
考えて見ると今から30ン年前、僕にとって2台目のクルマとして父親に買ってもらったホンダN360からクルマの中で好きな音楽を楽しんできた。当時、純正装備の音響機器はカーラジオ(もしかするとラジオでさえオプションだったかもしれないが、)のみでカセットレシーバーは標準では搭載されていなかったと記憶している。しかし友人の兄上から譲ってもらった中古のヘッドユニットを自分で取り付けリアトレイに純正より少しはマシといった程度のスピーカーを取り付けて好きなロックやジャズを楽しんでいた。彼女とのデートの時はドライビングルートや、その時間にマッチするような音楽をアナログレコードからダビングしてBGMとして流していた。
ある年のクリスマスシーズン、当然ながらクリスマスナンバーだけを1本のカセットに収め、少し無理してイタリアンレストランに行った。食事が終わり彼女を家に送る途中でチラチラと雪が降り始め、家に到着する頃にはうっすらと雪景色が広がっていた。これは絶対にホームオーディオでは味わえない世界だと思う。またバンドのメンバーたちと楽器を満載してコンテストやミュージックキャンプに行く途中、みんなで大声を出して歌ったシカゴやクラプトンの曲も最高だった。
20数年前、ちょっと無理してポルシェカレラという硬派なクルマを手に入れた頃、僕は「ポルシェみたいなスポーツカーはドライビング自体を楽しむものでカーオーディオなんて必要ないよ。交通情報さえラジオから聴こえればいいのさ。」みたいなことを言っていた記憶がある。しかし、それは少ない収入からクルマのランニングコストを捻出しなくてはならないため純正オーディオシステムで我慢していた事の言い訳に過ぎない。しかし、純正カセットレシーバーであっても常にクルマの中でも音楽を楽しんでいたのは言うまでもない。その後、暫くしてカー用CDが実用化され初めてCDレシーバーを搭載してからはカーオーディオから離れたことは一度も無い。そのポルシェカレラで雑誌社にある試聴室からの帰り道、日付が変わろうという時間帯。すっかり人気のなくなったオフィス街を少し早めな速度で流している時に聴こえてきたジョン・コルトレーンのバラードなどは少し前にリスニングルームで聴いた高価なオーディオシステム以上に心に沁みこんできたし、その時のえもいわれぬ感動は今も心の奥に残っている。
そんな風に、季節や場所、一人でのロングツーリングや彼女とのデートドライブ、あるいは家族との小旅行、同乗車やドライブルート、時間帯など様々なシチュエーションにマッチした音楽をBGMとしたら、そのドライブが一層思い出深いものになるのは間違いない。僕は長距離を走る2台の車には朝から夜更けまでの雰囲気が感じられる音楽をCD-Rに収めて搭載している。朝から午前中にかけては爽やかなボサノバや都会的なスムースジャズなど、太陽が真上に昇る頃にはウェストコーストのロック、そして夕方から夜にかけてはジャズ系の女性ヴォーカルやバラードなど、といった具合だ。同じ音楽でもリスニングルームという閉ざされた空間で聴くのとは全く違ったものに聴こえるのがカーオーディオの素晴らしいところだ。またCDが実用化されて、初めてホーム用のソフトをそのままクルマの中で聴けるようになったというのも僕たち音楽ファンにとって嬉しい出来事だったといえる。と同時にそれがカーオーディオのサウンドクォリティをホームオーディオと同等で語れるレベルに押し上げたと言っても良いだろう。
僕は、方式や搭載するオーディオ装置のランクなどに変な拘りを持つことなく音楽そのものを純粋に楽しみたいと思っている。