Music*car=life∞に楽しむ、旅好きトークリレー

半野喜弘『Lido』

がんちゃん(イベント・プロデューサー)が選ぶ 今週の一枚

Lido / 半野喜弘 ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
【2003年】パリを拠点に活動する半野喜弘(a.k.a. RADIQ)の、マスターピースともいえる作品。複雑な電子音とアコースティックな楽器、ヒューマン・ボイスがバランスよく織り交ぜられた、前衛でありながら落ち着いて聴ける1枚。

#043: がんちゃん(イベント・プロデューサー) 「フロントガラスに映る単調な景色は、ふさわしいBGMを得た途端ストーリーのないロード・ムービーに。」

真夜中を少し過ぎた頃、首都高1号線の下を品川から芝浦に向けて走っていて、隣に座る彼女はCDを入れ替えた。

どんなにスピードを変えても静止したままの車内の空気。窓の外にはひたすら無機質な景色が続いている。昼間とは全く違った顔を見せる無人の都会の一角は、音のよく響くだだっ広いトンネルのようだ。流れ始めたその音楽は反響を繰り返して、人工的な空洞の中を黙々と進む僕たちの耳に届いた。

アンビエントな電子ピアノにかぶせられた石笛とインディアン・フルートのエコー。ミニマルなプログラムド・ドラムに乗せた女性ヴォーカル。つぶやくような歌声とグリッチ・ノイズの合間を縫うようなサックス・デュオ。女性の声と楽器音のサンプリングによるパッチワーク…。

遠い昔か夢の中で出会ったはずの何かを思い出そうとして、記憶のすぐそこまで来ているような感覚。

それまで何度も繰り返し聴いていた音楽が、初めてふさわしい背景を得たことでその輪郭を際立たせる。フロントガラスに映る単調な景色は、ふさわしいBGMを得た途端ストーリーのないロード・ムービーになっていた。

そのアルバムをCDプレイヤーに入れた彼女と、そのアルバムを買ってきた僕。あえて言葉には出さなかったけど、あのとき二人とも同じように感じていたはずだ。「これ、いいね」と。

それからというもの、その日の長いドライブの中、ほんの数曲分の時間を、このアルバムとともにいつも思い出す。

がんちゃん

がんちゃん

イベント・プロデューサー

アメリカの片田舎で音楽を勉強し、現在はフリーのイベント・プロデューサー。企画・制作・営業・デザイン・舞台監督・MC・通訳翻訳など、その場その場で何でもやってしまうぶっつけオールラウンドなB型。放浪癖あり。

2008-02-25 Mycar-life *「Music*car=life」は毎週月曜日更新予定です。