【インタビュー】「これはポルノじゃない!」ギャスパー・ノエ監督、日本の大量モザイク処理に吠える | Push on! Mycar-life

【インタビュー】「これはポルノじゃない!」ギャスパー・ノエ監督、日本の大量モザイク処理に吠える

フランス映画界の問題児ギャスパー・ノエ監督による、約6年ぶりの新作長編映画『LOVE【3D】』が4月1日(金)から公開される。一組のカップルが破局していく様子を断片的な回想と赤裸々なセックス描写を…

エンタメ エンタメ
ギャスパー・ノエ監督『LOVE【3D】』/photo:Hayato Ishii
  • ギャスパー・ノエ監督『LOVE【3D】』/photo:Hayato Ishii
  • 『LOVE【3D】』(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
  • 『LOVE【3D】』(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
  • ギャスパー・ノエ監督『LOVE【3D】』/photo:Hayato Ishii
  • 『LOVE【3D】』(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
  • 『LOVE【3D】』(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
  • 『LOVE【3D】』(C)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
  • ギャスパー・ノエ監督『LOVE【3D】』/photo:Hayato Ishii

フランス映画界の問題児ギャスパー・ノエ監督による、約6年ぶりの新作長編映画『LOVE【3D】』が4月1日(金)から公開される。一組のカップルが破局していく様子を断片的な回想と赤裸々なセックス描写を交えて描いた挑戦的な内容で、初お目見えとなった第68回カンヌ国際映画祭では非難轟々・賛否両論を巻き起こした。だがノエ監督に関して言えば、これまでの作品同様に、そのネガティブな反応こそが勲章のようなもの。モラルを超越し続ける男が、単独インタビューに答えた。

日本を舞台に、輪廻転生を描いた映画『エンター・ザ・ボイド』から約6年。新作発表までの異常に長いブランクも、ノエ監督にとってはいつもの事だ。「前作の製作に疲れてしまった事も理由の一つにあるけれど、今回の作品は非常にセクシャルな内容。ゆえに配給されない恐れもあって、資金集めにかなり苦戦した」とふり返る。だがその成熟期間中に、フランス政府が3D映画に対して助成金を支給する制度が立ち上がった。すぐにエントリ―したノエ監督は、見事に助成金を手にすることができた。

ノーマルからアブノーマルまで、多様なセックスシーンが連発する作品に対して国から金が下りるというのも驚きだが「フランスは英語圏の国に比べると芸術に対して寛容な国。特に今回は待った甲斐があった」と説明する。プライベートでも一大事があった。「母親を亡くした事も大きい。1年くらい危篤状態で、その間は母が入院していた病院を行き来する生活だった。幸いにも死に目には会えたけれど、それから3か月ほどは落ち込んでいて何もできなかった」と打ち明けるが、この“愛するものの喪失と悲しみ”が、本作に強い影響を与えている。

ノエ監督が生み出す作品世界と類まれなるセンスに陶酔する熱狂的ファンは、国を問わず業界内外を問わず存在しており、ノエ監督の動向は常に注目されている。それにも関わらず製作本数は少なく、寡作の映画監督として知られている。「オファーはあるし、脚本も持ち込まれる。でもほとんどが興味のない題材なので断っている。中にはキャスティングも揃ってお膳立てされている企画もあるけれど、その俳優と一緒にやりたいと思わない限り断る。特にハリウッドはプロデューサーが共同監督のように振る舞う事があるから、その場合も断る」と当然といったような顔。それは職業監督的動きを良しとせず、琴線に触れたものだけに入魂するスタイルゆえだ。

『LOVE【3D】』の構想は、元々はモニカ・ベルッチ&ヴァンサン・カッセルの夫婦共演作として用意されたものだが、当時はあまりの過激さゆえにNGに。その代わりに用意されたのが賛否両論の『アレックス』(2002)だった。それだけにノエ監督にとって本作は、念願の企画といえる。「当時は“デンジャー”というタイトルで考えていた。なぜならば愛こそ危険な病気であり、恋に落ちると人は変るし、盲目にもなり、狂気に陥る人もいるから。愛はメンタル面の戦争。正式タイトルの“LOVE”にはそういった皮肉が込められている」と解説する。

主要キャラクターを演じたのは、若手俳優のカール・グルスマン、若手女優のアオミ・ムヨック、クララ・クリスタン。「ヌードを恥ずかしがる人もいるけれど、3人は自分の美しさに誇りを持っている人種なので、潔く堂々と脱ぎ、ゲームのように撮影を楽しんでいた」とはいうものの、3人による乱交場面はあまりに生々しくショッキング。セックス場面の撮影には苦労もあったかと思いきや、ノエ監督は別の部分でイライラしたらしい。「どうして最近の若い人たちはタトゥーを彫っているんだろうか。いまではタトゥーを彫っていない人を探す方が難しい。アオミが胸にタトゥーを彫っていたせいで、ファンデーションで隠したり、編集でごまかしたり、本当に大変だった」と溜息まじり。

日本の映倫の対応にも頭を抱えている。「なぜ日本は映像上で局部を見せてはいけないのですか? 見ると変な病気に感染するとでも思っているのでしょうか? 女性の裸の美しさは、自然体にあると思うし、モザイクがかかる事によって映っているもの以上を想像して下品になる。これはポルノ映画ではなくて、センチメンタルな恋愛物語。だから映倫がモザイク処理する事によって作品の持つ意味合いが変ってしまう」と嘆く。

ノエ監督作のほとんどが日本公開時にはモザイク処理を施されているゆえに、怒りも根深い。「インターネットでは無修正動画が見放題です。でも日本の場合、スクリーンで上映するときにはモザイクを入れる。これはおかしい。ロシアでは上映禁止になった事によって逆に話題を呼び、興味を持ってインターネットを通して違法で鑑賞する人が増えた。イランでも海賊版が出回り、若者のほとんどが鑑賞している映画になった。これは明らかに矛盾だ」と疑問を呈する。

しかし、そんな逆風にへこたれないのもノエ監督の持ち味であり、強み。次回作の構想を聞くと「神の名において残忍な事をする人たちをテーマにした映画を作りたい。現在もそうだけれど、過去には異常な理由での魔女狩りや宗教戦争があった。僕は無神論者なので、それら事象を一歩引いた目線から描いてみたい」と、またまた賛否を呼び起こしそうなプロジェクトを教えてくれた。

《photo/text:Hayato Ishii》
page top