カーオーディオを楽しむためのソフト選び

#1 井上千岳「普通に市販されているCD、ただし録音がいいものを」

少し試聴ソフトの話をしようと思う。こういう仕事をしていると、いったいどんなソフトで試聴しているのですかと訊かれることも多いのだ。具体的にCDを教えることもあれば、特別なものは使っていませんと答えることもある。ただいずれにしても誤解があるように思えるのも事実だ。

専門家が使う試聴ソフトというと、よほど特殊なものと思われている節がある。例えばチェック用の信号が入ったCDなど。確かにノイズレベルやチャンネル・セパレーションを測ったりするのには適しているかもしれない。しかしオーディオの目的は音楽鑑賞であって、ノイズを聴いていても音がわかるわけではない。それにテスト信号は単純なサイン波であることが多く、それで音調の傾向がわかるとも思えないのである。だからチェックディスクの類は使ったことがない。あるとすれば機材の故障を調べるときぐらいだ。

あるいは特にオーディオファイル向けと称して作られた種類のCDがある。高音質技術がいろいろと採用されていることも多く、例えばクロックにルビジウムだとかセシウムだとか超高精度なデバイスを使用したもの、超低域や大音量など再生の難しいソースを選んで編集されたものなど、いかにもマニアックはCDのことである。その類のディスクもまず使うことがない。音楽性がないからだ。

例えばコントラバスの低音だけを至近距離で録音したとして、それで何がわかるというのだろう。そんな状態で演奏を聴くことなどないはずである。また高音質技術というのならそれによって音楽がいっそうリアルに聴こえてこなければならないのに、えてしてそうしたディスクは技術的な側面だけを誇示するあまり肝腎の演奏自体が十分に捉えられていないことが多い。あるいは誇張が過ぎて表情が大袈裟になることも少なくない。いずれにしても音楽を聴くのではなく、音そのものを聴くためのものといわざるを得ない。

そんなわけで、いつも使うのは普通に市販されているCDである。クラシック系が多いのは単に趣味の問題で、いいものであればジャズやボーカルも聴くが、専門外なのでどうしても限られる。ただいずれにしても音楽的な面も含めて録音がいいことは条件である。

基本的にはリミッターやイコライザーを使わず、ダイナミックレンジの広いレスポンスの均一なもの。この点で欧米のメジャーレーベルは段々使わなくなった。ごく一般的なオーディオ・システムを想定しているためダインミックレンジを抑え、マルチマイクによって音の小さな楽器もミキシングでブーストしたりすることが多いからである。それでは音場感が損なわれるし、音量が頭打ちになってリアリティを欠く。比較的よく使うのは国内のマイナーレーベルで、ワンポイントにはこだわらないが音場の自然なもの。そして演奏のリアリティが感じられるものが試聴ソフトとして選ばれるわけだ。

ただ音楽にも得手不得手があって、同じクラシックでもなぜか最近は声楽系が増えた。また器楽でも以前はオーケストラ絶対だったのだが、いまでは逆に室内楽が多い。歳のせいかとも思うがどうだろう。

代表的なものを挙げておくと、英国の少年合唱グループ「リベラ」の作品。「ヴィジョンズ」「フリー」(いずれもEMI)が特に好きだ。また女声アカペラ「アウラ」の第2アルバム「カネンス」(トエラ)も近頃気に入っている。オーケストラではフォンテックの録音が好きで、アルミンク=新日本フィルのマーラーやジャン・フルネのラスト・コンサートなど優れたものが多い。

数年前まではフィンランドのカンドミノ合唱団による「フィンランドの賛美歌集」(フィンランディア)をよく聴いたものだが、このレーベルは消滅してしまったようである。ほかにピアノ曲や室内楽でも好きなCDはあるが、たくさん持ち歩くのが面倒なのでCD-Rに焼いて使っている。ただしあくまでも試聴用。ちゃんと聴くときはオリジナルである。

2007/3/1 [TEXT:井上千岳]