高級機を味わうシリーズ一覧

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井上千岳の高級機を味わう

家にあるオーディオ製品は、まあ全体が見えている。大概は四角い箱で、シルバーかゴールドのパネル。スピーカーだけはいろんなのがあるが、そうとてつもなくユニークなものは多くない。もっともディナウディオのコンフィデンス・シリーズを初めて見たときには、思わず笑ってしまったものだ。ユニットを取り付けるバッフルが、キャビネットから浮いて飛び出している。まるでお面を被っているみたいで、慣れるのに苦労しそうだと思った。確かに時間はかかったが、それがいまでは部屋の中にある。それどころかこのお面がないとなんだか物足りないくらいで、慣れというのは恐ろしいものである。

カーオーディオは見えるところが少ない。見えないものばかりだ。精々ヘッドユニットのパネルが常時目にするくらいのもので、あとはアンプもスピーカーも見えないところに押し込まれている。だから外側のコスメを気にする人も少ないだろうし、ヘッドユニットなどケースにさえ入っていない。ダッシュに入れてしまうのだから当然といえば当然だが、だから中身に違いがあるということにまでなかなか思いが及ばないのかもしれない。

RS-D7XIIの白いイルミネーションは高級機らしく上品だが、その後ろ側には入念に練り上げられたテクノロジーが詰まっている。それを見てゆくと、ハイエンド・ファンがいったい高級機のどういうところに惹かれるのかきっとわかるだろう。

D7XIIのシャーシは、銅メッキで覆われている。高級機であることが一目でわかる部分である。ホームオーディオでも、上級モデルと呼ばれる製品はほとんど銅メッキ・シャーシだ。もちろん錆止めのためではない。

銅は電気抵抗が低い。銀に次いで低く、実用的な金属中では一番といっていい。だから銅メッキをするのはシャーシの導電率を上げるためなのである。

なぜかというとシャーシにはアース電流が流れる。流れた電流は瞬時に解消されてしまわないと、他の回路に流れ込んだりそこで磁界を発生したりしてノイズを引き起こす。そこでアース電流が解消されやすいように、シャーシの抵抗を下げる、つまり導電率を上げることが必要なのである。銅メッキはそのためのものである。もちろん電流といってもごくわずか、またその時間も瞬くほどのものでしかないが、それが音には大きく利いてくるのだ。普及機では残念ながら、こういう配慮は省略されていることが多い。

シャーシだけではない。ヘッドユニットつまりCDプレーヤーの心臓部はCDを回転させるドライブ・メカニズムだ。CDは回転中に揺れてもちゃんとピックアップがついてゆくが、それでも振動はないに越したことはない。そのためにクランパーといってCDをホールドする部分があるわけだが、ここにM2052という合金が使われている。

最初この合金の名を聞いたときはちょっと驚いた。ホームのCDプレーヤーでもこんなことはしていない。M2052というのはそれほどすごい素材なのである。

いまは独立行政法人で物質・材料研究機構というが、以前は科学技術省に属する金属材料技術研究所というところがある。ここで川原浩司博士という人が開発した非常に振動吸収性能の高い合金がM2052だ。オーディオ製品としてはインシュレーターなどに使われているが、CDのメカに採用されたのは初めてではないか。知らないだけかもしれないが、ともかく大変珍しい。

こういう話を聞いて、ウーンと唸ってしまうのである。同じように見えても、使ってある素材や配慮のしかたが違うのだ。もちろん音に利いてくるのは当たり前だが、こういった作りの入念さだけでも他とは違うのがわかる。趣味としてやっていると段々高級機が欲しくなるものだが、オーディオも同じである。

D7XIIが欲しくなるわけはほかにいくつもある。CDプレーヤーの全てを司るクロックは高精度なうえに、ひとつひとつ調整されている。あるいはハイビット・コンバージョンといって、CDの信号を24ビットまで持ち上げてDA変換する独自の技術はパイオニアの誇るものだ。使われているパーツも厳選されているし、基板の銅箔は70μmという厚手の仕様である。

こういったことを知ったうえで音を聴くと、なぜこれだけ違うのかすんなり理解できるというものだ。いやこの音の背後にはこれだけの技術が控えているのだと想像すると、いっそう信頼が湧いてくる。そしてとことん使いこなしてみたいという欲求に駆られるのである。そこで次はプロセッサーだ、アンプだ、スピーカーだと発展してゆくのだ。人はあるいはこれを「泥沼」ともいう。

モノを知ることは、趣味を深くする。カーオーディオの見えない部分を知ると、音への愛着も強まるものである。

2005/12/1 [COPY・井上千岳 PHOTO・伊倉道男]