
CDのダイナミック・レンジは96dB、0Hz〜20,000Hzという再生周波数帯域をほとんどフラットに記録・再生できる。これに対してアナログは70年台後半に登場し80年代まで多くのレコード会社でマスター・デッキとして使われたスチューダーA-80でさえ、SN比が2tr・38cm/secで61dB、周波数特性も30〜18,000Hz(±2dB)2tr・72cm/sec2trでも63dB、50〜20,000Hzという値だ。
このオープン・テープを元にアナログ・ディスクが製造されるのだが、機械的な振動を微細な溝に刻み込むので大きな振幅の低音をそのままカッティングすることはできない。そこで低音域のレベルを下げて記録し、再生する時にフォノ・イコライザー・アンプを使い低音域のレベルを高めなくてはならない。カッティング時と正反対の特性を持つフォノ・イコライザー・アンプがなくては周波数特性を完全にフラットに戻すのは難しい。またDレンジを稼ごうとすると音溝の幅を十分に確保しなくてはならないので収録時間が短くなってしまう。
ということを考えるとCDはアナログ・ディスクに比べ格段に優れているはず。しかし、一般的な市販CDを聴くと、どう考えても96dBものダイナミック・レンジが確保されているとは思えない。また周波数特性にしても空気感がクリアーに再生できるような超低域までフラットに記録されているとも思えない。それは何故か?
ロックやポップス系ソフト、大手レーベルのジャズ系ソフトではリミッターやコンプレッサーというエフェクターを使いDレンジを圧縮して常に大きな音で鳴っている状態を作ってしまう。また超低音成分もカットして、その不足分を本当の低音域よりも少し高い音域をブースとして低音感を演出してしまう。そうしたCDでは幾ら再生装置の性能が高くても本当の低音情報は引き出せないし、微かな余韻を再生することなど出来ないのが現実だ。
そこで「本当に音の良いCDが欲しい!」という欲求が高まり、それなら昔レコード会社に在籍していた時の経験と人脈を生かして自分で作ってしまおうということで1997年に興したのが「ウッディクリーク」だ。当初は楽器が本来的に持っている美しく多彩な響きを生かした自然なサウンドを収録することを考えホール録音を主体にしていた。また音の鮮度を可能な限り高めようということで2トラック・ステレオのライブ録音というシンプルな手法を採った。当然、ダイナミック・レンジを圧縮するリミッター、コンプレッサーといったエフェクターも使わず、またイコライザーなどで特定の帯域をブーストしてアタック感を強めたり、低音感を演出したりせず各楽器の音量バランスを整えるだけにしている。音色のコントロールは個々のアーティストの出している音にマッチしたマイクロフォンを選択することで行っている。そのため一般のCDに比べると音量が確実に10〜20dB低くなる。「ウッディクリーク」のCDを最適音量で聴いた後そのままの音量でロック系やJ-pop系CDを聴くと、いきなり大音量で再生されるためスピーカー・ユニットを破損したりアンプの保護回路が働いたりする可能性がある。またローカット・フィルターも使用していないので小口径ウーファーを搭載したスピーカー・システムではボトミングしてしまうかもしれない。
以前にコラム欄で新作レコーディングの報告をしたが、4月発売予定の「ジュビレーション八城邦義プロジェクト〜フィーチャリング2トロンボーンズ」(CD-1008)もこれまでと同じ録音手法を採っている。ただ初期の作品と違っているのは前作「アローン・トゥギャザー」(CD-1007)からスタジオ録音になったという点。カーオーディオでは少し難しいかもしれないが再生機器のパフォーマンスが高ければ高いほどリアルな質感と音像、音場感を得ることができると思う。また再生側でクリップや歪みが出なければ、かなり大きな音で聴いても煩く感じることはないはずだ。
こうした録音手法を採っているのは国内のマイナー系のクラシックやジャズ・レーベルに多い。大手のレコード会社では、多くの人が聴くことを想定しているので誰がどんな装置で聴いても楽しめるような音を作ってしまうのだ。だからといって僕はそうした高音質ソフトばかりを聴いている訳ではない。以前にコラム欄で紹介したようなメジャーな作品も聴いている。コンテンポラリー系やフュージョン系ソフトなどでは当然コンプレッサーをはじめ各種のエフェクターを使い爽快感のある音や躍動感のある音を生み出している。十分なfレンジを確保し圧迫感のない気持ちの良い音を聴かせてくれる作品は数多い。長い間色々なCDを聴いているとアーティストやレーベル、録音エンジニアなどを見れば大体のサウンドは想像できる。そして多くの作品を聴いていれば想像通りのサウンドが聴ける確率も高くなるものだ。