紀里谷和明監督に人生相談してみる【後編】 恐れるなかれ!人生に特別なんてない!? | Push on! Mycar-life

紀里谷和明監督に人生相談してみる【後編】 恐れるなかれ!人生に特別なんてない!?

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『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督/photo:Naoki Kurozu
  • 『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督/photo:Naoki Kurozu
  • 『ラスト・ナイツ』 - (C) 2015 Luka Productions.
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  • 『ラスト・ナイツ』 - (C) 2015 Luka Productions.
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  • 『ラスト・ナイツ』紀里谷和明監督/photo:Naoki Kurozu
  • 『ラスト・ナイツ』 - (C) 2015 Luka Productions.
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15歳で渡米、カメラマンとしての成功、映画監督としてさらされた毀誉褒貶、結婚、離婚、ハリウッドでの最新映画『ラスト・ナイツ』制作。そして、そのプロモーションのために出演したバラエティでの発言が意外な話題を集め…。

まさに山あり、谷ありの人生を送ってきた紀里谷和明監督。そんな“しくじり先生”を講師に迎え、シネマカフェ読者から寄せられた質問やお悩みを元にした“人生の悩み相談室”の【後編】をお届け!!


<相談>
子供を私立の学校に行かせるべきか? 公立でいいか? 携帯はいつから持たせるべきか? 塾や習い事は? 子育ては選択の連続です。もしも、紀里谷監督にお子さんがいたら、どのような子育てをされますか?

――紀里谷流の子育てをお願いします。

紀里谷:まず、格闘技を習わせます。自分の身を守れる力――何かあっても、負けない“自信”を育ませます。でも、絶対に自分から相手に手を出したり、いじめたりしてはいけないということだけは徹底して教える。あとは自由ですね。

――シンプルであり、ある意味で古風ですね。これはご両親の監督への子育てをそのまま継承されているんですか?

紀里谷:そうですね。僕も幼稚園のころから空手を習ってました。まあ、自分でやりたくてやってたんですが。うちの父親に厳しく言われたのは「挨拶をしろ」、「約束を守れ」、「時間に遅れるな。もし遅れるなら連絡しろ」、「靴を揃えろ」――それくらいかな? あと、ケンカして負けてきたら家に入れないというのもありました(笑)。うちだけでなく、当時の親ってそんな感じでしたよ。ただ、空手に関しては、絶対に自分から先に手を出してはいけないって言われてました。あとは何をしてもいいけど、責任は自分でとれって感じで。

――中学生で単身アメリカに渡るって、いまでもまれですよね?

紀里谷:おふくろは躊躇してましたよ、さすがに。でも親父は「別に」という感じだったし、僕自身もそうでした。自分としては「このまま、この環境にいたらダメになる」という思いで、とにかく外の世界に出たかったんです。

――ご出身は熊本ですよね? 「外に出よう」と考えた時、東京ではなくアメリカに?

紀里谷:東京に行っても同じだろうって思ってましたね。それなら、アメリカ行って、もっとすごいことやってやる! って思ってました。親父も、そこで「じゃあ行けよ」という感じでした。そこは、息子を信じてくれていたわけですよ。子供の頃から、僕に真剣に向き合ってたし、必要なことは全て教えたという自負があったから、どんな環境に陥ってもコイツは生き延びるだろうって確信を持ってたと思います。

――小さい時から、そうやって自分で決断し、生きるということを叩きこまれてきたわけですね?

紀里谷:「迷子になったら周りに聞け!」「川に落ちたら泳げ!」。ひとりで生きていけるようにって常に教えられてて、家の電話だって、幼稚園のころから真っ先に僕に取らせるようにさせてました。荷造りだろうと準備だろうと、母親が手を出すことを嫌って、全て「自分でやれ!」という方針だったんです、周りの大人が、僕を子供扱いして助けようとすると「手を出さんでくれ」って言ってました。お子様ランチも禁止でしたね(笑)。

――監督も、もし自分が父親になっても同じ方針を?

紀里谷:戦国時代は15歳で元服して、一人前の大人として結婚したり、戦に出ていたわけですからね。その意味で、そういうキャパシティを子供は持っていると思います。ただ、それは周りがその子を子供扱いしたら、発揮されないですよ。以前、ある学校のセミナーに呼ばれて、その後に懇親会があったんですが、生徒のことについて、周りの教師や大人が「この子は…」って出てくるんですよ。だから僕は「いま、この子と話してるんだ!」って言いました。公立に行くべきか? 私立がいいかなんて、僕がエラそうに言えないけど、学校を選ぶ前の段階で、その子に対して向き合って「どう生きるべきか?」と考えさせる――そこまでやっていれば、その子は自分で選ぶようになりますよ。小さいころから「自分の責任でやりたことをやれ」と言われたら、考えるしかないですから。

<相談>
20代、30代のうちに、これをやっておけばよかったと後悔していることはありますか?
 もし、アドバイスとして、これはやっておいた方がいいぞ、と思うことがあれば教えてください。

紀里谷:何もない(笑)。悔いはないです。

――コンプレックスも(※【前編】参照)、後悔もない?

