【レクサス GS F】音をデザインし車両との一体感を高める「アクティブサウンドコントロール」 | Push on! Mycar-life

【レクサス GS F】音をデザインし車両との一体感を高める「アクティブサウンドコントロール」

11月25日、レクサスは『GS F』を発売した。搭載されるのは5リットルV型8気筒エンジンで最高出力477ps/最大トルク530Nmを発揮。スペックから超弩級のスーパーモデルだということが容易に想像できるが、速さだけでなくクルマとの一体感を高める特別な取り組みが行われている。

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レクサス GS F
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  • トヨタ自動車 性能実験部 林毅氏
  • 「調整音」を発する専用の特殊スピーカーが、フロントのインストルメントパネル上部と、リアシートバック後方に1つずつ配置される
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音へのこだわりとクルマとの一体感

「全ての音は、うち(トヨタ)はノイズだった。全部ノイズ。だけど(音には)音色というものもある。意志を持って、アクセルを踏んでいるときの『ウーン』っていう音は、いわば自分の意思の音」

このセリフは、トヨタ自動車が公開した豊田章男社長とイチローとの対談動画の中で、豊田氏が「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を説明する際に語った会話の冒頭部分だが、クルマの「音」について会話がスタートしていることからも、豊田氏が「音」に対し並々ならぬこだわりがあることがうかがえる。

11月25日、レクサスは『GS F』を発売した。搭載されるのは5リットルV型8気筒エンジンで、最高出力477ps/最大トルク530Nmを発揮。スペックから超弩級のスーパーモデルだということが容易に想像できるが、速さだけでなくクルマとの一体感を高めるある特別な取り組みが行われている。

その一体感を高める取り組みが「アクティブサウンドコントロール(ASC)」と呼ばれるシステムだ。ASCは、エンジンや排気系から発せられる「原音」と、あらかじめプログラムされた「調整音」を融合させることで、車両から発せられる「音」を「情報」として強調し、車両状態の把握やクルマとの一体感を高める効果を狙ったもの。ASCは2012年に欧州仕様の『IS』のハイブリッドで初めて採用され、その後『NX』や『RC(北米仕様)』、『RC F』へと採用されてきたのだが、GS Fではこれまでのものに比べ、数段進化したものが採用されている。

◆「情報」としての「音」の役割

レクサスの音に対する取り組みは、同社のスーパーカー『LFA』に端を発し、当時、エンジン音をヤマハが、排気音をトヨタが担当。その官能的な音色は「天使の咆哮」と形容され、音の大切さを開発陣が痛感したという。その際、トヨタで音のチューニングに携わったのが、現在、トヨタ自動車 性能実験部に所属する林毅氏だ。

ASCは林氏が中心となり”調律”されたものだが、林氏によると、自動車の発する音には、

(1) 車両の加速・減速などの運動を知覚するための「統合運動知覚」

(2) アクセルやシフト操作によるエンジンや駆動系の状態と応答を知覚するための「音源知覚」

の2つの役割があるという。

まず(1)の「統合運動知覚」だが、GS Fでは、各ギアにおけるエンジンの回転数に応じて様々な「調整音」を細く制御。低回転でのV8エンジン特有のドロドロ音から始まり、回転数の上昇とともに、甲高くピュアな音色へと連続的に変化させ、(A)音色高まり、(B)目で見た景色の移り変わり、(C)体で感じる加速度、の3つを協調させることで“気持ちのいい加速感”を演出している。

さらに、ウェーバーやソレックスといったファンネルのついたキャブ車が発する、スロットルバルブを急開した際の「シュコッ」といった吸気音を”あえて”付加することで、クルマのレスポンス感を高め、ドライバーはよりクルマとの一体感が感じる演出も加えられている。

「私が二十歳ぐらいに胸躍らせて乗ったクルマにはみんなそのような(吸気)音があった。それを甦らそうという考え方でやっている」(林毅氏)

(2)の「音源知覚」はGS Fで最も進化したポイントだ。林氏は「『音源知覚』において音像定位が重要な意味を持つ」と述べる。GS Fでは、「調整音」を発する専用の特殊スピーカーが、フロントのインストルメントパネル上部と、リアシートバック後方に1つずつ配置され、フロントからはエンジンなどから発せられる機関音を、リアからは排気音を流し、エンジンの回転数に応じて前後の音の強弱を細く制御することで、音像定位が協調されるという。

これまで、クルマをより魅力的にするために自動車メーカー各社は「原音」に対しては様々なアプローチをとってきていたが、林氏は「『原音』では不可能な音響領域まで踏み込むためにレクサスではこのような技術(ASC)を積極的に採用している。音というものの美しさ、機械音としての美しさというものに純粋に取り組み、『原音』を生かしながらも、結果として、乗っている人にとって気持ちの良い空間を作ろうとしている」と話す。

◆クルマに「調整音」は必要か?

林氏に、人工的な「調整音」に対する抵抗感もある人がいるのではないかと訊いたところ「人工的な音が、良い悪いという問題ではないと考えている」との答えが返ってきた。

GS Fにはパワーモードスイッチが備わり、各モードで音の制御を変化させている。今日は疲れたから静かに走りたいという時には、「ノーマル」で、サーキットなどで気持ちを高めたい時には「Sプラス」で、といった場面場面に応じて使い分けられるのもASCのポイントである。

林氏は最後に「クルマの印象は、乗っている間に五感で感じる印象の積み重ね。楽器で一番なのは人間の歌声なので、私は最後はクルマに歌わせたい」と熱く述べたのが印象的だった。

音だけではいいクルマとは定義できないが、一体感を感じられるクルマは運転していて気持ちがいい。冒頭の豊田氏のセリフはTNGAに対するものであるが、レクサスインターナショナルは同氏の直轄組織。その音へのこだわりがレクサスの各モデルに注入されていても不思議ではない。豊田氏が常々口にする「もっといいクルマづくり」実現の1ピースに、音が占める割合は非常に大きいと言えるだろう。

《橋本 隆志》

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