Music*car=life∞に楽しむ、旅好きトークリレー

スティーリー・ダン『うそつきケイティ』

印南敦史(フリーライター/コピーライター)が選ぶ 今週の一枚

うそつきケイティ / スティーリー・ダン ユニバーサル インターナショナル
【1975年(オリジナル盤リリース)】1975年3月にリリースされた、スティーリー・ダン4枚目のアルバム。ジャズ、フュージョン、AOR、ソウル、ポップス、ロック……と、さまざま音楽要素が、スティーリー・ダンという名のメルティング・ポッドの中で見事に溶け合った名盤。

#045: 印南敦史(フリーライター/コピーライター) 「車で聴く音楽に求めるのは、端的にいえば密閉性との相性である。」

ミエを張って、数年前までグランドチェロキーに乗っていた。タフだし乗り心地は最高なのだが、リッター4キロって……。しかも電気系統の故障がひどく、結果、年に3、4回は修理に出すことになり、そのたびに修理工場が貸してくれた代車(20万キロぐらい走っていそうで、染み着いた匂いが強烈に臭いカローラとか)に乗るはめになった。こうなると、なにが目的なのかよくわからなくなってくる。代車を借りるためにハイオクを垂れ流しにしているようなもので、つまりは僕ごとき人間がグランドチェロキーに乗ること自体が分不相応。収入と支出のバランスを完全に無視した行為なのであった。

てなわけで次はジミめに、(それでもちょっとだけミエを張って)いまはフォルクスワーゲンのゴルフワゴンに乗っている。買ったときは知人から「手堅くいきましたねー」といわれたし、自分でもそう思っていた。ところがこれがとんでもないハズレで、最初の車検までの3年間で6回ぐらい壊れた。やっぱり電気系統だ。

マイケル・ムーアもこれに乗っていたことがあるらしく、『アホでマヌケなアメリカ白人』に故障したときのことが書いてあった。

動かなくなったからディーラーに文句を言ったら、「このクルマは一日一回エンジンをかけないと壊れるんだよ」とか説明されたというくだりだが、「なんだよそれ?」的なムーアのツッコミに「うんうん!」と大きくうなずいたのをおぼえている。

もうすぐ二度目の車検だけど、あと3年乗ったら考えなきゃな。今度は国産だな。うん、ミエはとっぱらって、やっぱり手堅く国産だな。でも、ワンボックスだけは嫌だな。

あ、ちっとも音楽のことを書いてなかった。ので、ちょっとはそっちの話にも触れよう(「そんなんでいいのか」とかツッコまないように)。

爽やか系のUK R&Bなどを聴いて、「海辺をドライブするときにぴったり」みたいなことを言いたがる(少しばかり想像力の乏しい)人がたまにいる。が、そもそも海までチョロッとドライブできるような場所に僕は住んでいないし、そういうことをして気持ちよくなれるほどシンプルな人間でもない。だいいち、「海サイコー!」とか浮かれて運転してると、稲村ケ崎あたりなら確実に事故るぞ。

車で聴く音楽に僕が求めるのはそんなことではなく、端的にいえば密閉性との相性である。リスニングルームとして最高の環境だといわれる車に見合う音質や重量感がほしいわけで、そう考えるとこれはもう絶対にスティーリー・ダンに決まっている。あれは、密室性の高い空間でこそ最大の力を発揮する音楽だ。そう思いませんか? そうですか。でも、僕にとっては彼らこそ最高のカーステ音楽。

ありえないほど緻密な精度で最高品質の音のかけらを重ねていき、とてつもなく巨大で、しかも死にたくなるほど心地よい音を積み上げていったような……。それがスティーリー・ダンの音楽だ。極論をいえば、数あるミュージシャンのなかでそれができるのはスティーリー・ダンとマイケル・フランクスだけだ。そして彼らの音楽であれば、それがグランドチェロキーであろうがゴルフワゴンであろうがカローラであろうがもう全然OK! 適さない車があるとすれば、エンジン音がカーステの音をかき消す(実験した経験あり)TVRぐらいか。

だが、ここでポイントになってくるのが「どのアルバムを選ぶか」という問題だ。僕はスティーリー・ダンがスティーリー・ダンであれば、なにをやっても許すという人間だ。もしも彼らがジャニーズとコラボしたなら、それすらも許してしまう可能性がある。

「リアルタイムでよく聴いてた『幻想の摩天楼』『Aja』『ガウチョ』あたりが最有力だけど、そもそも“Do It Again”がはいっているというだけでファーストの『キャント・バイ・ア・スリル』も高得点だしなー」ってな具合で、意見がちっともまとまらないのだ。彼らの前では優柔不断にならざるを得ないのだ(まあ基本的な性格からして優柔不断なんだけど)。

けど、そうもいっていられないので一枚選ぶとしたら、1975年の4枚目『うそつきケイティ』ってことになるかな。

「(ドナルド・フェイゲン×ウォルター・ベッカー)÷ゲスト・ミュージシャン」

という公式を確立させた作品。リック・デリンジャーとかジェフ・ポーカロとかデヴィッド・ペイチとかチャック・レイニーとかウイルトン・フェルダーとか、鼻血が出そうになるくらいゲストも豪華だ。しかもそれでいて、完全にスティーリー・ダンの音。さっきも書いたが、それがすごいところ。

だから無駄な曲なんか一曲もあるはずがないんだけど、なかでも僕が絶対的に好きなのは2曲目の“Bad Sneakers”だ。すぐにそれとわかるラリー・カールトンのギター・ソロからマイケル・マクドナルドのバック・コーラスまで、すべてが完璧のひとこと。中学生のころからどれだけ聴き込んだかわからないが、いまだにまったく飽きないどころか聴くたびにこみ上げてくるものがある。それはステレオタイプな“感動”とは別ものなんだけど、絶対的な感情だ。

“Bad sneakers and a Pina Colada My Friend Stompin on the avenue By Radio City with a Transistorand a large Sum of money to spend”

というサビの部分の節まわしが好きだ。歌詞の意味については訳詞に頼ることしか僕にはできないんだけれど、それでもすごく知的でしゃれていることだけはわかる。

印南敦史

印南敦史

推定300人以上へのインタビュー経験を持ち、“人”に焦点を当てた取材を信条とするフリーライター/コピーライター。キャパシティは音楽からアパレルまで広範。

2008-03-10 Mycar-life *「Music*car=life」は毎週月曜日更新予定です。