紀里谷:「あっちに行っておけば…」というのは、いまから振り返って言うことはできるかもしれないですよ。でも、自分がやらなかったことは、やろうとしたけど、できなかったことだという自負がある。そういう意味で後悔はありません。選択に関しては、その時にそれが最善だと信じて選んだんだから、しょうがない。それが、自分の判断ではなく、他人のアドバイスや決断で決めたのなら悔いは残るけど、それすらも結局、その時は周りの助言を必要としていたと言えるかもしれないし。その時は「失敗した」と思っても、10年経てば「よかった」って思えるかもしれない。「人間万事塞翁が馬」ですよ、本当に。局面ごとに真剣に考えて、本気でやろうとしたか? それだけです。

――20代、30代に向けて「これだけはやっとけ!」というアドバイスは?

紀里谷:んー……具体的にはないけど、「恐れるな!」「怖がるな!」かな? 僕が尊敬する澁澤栄一という人物は、明治期に日本の資本主義の基礎を作った人ですが、それこそ、外国の船に潜り込んで海外に行こうとしたり。僕もアメリカ行こうって思った時は、同じような気持ちだった。もし反対されても、何とか潜り込んでやるって。やっぱり、そこで多くの人が、恐れてしまうのはなぜか? それは子供の時から、損得勘定で考えることを教え込まれちゃってるからだと思います。

――実際、例えば映画を撮る時など“恐怖”は感じないんですか?

紀里谷:あります。(デビュー作の)『CASSHERN』がクランクインする時、「なんてことしてるんだ?」って思いましたよ。最初の企画段階は「全然OK!」とか言ってたのに(笑)、近づいてくると「すごい、大掛かりなことになってる!」ってビビって、クランクインして最初に寺尾聡さんに「アクション!」って声を掛ける時は震えてましたよ。でも、始まっちゃうと落ち着いて。やるしかないしですしね。その感覚は昔から体感として知ってました。

――知っていた?

紀里谷:そう。子供の頃に橋の欄干から、川に飛び込む遊びがあって。初めて飛び込む時はメチャクチャ怖くて、 でも、不思議なんだけど、一度やってしまうと、2回目以降はなんてことなくなっちゃうんですよね。その感覚は、大人になってからもずっとあるから、「最初は怖いけど、飛びこんじゃえば大丈夫だ」って思ってますね。

【質問】
これまでに経験した挫折やこれまでの人生の中で最も大きな出来事や体験を教えてください。

紀里谷:挫折はないですよ。挫折って、そう思うから挫折になるんだと思います。あきらめたってことですよね? 失敗はいっぱいあるし、あり過ぎますが(苦笑)! でも、挫折と感じたことはないですね。そもそも、そういう考え方自体が、損得勘定で動いてるから出てくる。よくないです。例えば子供の頃、年上の中学生の女の子に恋した時がありました。電話で「好き」って伝えたんだけど、向こうは「そういう気持ちはない」ってフラれちゃいましたが(笑)。その時は「なんてことしたんだ!」って思ったけど、いま考えると大したことないですよね? 大人になっても、大なり小なり失敗はあるけど、全部そんな感じだと思いますね。

――人生におけるもっとも大きな出来事は?

紀里谷:好きですねぇ(笑)、ターニングポイント! 何だろう…? (しばし思案し)「いつから○○なんですか?」って聞かれることも多いけど、わかんないですよね。何かひとつのことで、人生が大きく変わるわけじゃないんだなと思いますよ。

――写真家ということも踏まえて「いままで見た光景の中で、最も美しいと感じたのは?」という質問も来ていますが…。

紀里谷:その瞬間はね「きれいだな」って思うんですよ。でも、後になって見ると「別に…」ってなっちゃうんですよね、不思議なことに。だから「いま行きたい場所」とか「見たいもの」もないんですよね。

――仮にいま、臨終を迎えるとしたら、脳裏に浮かぶのはどんな光景でしょうか?

紀里谷:親の顔かな。親父とおふくろのことを思い出すと思います。前の“幸せ”の話もそうですが、「私の人生、あの時のあの出来事があったから幸せ!」ってことじゃないですよね? きっと。もっと総合的な意味で「幸せだったなぁ」とか思うものでしょうから。

――そろそろお時間が来てしまいました。最後にまとめと言いますか…

紀里谷:みなさんのお悩みや相談を聞かせていただいた上で、感じていることですが、そんなに「特別」なことなんてないですよ。この世に特別なものなんて、ハナからないです! 

――最後の最後でまた極論ですか…?

紀里谷:いや、これは本当に。「結婚」であれ「幸せな人生」であれ、みなさん、さも特別なもののように考え、追い求めていますが、それって実は特別じゃないんですよ。「これを経験すれば私は変わるかも」とか「○○に行けば何かが変わるはず!」とか思ってるかもしれないけど、そんな特別なものは存在しません。それを理解して生きていれば大丈夫ですよ。誰かが言った素晴らしい言葉で「特別であることが当たり前で、当たり前であることが特別である」というのがありますが、これに尽きると思います。
《photo / text:Naoki Kurozu》

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