
真夜中を少し過ぎた頃、首都高1号線の下を品川から芝浦に向けて走っていて、隣に座る彼女はCDを入れ替えた。
どんなにスピードを変えても静止したままの車内の空気。窓の外にはひたすら無機質な景色が続いている。昼間とは全く違った顔を見せる無人の都会の一角は、音のよく響くだだっ広いトンネルのようだ。流れ始めたその音楽は反響を繰り返して、人工的な空洞の中を黙々と進む僕たちの耳に届いた。
アンビエントな電子ピアノにかぶせられた石笛とインディアン・フルートのエコー。ミニマルなプログラムド・ドラムに乗せた女性ヴォーカル。つぶやくような歌声とグリッチ・ノイズの合間を縫うようなサックス・デュオ。女性の声と楽器音のサンプリングによるパッチワーク…。
遠い昔か夢の中で出会ったはずの何かを思い出そうとして、記憶のすぐそこまで来ているような感覚。
それまで何度も繰り返し聴いていた音楽が、初めてふさわしい背景を得たことでその輪郭を際立たせる。フロントガラスに映る単調な景色は、ふさわしいBGMを得た途端ストーリーのないロード・ムービーになっていた。
そのアルバムをCDプレイヤーに入れた彼女と、そのアルバムを買ってきた僕。あえて言葉には出さなかったけど、あのとき二人とも同じように感じていたはずだ。「これ、いいね」と。
それからというもの、その日の長いドライブの中、ほんの数曲分の時間を、このアルバムとともにいつも思い出す。

イベント・プロデューサー
アメリカの片田舎で音楽を勉強し、現在はフリーのイベント・プロデューサー。企画・制作・営業・デザイン・舞台監督・MC・通訳翻訳など、その場その場で何でもやってしまうぶっつけオールラウンドなB型。放浪癖あり。
2008-02-25 Mycar-life *「Music*car=life」は毎週月曜日更新予定です。