内容は当然生徒一人ひとりの学力に適応されます。ただし、文部科学省が推奨するアダプティブラーニング(適応学習)はあくまで集団一斉授業の枠内を想定しているのに対し、BLはそもそも無学年で教材・時間割自由を前提としている点が大きく異なります。また、授業の一部を映像化したものや、パソコンや電子黒板、電子教科書などを導入して教材の一部をデジタル化した「テクノ教室」は一見先進的な印象を受けますが、従来の集団一斉スタイルを維持したままeラーニングを導入しただけでは、「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準進級」を特徴とするBLとは構造的にまったく別次元であることに注意が必要です。

 前回第3回(2015年10月13日)は、アメリカとオランダにおけるBLの実例をご紹介しました。残念ながら日本では、オランダのように政府による手厚い支援やアメリカのように個人や財団からの寄付などはほとんど期待できませんし、従来とは正反対に見える革新的な教育事業に対して銀行がリスクを取って資金を貸し出すとも思えません。アメリカのように教育に特化したベンチャーキャピタルもありませんので、あとは「この指とまれ」とクラウドファンディングにでも頼る位しか方法がないのが現状です。

 このように、欧米と比較して日本では自由な教育を経済的に支援する仕組みが未成熟で、文字通り私財を投げ打ってやる覚悟がなければ、明治以来100年以上続く受動型集団画一教育を根底から覆すような学校を今すぐゼロから立ち上げることは相当ハードルが高いと言わざるを得ません。

 しかしながら理想に固執するばかりでは前進はありません。そこで、より現実的な選択肢として、BLの学校を新設するのではなく、既存の学校で学年や科目を絞って試験的にBLを導入してから、成功事例を作りつつ徐々に対象を拡げていく方法が考えられます。BLの基本方針である「個別カリキュラム」や「達成度基準進級」を実践するには、年齢で一律に固定される学年制は障害となり高い柔軟性が求められますので、制度や組織面で裁量の幅が限られる公立よりも相対的に自由度の高い私立の小中一貫校のほうがBL導入のハードルは低いでしょう。

BL導入で効果が表れやすいのは「算数・数学」…小中学校への導入法

 私自身の経験やアメリカの事例を参考にすれば、BLの効果が比較的早く表れやすい科目は、小1から高3までひとつひとつ系統的に理解を積み上げていくことが必要な算数・数学です。なかでも、割合や速さなどを学習する小学高学年から、あらゆる数学的知識を総動員しないと解けない方程式を初めて学習する中学1年前後でつまづいている生徒は、理解できていない単元・領域を特定し、理解できるレベルまで遡って個別カリキュラムで集中的に復習すれば直ぐに追いつくことができます。

 そこでまず手始めに、放課後や週末または長期休暇にオンラインコースを利用して無学年・個別カリキュラム方式で算数・数学の後戻り復習をする講座を開設することをお勧めします。その際留意する点は、個々の生徒の弱点・苦手を的確に見極めて実際の学年にこだわることなく適正な内容・レベルから始めることと、無理なくマイペースで達成できる目標と計画を策定することです。そして、生徒に学習の主体性を持たせるために、自助努力で頑張れば目標を早く達成できるが逆に怠ければ先へは進めないことを予め十分に理解させ、学習の進捗については自己責任であることを自覚させることです。集団授業のように静かに座っていれば先生が勝手に進めてくれる、または家庭教師のように先生が横に座って手取り足取り指導してくれる、という他力本願は通じないことを認識させるのです。

BL導入に必要な体制や組織、準備など

 BL導入には、際して対象科目を専門とする先生をリーダーに据えて実行チームを編成します。学年、科目を限定して小規模で試験的に始めるのであれば大きな組織・人員配置の変更は不要ですが、放課後や週末などを利用することを考えると、中学では部活動の顧問は外れてBLの指導に専念されるほうが無難でしょう。また、BLの核となるオンライン学習や個別学習管理ソフト等を利用するために、ネット環境の整備、デジタル機器の調達、使用ソフトの選定など、導入に必要な作業量によってはIT専従者が必要なケースもあるでしょう。

 もっとも重要な点は、BLに対する現場トップ(校長)の理解と支持です。従来の常識を打破して新しいことを実行しようとすると必ず反対の声が上がります。トップが確固たる信念をもってBLの導入を組織全体に徹底して浸透させることが重要です。そして、BL担当の教員はトップに対する経過報告を怠らないだけでなく、他の教員や保護者に対しても積極的に情報を公開し、反対派・懐疑派の理解を得られるよう努力することがBL導入プロジェクトを成功へと導く鍵です。

 BLにおける先生の役割は、教壇から一方的に講義をし板書をすることが中心の集団授業とは大きく異なります。最初の作業は、生徒一人ひとりの学力を客観的に評価すること、生徒とともに目標を話し合い達成基準を明確化すること、目標に至る道筋(ロードマップ)を明示して計画作成を支援すること、そして適正なレベルの教材を助言することです。実際の指導では、単に正解を教えれば済むのではなく、生徒が自ら答えを見つけられるようサポーター役に徹することが生徒の主体性を育みます。そして、一人ひとり異なる学力や集中力、性格を念頭に生徒がマイペースで進むことを辛抱強く見守り、決して急かさないことが重要です。車の運転をするのは先生ではなく、あくまで生徒が自らの考えで運転することを忘れないでください。

BLは授業のいち手段、校風に合うよう試行錯誤を繰り返す

 間違えてはいけない点は、BLは手段であって目的ではないことです。最終的な目的は、「個別カリキュラム」と「達成度基準進級」の実践により生徒一人ひとりに見合った学力の向上を図ることです。BLの導入後は、BL参加生徒と不参加生徒の学力比較、参加生徒の参加前後の伸び、BLに参加する時間の変化などのデータを定期的に収集して分析することが必要です。分析の結果や参加生徒の声を参考にして何らかの調整が必要であれば直ちに軌道修正を図り、試行錯誤を繰り返しながら各校の校風に合致する形に仕上げていくのが理想です。そして予め定めた時期に、予め決めた基準に照らしてBLプロジェクトの成否を判断し、BLの対象科目を算数・数学から主要科目へ、学年を小学高学年から小中高全学年へ、そして実施時期を放課後、週末、長期休暇から通常授業時間帯へと拡げるのか、正式に機関決定するのです。

 次回は、BLの実践に欠かせないテクノロジー、特にオンライン学習MOOCについてご案内します。

《小松健司》
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