
MESの開催に合わせて来日したロックフォード・フォズゲートのリード・エンジニア、アンソニー・ダモア氏は、おそらく30代後半というところだろう。その経歴が面白い。もとは自動車整備の先生をしていたのだそうだ。ところがもともとカーオーディオが好きで、あるときどうしてもそれがやりたくなって大学に入り直したという。
「16歳からモービル・テクノロジーの仕事はしていて、最後の2年間はティーチャーをやっていました。ある日新聞広告でカーオーディオ・エンジニアの募集をしているのを見て、どうしてもこれだと思ったのです。それで大学に入学し、エレクトロニクスとエンジニアリングを勉強して、ロックフォードに入りました」
26歳のことだったという。大学を出て就職しなおしたのが29歳。それから8年ほど経つそうだ。
「ロックフォードでは2003年モデルから設計を担当してきました」
ここ数年の製品はアンソニー氏の設計ということになる。中でも革新的だったのがT15kw。これについてもエピソードがある。
「社内で毎年、音圧競技のようなコンテストがあるのですが、それにずっと優勝してきました。しかしまた翌年も勝たなければならないとなると、バッテリーやキャパシターを増やさなければなりません。それを増やさずにどうやったら勝てるかという方法を考えていたのです」
たまたまアンソニー氏の父親が心臓発作で倒れ、救急医療が行われた。たぶんAEDのことだと思うが、エネルギーを溜めておいて一度にどっと電圧をかけてショックを起こす。それを見ていて思いついたのが、ハイブリッド・テクノロジーだという。

ハイブリッド・テクノロジーは比較的小型のキャパシターを多数接続し、そこにエネルギーを溜めて瞬時の電源供給力を高める独自の技術だ。これがT15kwの巨大なパワーを支えている。この技術を、例の社内競技に活用した。1kW、2kWと上げてゆき、さらにどんどん出していったらついに15kWまで出たという。しかも消費電力は従来の5分の1で済む。現在特許出願中という画期的な電源テクノロジーはこうして生まれたのである。
T15kwには4300ファラッドのキャパシターが180個使われている。それだけでなくエネルギーの出入りをコントロールすることで、常にハイボルテージを確保しておくことが可能なのだそうだ。それにしても8581.8kgという重量は、実用というよりひとつのシンボルという印象もある。実際この製品の開発はハイブリッド・テクノロジーの証明と、ステート・オブ・ジ・アートという意味の両方が含まれていたらしい。
ところで最新の注目作T600-2はずいぶん音が変わった。パワー重視から鮮度とバランスに優れた音調に転換したように思える。
「確かに2007年モデルは大きく変わりました。ひとつは入力ステージに差動回路を採用したこと。それから保護回路を変更したことです」

これまでの保護回路では、本当の意味で出力素子の保護にならない。それならそれを外してしまい、壊れそうになったら電源を落としてしまえばいいという発想だ。これによって出力素子のMOS-FETをフルに働かせることができる。鮮度の向上とエネルギーに満ちたディテールは、きっとこの技術によるものだろう。そのほかDTM(ダイナミック・サーマル・マネージメント)も新たに採用されたテクノロジーだ。これまでにも何度か触れてきたから詳しい説明は省くが、ヒートシンクが内部で4枚使われているという。ちょうど「コ」の字型に配列されて(名刺を使って説明してくれた)、それぞれの効率をコントロールすることで均等な熱配分を行うことができる。これによってサイズを最大40%も小さくすることができたことも前に触れた。
ところでアンソニー氏はデジタル・アンプが嫌いなのだそうだ。小さくするならデジタル・アンプにしてしまえばいいじゃないかという意見もあるそうだが、デジタルではやりたくなかったらしい。その結果がパワー・シリーズのコンパクト化につながったというから面白いものである。
2007/6/28 [TEXT: 井上千岳 / PHOTO: 木村博道]